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最凶と宿屋

 今度こそ、本当に道場を出る。

 出るとはいえ、ずっと外にはいたのだが。

 俺が修行していたのは、ツッコミ道場の裏側だったので、正面側へと向かったのだ。

 

 ビリー師匠には、簡単な挨拶だけ済ました。

 すると、師匠にまた来るように言われた。

 俺は、気が向いたらまた来ようと思う。

 他のスキルを覚えたいからだ。


 ちなみに【夢オチかよ!】のスキルは、結論からいえば残念なものだった。

 効果は、攻撃力を1.5~3倍まで上げることができるのでそれだけ見ると強いのだが、発動条件が特殊すぎるのだ。

 まず敵から、魔法や攻撃で眠らされる。

 そして、寝ているときに夢を見る。

 その夢が自分にとって、現実から離れ意外性のあるもので、夢から覚めた際に即時に相手に反撃を行っていた場合に使えるのだ。

 なので、夢だったと気づいてから時間が経っていれば何の効果も発揮しない。

 はっきり言って、使用条件が厳しすぎた。

 通常時に使えないこのスキルでは戦うことは不可能なのだ。


 俺は、ツッコミ道場の玄関前までやってきた。

 隣の道場を見ると、すでに3人は集まっていた。


「あなた、いつまで待たせるつもりなの?」


 俺が来るまで、だいぶ待っていたのかヴェーノはかなり不機嫌なようだった。

 だが、俺にはまた夢なんじゃないかという不安がよぎったためそっちの方が怖かった。


「夢じゃないよな?」

「はあ?何言ってるの?寝ぼけてるの?」

「ヴェーノ、一発殴ってくれ」

「急に何よ?気持ち悪いわよ」


 俺は、ヴェーノに一撃をお願いした。

 夢じゃないことを確かめるためだ。

 ヴェーノのあの強烈な一撃に耐えられるようなら、これは夢じゃない。


 ヴェーノは少し引いていたが、やがて拳を構えた。

 そして、俺はヴェーノから思いっきり殴られた。

 その勢いで2メートルはぶっ飛んだ。

 身体中には、強烈な痛みが走る。

 やはり、夢では無かった。

 俺は思わず笑みがこぼれる。


「いってええ!!でも、夢じゃない!良かった!!」

「な、なに喜んでるの?新しい病気なの……?」


 喜んでいる俺に、ヴェーノは引いていた。


「レイジさま?!」

「大丈夫だ」


 心配したリリスが近寄ってきてくれる。

 リリスに笑顔を向ける。

 だが、俺の笑みの端には血が垂れていた。

 そして後から、ロアも付いてきた。


「レイジさん、ずっとどちらにいたんですかっ?姿がどこにも見えませんでしたよっ」

「ああ、隣のツッコ……、家の方でな。修行を」


 ロアに何をしていたのか聞かれ、正直に答えそうになってやめた。

 ツッコミ道場にいたなんて、恥ずかしくて言えるわけがない。

 話題を遮るために、思いついた質問する。


「そういえば、みんなの修行はどうだった?」


 思いつきの質問だったのが、ここで1つ当たらな疑問が生まれた。

 あれが正夢だったのではないかということだ。

 もし、正夢なら3人の修行成果は滅茶苦茶なものになるはずだ。

 なので、ここで3人の修行成果を確認しておく必要がある。


「リリィは、普通の魔力強化の修行でしたよ!」

「私は、特に何も無かったわね」

「私も同じですっ!何もありませんでしたっ」


 3人はそれぞれ答える。

 やっぱり何も無かったんだな。

 俺は、安堵する。

 やはり、夢は夢であるようだ。


 この時の俺は、全く気づいていなかった。

 この中に、嘘をついていた人物がいたことを。


「レイジさまは、どうでした?」

「俺は厳しい修行だったよ。おかげで身体中が痛くて大変さ」

「はい、回復魔法っ」


 ロアが、俺に回復魔法をかけた。

 途端に身体中の疲労感が無くなる。


「ああ!!!何するんだよ!」

「ええっ、だってレイジさんが疲れてると思ったからっ」

「そんなことしたら、筋トレした意味がなくなるだろ?!」


 ロアの奴め、とんでないことをしてくれたな。

 筋トレは超回復によって、筋線維が強化されるものだ。

 それなのに、超回復する前に魔法で元の筋肉状態まで治してしまったら意味が無い。

 ロアのせいで俺の1日のトレーニングの意味が無くなってしまった。

 今日1日の頑張りはほとんど無に消えた。

 俺はロアを呪った。


「今日はもう終わりだな。明日は、クエストに行こうと思う」

「へえ。活躍できるようになったの?」


 ヴェーノがバカにするように聞いてきた。

 俺は、何も答えない。

 本来なら筋トレによって、強くなった俺が活躍するつもりだったのに、ロアのせいで台無しになってしまった。

 なので明日は、ロアに無理やりにでも戦わせよう。


「とりあえず、今日はもう解散だ」


「リリスちゃん、今日も一緒に寝ましょうね?」

「ダメです!」


 ヴェーノが、リリスを誘うとすると、リリスは大きな声で断った。

 どうしたんだ?

 喧嘩でもしたのか?

 この光景は、昨日も見たが、昨日は一緒に寝ていたはずだ。

 それなのに、リリスが断るなんて何かあったんだろうか。


「ヴェーノさま、今日はレイジさまと二人で泊まってください!」


「「え!?」」


 俺とヴェーノは同時に驚く。

 リリスは急に何を言い出すんだ!

 俺はリリスの意外な発言に言葉を無くす。

 ヴェーノも俺のことをものすごい形相で睨んでいた。

 俺は何もしていないんだが……。

 これも昨日と同じ光景だ。


「お二人はよく喧嘩していますよね。さっきもそうでした!リリィはお二人には、もっと仲良くしてほしいです!」

「確かに喧嘩はするけど、一緒に泊まらなくても……」

「そうよ。こんなゴミ虫と泊まるなんて死んでもいや。リリスちゃん、今日も私と一緒に寝ましょ?」

「ダメです!リリィは決めましたから」


 リリスの意思は固いようだった。

 一体リリスに何があったというんだ。

 もしかして、道場で何か言われたのだろうか。


「リリスちゃんはどうするの?」

「リリィは、一人で泊まります!リリィだって子供じゃありませんから!」

「それなら、私が……」

「絶対にダメ。すぐに斬るわ」


 ロアがリリスと一緒に泊まる宣言をする前に、ヴェーノが口を出した。

 どれだけ嫌なんだよ……。

 そんなヴェーノが、俺と二人で寝泊まりできるはずがない。

 第一、俺の命が危ない。

 それに、ヴェーノだってここは最後まで抵抗するはずだ。

 そうなるだろうと思っていたのに。


「分かったわ!リリスちゃんがそう言うのなら、この男と同じ部屋に泊まるわ」

「待て、待て。なんだよそれ!なんでそこで考えを変えるんだよ!あれなの?リリスが死ねと言えば死ぬのか?」

「死ぬわ!」

「即答かよ!!」


 これはマジだ。

目がマジな人の目だ。

 もし、俺が断ろうものなら、即切られるだろう。

 一緒の部屋に泊まっても斬られそうなのに。

 もう俺には斬られる選択肢しか見えなかった。


 そうだ!

 ここである妙案が浮かぶ。

 リリスも一緒の部屋に泊まるわけじゃないんだ。

 こっそりと別々の部屋に泊まればいい。

 多分、ヴェーノもそう思って言ったんだろうな。


「分かったよ。リリスの言う通りするよ。チームとして仲良くしなければいけないのは分かるからな」


「あの、レイジさん……。私はどうしたらいいんでしょうかっ……?」


 そこで、ロアが心配そうに聞いてきた。

 本当に何も出来ないんだなと呆れつつ、俺はポケットから取り出した鍵を渡す。


「これは宿屋の鍵だ。もう部屋も取ってあるからここに行け」

「だから、朝に出かけておられていたのですねっ!なんてお優しいっ」


 ロアは喜んでいるが、これは一緒に寝たくなかったからだ。

 まあ、喜んでいるならそれでいいだがな。


 俺は、とりあえず今後のことをヴェーノと話し合わなければならない。

 なんとしても、今日も安眠を守りたい!


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