表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
144/233

少年は嬉しい(絵有)

 ロムが見守る中、アイラスはため息をついた。そして、意を決したように顔を上げた。




「……ロムに、嫌われたかと……思っちゃって」




 拍子抜けして、笑みが漏れた。アイラスの顔が、みるみる赤くなった。


「笑わないでって、言ったじゃない!」

「ごめんごめん」


 そう言っても、顔が緩んで仕方がなかった。ただ、嬉しくて嬉しくてたまらなかった。




 ロムは笑いをこらえながら、さっきは座れなかった彼女の隣に腰を下ろした。横からはキツい視線が注がれている。


「ごめん。アイラスの事を笑ってるわけじゃないんだ。俺、嬉しくて……」

「嬉しい……?」

「アイラスは、俺よりザラムの方が好きのかなって……心配だったから」

「エェッ!? な、なんで、そうなるノ? そ、そりゃあ、ザラムも好きだけど、ロムを好きな気持ちとは、意味が全然違うヨ!」


 好きだと、アイラスの口からはっきり聞けた。それだけの事が、とても嬉しかった。




 でも今、そのアイラスにジト目で睨まれている。

 困った。どうやって機嫌を取ればいいか、さっぱりわからない。嬉しすぎて、申し訳ないと言う気持ちが微塵も湧いてこない。




 ふっとアイラスの目が優しくなった。


「ホントにロムは、ロムだよネ」

「何それ」


 笑いながら言うので、ロムも笑いながら返事をした。




 アイラスが、ぐいと身体を近くに寄せて、顔を覗き込んできた。彼女の顔が近すぎて、息が止まった。


「ロム。ロムはカッコいいヨ」


 意味がわからず、すぐに返事ができなかった。理解すると、顔が火照ってきた。




「え……で、でも……ザラムの方が、カッコ良くない?」


 恥ずかしくて顔をそらそうとしたら、アイラスが両手でロムの頬を包み込んだ。向きを直され、また彼女の顔が迫ってきた。さっきより近い。近すぎる。

 甘い香りがして、頭がクラクラしてきた。まともに受け答えができそうにない。




「ザラムもカッコいいよネ。でも私は、ロムが好き。ロムの顔も、明るい金髪も、蒼い目も大好き」


 自分の目の色なんて忘れていた。鏡なんて、まともに見ない。そういえば、蒼いと言われた事がある気がする。

 アイラスが好きな色なのだとしたら、蒼で良かったと思う。




 頭は固定されて動かせないけれど、視線だけ何とか外した。そして、乾いた喉から声を絞り出した。


「で、でも……俺の髪は、色が薄くて……はっきりしないと、思うけど……」

「私は好きだヨ。太陽の色みたい」


 アイラスの指がロムの髪を梳いた。指先は優しくて気持ち良い。思わず目を閉じた。閉じたまま、回らない頭で必死に言い訳を考えた。




「か、顔は? 傷痕もあるし……俺には、いいとは、思えな……」


 言い終わる前に、傷痕のまぶたの部分に柔らかくて温かい何かが触れた。

 驚いて目を開けると、目の前に唇があった。


 ゆっくりそれが遠ざかり、中腰になっていた彼女は、岩に腰を下ろした。頰から手が、髪から指が離れていった。


 思考がグラグラと揺れて、目が回るような感覚に陥った。どう反応していいか、わからない。顔がとても熱かった。




「前にも言ったでしょ? その傷痕もカッコいいヨ」

「な、なんで……?」

「わからない? ロムが好きだからだヨ。ロムの物は、全部好きになっちゃうノ」


 笑顔がとても色っぽいと思った。年下には見えない。いや、『知識の子』に肉体年齢は意味がない。アイラスは生まれて一年にも満たないけれど、その心は多分年上だ。

 自分が翻弄されているように思えてきた。いつから彼女は、こんなに積極的になったんだろう。女の子って怖い。




「でもロム。なんでザラムと比べるノ? アドルの方が美人じゃない?」

「それは……そうだけど……ザラムの髪とか、目がいいなって……」

「黒が好きなノ?」

「うん……」

「ザラムは本当は白いんだヨ。なんで、黒くしてると思う?」

「『神の子』である事を隠すためじゃないの?」

「それだったら、何色でもいいじゃない。ザラムが、自分では見えないのに、黒を選んだ理由、わかる?」


 そんな事、わかるわけない。

 アイラスがそれを聞いてくる意味も、ロムにはわからなかった。




 しばらく返事を待っていた彼女が、優しく微笑んだ。


「ミアの色だからだヨ。ザラムが大好きなミアの色だから、黒にしてるんだヨ」

「じゃあ、俺が黒を好きなのは……」

「好きなのは?」

「……言わなきゃだめ?」

「言って欲しいなぁ」


 きっとアイラスは、この答えを知っている。知っていても言わせたいとか、すごく意地が悪い。

 でも、それが嬉しいと感じる自分も居る。くすぐったいような気持ちで、口を開いた。


「アイラスの、色だから……」

「私がロムの全部を好きな理由、わかった?」

「……うん」




 どうしよう。アイラスがとても愛おしい。彼女に触れたくて仕方ない。触れたらどうなるか、わからなかった。自分を制御できる自信は、全くなかった。


 早く誰か戻ってきて欲しい。いや、誰も戻って来なければいい。ずっと二人で居たい。相反する想いが、ロムの中で争っていた。






「あ、みんなが戻ってきたヨ」


 アイラスが嬉しそうに言って、岩から立ち上がった。ロムを振り返った顔は、いつもの無邪気な彼女だった。




 ロムの心臓は、まだ落ち着いていなかった。

挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ