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亡国の少年は平凡に暮らしたい  作者: くー
嫉妬
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少年は友達になった

 お昼前に工房に戻って来ると、アドルが憮然とした表情で二人を迎えた。


「お前、まだ居たのか」


 レヴィが負けじと不機嫌そうな声で答えた。アドルは一瞬傷ついた顔をしたけれど、すぐに笑顔を作った。


「一緒にお昼ご飯を食べたいなと思って」

「食ベヨ!」


 レヴィとロムは露骨に嫌な顔をした。それを見て、アイラスは残念そうな顔をした。


「レヴィ、アドル嫌イ?」

「んなこたぁねえけどさ」

「ジャア、好キ!?」

「んなわけねーだろ!」


 アドルはレヴィの返事に一喜一憂している。あれ? と違和感を感じた。

 みんなから離れて複雑そうな顔をしているトールに近寄り、小声で聞いてみた。


「アドルって、もしかして、レヴィの事が……?」

「まあ、そうじゃな」


 大きくため息をついて、その場にしゃがみ込んだ。頭を抱えて呟いた。


「トールにもわかるような事なのに、気づいてなかった……」

「どういう意味じゃ!」

「あ、いや別に……」

「まあ、わしも自分で察したわけではない。本人から相談されただけの事。アイラスは最初から分かっていたようじゃがの」

「なるほど……」


 その事実を知ると、アドルに対する印象がまるで変ってきた。そんな些細な事で人を見る目が変わるなんて、自分はなんて器が小さいんだろうと自己嫌悪した。


「アイラスがアドルと仲良くしていたのは、応援してたからなのかな」

「そのようじゃ……ん? おぬし、嫉妬しておったのか?」

「えっ、違……いや、どう、なのかな……。よく、わからないよ……」

「アドルは逆に、おぬしに嫉妬しておったぞ。レヴィに構ってもらっておると。色々上手く回らんものじゃの」

「なんか……誤解してた。悪い事したなぁ」


 ふと考えた。アドルの恋は実る可能性があるんだろうか。

 歳の差以上に、身分の差が大きいんじゃないかと思う。アドルは貴族で、レヴィは保護区出身の平民だ。保護区出身者でも、街の名を与えられた者はエリートではあるが、それでも貴族には比ぶべくもない。

 アドルの家柄はどの程度なんだろう。彼は姓を名乗った事がない。そんなに位が高くない貴族だと、平民の妻を娶ったという話も聞かなくはないし、可能性はあると思う。


 いや、待て待て。レヴィが結婚するとか全く想像ができない。貴族みたいにドレスを着るレヴィなんぞ、悪夢だ。

 そもそも思いが通じるかっていう話だ。現時点でレヴィは、アドルを胡散臭いと思っているようだし、彼は相当努力しないといけないだろう。


「……何を笑っておるのじゃ」

「何でもない……」




 食事を終え、工房の外で弦楽器の手入れをしていた。ロムが歌うと思ったのか、トールも一緒に座っていた。

 そこへ、アドルがとぼとぼと出てきた。


「……どうしたの?」

「レヴィさんが、目障りだから出てけって……」

「あ~……」


 ぺたんと隣に座り込んだ。意気消沈とはこの事だ。ロムとトールは、顔を見合わせて肩をすくめた。


「あのさ……レヴィに、隠し事しない方がいいよ。あの人、そういうの大嫌いだから。俺達も初めて会った時、大変だったんだ」

「言えないよ……言ったら会えなくなる。嫌われたままだとしても、会える方がいいから……」


 アドルの秘密とは何なんだろう。でもロムにも隠し事がある。それを棚に上げて責める気にはならなかった。


「どうして」


 好きになったの? とは聞けなかった。多分、理屈じゃないんだろうと思う。ロムにはそういう気持ちは、まだよくわからなかった。

 質問は途切れたけれど、アドルはゆっくり話し始めた。


「城にね、一枚だけレヴィさんの絵があるんだ。随分前に納品されたものだけどね。……初めて見た時、こんな素敵な絵を描くのはどんな人なんだろうって思ったんだ。てっきり、男の人かと思ってたけど」


 当時を思い出しているのか、アドルは少し微笑みながら話を続けた。


「そうしたら、画商が連れてきた画家は女の人で。本当に、驚いた……」


 そこで、言葉を切る。眉間にしわを寄せて考えている。それから、困ったような顔で笑った。


「わかんないや。思い出せない。気づいたら、好きになってた」

「そっかぁ……」


 何か、手伝える事は無いだろうか。誤解していたという罪悪感もあって、ロムはアドルの助けになりたいと思っていた。我ながら調子のいい話だとは思うけれど。


「レヴィがおぬしを嫌っておるのは、信用問題ではないかの。おぬしが何かを隠しておると、レヴィは気づいておる。隠し事をする者は信用できぬという事であろう」


 アドルは、絶望したように目を閉じた。


「だったら、周りから固めていこう」

「……どういう意味?」

「俺とトールとアイラスで、アドルを信用しているところをレヴィに見せつけるんだ。俺達が全員そうだとわかれば、見る目も変わるかもしれない」

「なるほどのう」

「だからまず、俺達が友達になろう。トールもいいかな?」

「構わぬ」

「あ、あの……! ありがとう! 僕に出来ることがあったら、何でも言ってね!」

「気にせんでよいぞ。ロムは罪悪感から、おぬしの助けになりたいだけじゃからの」

「罪悪感? 何それ? 何も悪い事してないでしょ?」

「……何でもない。トールは余計な事言わないで」


 今までのアドルへの態度を思い出すと幼稚で恥ずかしい。彼がそれに気づかなかったのは幸運だと思った。

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