Resurrectio duo:Der Chorus mysticus / Walk thorough shiny somewhere over(第二の復活:神秘の合唱 / 光る彼方へ)
海辺で水を跳ね上げ虹を作っていたユキは、砂浜から不思議なカプセルを見つけた。
「なんか見つけたんか?」
キイツは、ユキからカプセルを受け取ると、印字を読み上げた。
「F・A・L…なんやろ?」
「ボトルメールかな? 回してみるか」
カプセルを回すと、中から出てきたのは、小さなチップだった。
「それは、まさか!」
アクアは驚いてキイツの手からチップを取り上げて、自らのPCにつないだ。PCはチップのデータのインストールを始めた。
インストールが終わると、ふわふわのハヤブサのアバターが飛び出てきた。
「やはり、コルプス、あなたなのですね…」
アクアの目から涙が一滴、零れ落ちた。それと同時にコルプスの声が聞こえてきた。
「ほんまや。コルプスさんの声や。何言ってるか分からんけど」
「イタリア語ですからね。FAL、日本語字幕を付けてください」
その命令と共に、字幕が付きキイツにも話している内容がわかるようになった。
「ちゃんと聞こえているだろうか。まずは、このカプセルを拾ってくれた君に感謝を示したい。
状況説明をしている時間はないので省くが、私は間もなく死ぬ事になる。
この記録を、ローマに住むアクア・ディエスという人物に届けてほしい」
もう二度と聞くはずのなかったコルプスの声で、私の名前が呼ばれて、更にアクアは涙をこぼした。
「ちなみに、このシステムは私が考えて搭載したのだが、アクアには内緒にしていた。「こんなこともあろうかと」と言いたかったのだが…。
いや、それは冗談として、この航海の最終日に、密かに海中に放つつもりだった。
GPSの目的地は、神戸に設定してある。アクアと共に、日本を周った後の最後に、見つけて驚かせるつもりだった。だからこそ、無線のビーコンは、CQDを用いた。
だが、本当に、これを使う事になるとは…。無事、神戸に辿り着ける事を祈るしかない。
手紙を書き始めてからしばらくしてから思い出して、最後の方に書いたのだが、アクアは気づいただろうか」
アクアは、その潮にまみれて傷だらけのカプセルを改めて見回した。それは、あの日、パンドラの箱の中から飛び出した最後の希望だった。
「これがあの時のCQDの発信源だったのですね。あの信号がなければ、キイツ達を見つけられなかったでしょう」
「そうやったんか。また、コルプスはんには助けてもらったんやな…。ほんまに感謝やで…」
そして、音声は再び続けた。それは、Cor Cordium Corpus(コルプスの心の中)の真実を告げていた。
「そういえば、あの書きかけの論文について、結論がまだだったのでここで語っておきたい」
「結びになるが、二つの文化は、対立し続けるだろう。しかし、きっと、両者の衝突の果てに見えてくるものがある。
至近な例であるが、私の知人であるアクア氏とキイツ氏は、文系と理系という全く反対の人物である。
けれどもその対立を越えた先に、理解があるのだろう。
昔、もらった手紙で、詩人クリスが残した詩を引用しよう。
冬の虹
The Winter rainbow-
冷えし七色
Into cold seven colors.
分けれない
I cannot unweave-
見つめる二人
The pair staring each other
光る彼方へ
Walk thorough shiny somewhere over
虹は一人ではくぐることは出来ない。しかし視点の異なる二人がいればくぐる事ができる。
そして、二人の様な同じ大きさの異なるベクトルが存在してこそ、対称性(Symmetria)は成立する。
そうきっと、その先にこそ、未来があるのだろう。
だからこそ、ゲーテの有名な言葉の代わりに、こう言って締めくくろう。
Das Ewig-Symmetrie
永遠に対称なるもの
Zieht uns hinan
我等を引きて往かしむ」
そして、録音は終わった。しかし、そのあとから、今は亡きクリスとコルプスの神秘の合唱が聞こえてくるようだった。
Alles Vergängliche
一切の無常なるものは
Ist nur ein Gleichniß;
ただ影像たるに過ぎず。
Das Unzulängliche
かつて及ばざりし所のもの
Hier wird’s Ereigniß;
こゝには既に行はれたり。
Das Unbeschreibliche
名状すべからざる所のもの
Hier ist es gethan;
こゝには既に遂げられたり。
Das Ewig-Symmetrie
永遠に対称なるもの
Zieht uns hinan
我等を引きて往かしむ
Faust: Der Tragödie zweiter Teil
ファウスト:悲壮戯曲の第二部
Chorus mysticus
合唱する深秘の群
Johann Wolfgang von Goethe
ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ
森鴎外訳
Finis
完




