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モヒカンの勇者 その後

「髪の毛、返せぇぇぇこらぁぁ!!!」


 怒りが爆発した俺は、即座に神官に掴みかかった。

 こんな理不尽な仕打ち、怒るなって方が無理だ。

 取っ組み合いの末、当然のように激しい口論へと発展する。


「ふざけんな!!何してくれてんだ!!」

「これも神の導きで……!」

「お前の神様は、モヒカンなの!?モヒカン神なの!?頭おかしいの!?」


 騒ぎを聞きつけたのか、神殿の奥から複数の神官たちが駆け付けた。

 そのまま俺は数人がかりで取り押さえられた。騒ぎを聞きつけたのか、神殿内から他の神官たちが殺到した。

 

 それでも俺の怒りは収まらず、暴れ続ける俺に対し、神官のひとりが精神を鎮める魔法を発動。

 ふっと力が抜け、怒りがスーッと消えていく。


 落ち着きを取り戻したところで、神殿の奥に案内され、そこで事情を説明する。


 そして、聞いたところによれば、あのバリカン神官は、三ヶ月前に中途採用されたばかりの新人だったらしい。

 あの見た目で、新米なんて紛らわしい。

 とはいえ、神官がいきなりバリカンで頭を刈りに来るなんて、誰が予想できる?

 

 さらに聞けば、彼の前職は理髪店勤務。

 しかし、どんな注文をされてもモヒカンに仕上げるという暴挙を繰り返し、クレームの嵐で解雇されたらしい。


「いや、なんでそんな奴を採用したんだよ!」


 面接官を連れてきてほしい。

 神殿の採用基準はよく分からない。

 だが、ここまでやらかしてる以上、すぐにクビになるのも時間の問題だろう。


 すべてを話し終えたところで、本当の神官長が現れた。

 事情を聞いた神官長は、眉をひそめて心から申し訳なさそうに頭を下げてくれた。


「この度は、本当に申し訳なかった」


 謝罪の後、側頭部の髪も治癒魔法で完全に元通りに。

 さっきまでスースーしていたのが嘘のように、ふわっと元の髪が戻る。


「治癒魔法、便利すぎない……?」


 さらにお詫びとして、ジョブチェンジを無料で行ってもらえることになった。

 だが、神官長に何度確認してもらっても、他の職業に就くことはできなかった。

 神官長も、こんなことは初めてだと驚いていた。


 大抵は、一般職と呼ばれる冒険者関係以外の職業に変更できるみたいだが、俺はそれすらもないらしい。

 こうなるとお手上げだ。


「俺は一生『ツッコミ勇者』なのか……」


 その結果に、俺は顔を覆いたくなった。

 真剣な顔で告げられる職業名が、どう考えてもネタ枠だ。

 

 ツッコミに全振りしたステータスでどう冒険しろというのか。

 魔王討伐なんて話にならない。

 俺をこの世界に転移させたヤツに文句が言いたい。


 ホント、何でツッコミなんだ……。

 考えれば考えるほど、どんどん気分が沈んでいった。


(こんなの、思い描いてた異世界生活と違いすぎる……!)


 最強スキルで敵をなぎ倒し、王女を助け、美女に囲まれてハーレムのお約束展開は?

 最終的には魔王を倒して、勇者として国民から大喝采——


 そんな夢のような展開は、どこへ?

 こんなのは、ただの笑い話だ。

 異世界転移したら、『ツッコミ勇者』になったなんて……。


 モルドの村人たちから期待され、盛大に見送られて旅立ったというのに、この有様だ。

 いまさらどんな顔して帰ればいいっていうんだ。


 ただただ、俺は現状に打ちひしがれていた。


 それから小一時間ほど悩み続けただろうか。

 昼もとうに過ぎたというのに、空腹感すら感じなかった。

 それくらい、頭の中は暗い思考で埋め尽くされていた。


 そんな中で、ふとひとつの革命的な考えが浮かんだ。


(よし。村に帰って農夫になろう!)


 美味しい野菜を育てて、世界の食料問題を解決するんだ。

 栄養満点のナスを食べれば、醜い争いなんて起きなくなるはずだ。

 魔王だって、サラダを食べて健康になれば、考えが変わるかもしれない。


 ——と、魔王がサラダを笑顔で頬張る姿を想像した時点で、自分の思考が末期に達しているのを実感した。

 それでも、この世界に来た意味を、何かしら見つけたかった。

 

 存在理由がほしかった。

 期待されたのに、何もできませんでしたじゃ終われなかった。


 決意を固めた俺は、すぐさま村に帰ることを決めた。

 言い訳はあとで考えよう。とにかく、もうここにはいたくない。


 貰った旅費を無駄にするのも嫌だったので、案内人を頼まず、自力で帰ることにした。

 一応、運動部だった過去もあるので、脚力にはそこそこ自信がある。


 俺はすぐさま町を後にした。


 町を出てしばらく歩くと、前方に見覚えのある森が見えてくる。

 この森を越えたら、モルド村だったはずだ。

 視界も悪く、モンスターの襲撃リスクもあるが、日が落ちる前なら何とかなるだろう。


 ありがたいことに、森の中には『モルド村へ』と書かれた案内板がいくつも設置されていた。

 それを辿れば、迷うことはなさそうだ。


「異世界農夫王に俺はなる……」


 俺はそう呟きながら、一歩一歩を噛みしめるように森へと足を踏み入れた。 


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