表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/61

憧れの異世界にやってきました

 異世界に召喚された。

 剣と魔法が支配する世界。選ばれし勇者は、魔王を討伐するために呼ばれるという。

 ――そして、俺がその勇者だ。


 ……の、はずだった。


「ステータスを確認しますね! 勇者様のスキルは……っと、どのステータスも平凡で、『ツッコミ』だけ:Lv999のカンスト!? ……以上ですね」


「おい待て待て待て!」


 こんなのはきっと何かの間違いだ。


◼️◼️◼️


 それは、突然の出来事だった。


 ついさっきまで、俺は文化祭の演劇練習中だった。

 主人公役に初挑戦――しかもヒロイン役は、クラスのアイドル・小鳥ちゃん。

 夢の舞台を目前に、俺の人生は異世界へぶっ飛んだ。


 地面に突如現れた魔法陣。

 まばゆい光に包まれ、目を開けると、そこは見知らぬ大地だった。


 いや、テンプレすぎるだろ!

 これ、完全にラノベかアニメの世界じゃねぇか!


 信じられない話だが、事実だから仕方がない。

 クラスメイトもさぞ心配してるだろう。……してなかったら泣いちゃう。


 あ、自己紹介がまだだったな。


 俺の名前は、西見にしみ 玲人れいじ

 17歳。

 偏差値は聞くな。恋人関係も聞くな。

 

 とにかく俺は、ごく普通の高校生――のはずだった。

 それが今では、訳も分からず異世界をさまよってる。


 準備も覚悟もゼロ。パンツすら替えを持ってこられなかった。

 転生するなら事前にメールかLINEで教えてくれっての。


 しかも俺、転生じゃなくて転移っぽい? 車にも刺客にもやられてないんだけど?


……もし召喚者に会えたら、盛大に文句言ってやる。

 

 しまった、つい愚痴が長くなった。


 異世界に転移した当初こそ、驚きや戸惑い、そして怒りで軽くパニックだった。

 だが今は――ワクワクが止まらない!


 なんたって、憧れの異世界ライフである。


 目に映るのは、絵本の中から飛び出してきたような草原や森。空には二つの月。

 きっと、ここには未体験の料理や、人間とは違う種族、そして――


(絶対、獣耳の美少女に会えるはず!)


 胸の高鳴りはすでに最高潮。これから始まる大冒険を思うだけで心が踊る……!


 ――いや、文字通り“踊らされていた”。


「さあ、舞え!舞え!今日は勇者様の生誕祝いだ!!」

「宴じゃあああ!!」

「踊らんかい! 勇者ァ!!」


 現在の俺は、小さな村の広場で、ど真ん中に立っていた。

 肩には段ボールの剣、胸にはペラペラの布鎧。

 文化祭の演劇用に用意した“勇者コスプレ”が、どうやらこの世界ではリアルに見えたらしい。


 当然、村人たちはこう思った。


(神話にある伝説の勇者、その再来に違いない!)


 ……やめてくれ、その神話の信頼度、軽すぎない?


 そんな誤解のまま話は進み、夜には宴が始まり、俺は主役として盛大に祭られることに。

 ありがたいけど、話が早すぎる。


 今は――謎の伝統舞踊に、センターでガッツリ参加中である。


 断りたかった。心から。

 だが村人たちの目は、ガチすぎた。ひとことで言うなら“刀鍛冶の目”だった。


 踊り方はシンプル。

 左手を下からすくい上げるように胸の前へ出し、数回揺らす。


 これだけだ。

 ただ、それを村人と一緒に、無言で、全力で、一時間続けている。


「いや、これ完全に……霜降り明星・粗品のツッコミだよね!?」


 魂の叫びもむなしく、村人たちは満面の笑顔で同じ動きを繰り返している。


 こうして、俺の異世界生活は、華々しく始まるのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ