By John Keats "Lamia" (ジョン・キーツ『レイミア』より/さらば)
「海見とっておもろい?」
誰もいないはずの隣から話しかけられて振り向くとユキがいた。
自分は、いつもの海浜公園で海を眺めながら過去を思い返していたのだった。
「昔はおもろかったんやけど、今はどうやろうか…」
かつて、クリスといたときは何を見ていても面白かった。しかし、そんな感慨に関係なく、ユキは話し始めた。
「そういえば、国語で習ったんだけど、稲むらの火って知ってる?」
自分は驚きながらも、ユキに詳しく内容を話した。
「と言っても、ほとんどある人の受け売りやけどな」
ユキは、期待に目を輝かせた。
「それって、前会ったアクアさん? 今日は一緒じゃないん?」
「…ああ。少しの間、一緒に仕事をしていただけやからな」
「そうなん。今度はいつ会えるん?」
「…もう二度と会わないやろ。…喧嘩して別れたからな」
その言葉にユキは驚いた。
「また、アクアさんを怒らせたん?」
「いいや。自分の方が怒ったんや。…元から分かり合えるわけなかったんや。アクアは別世界の人だから」
ユキは呆れた調子で言った。
「アクアさんはキイツに怒ったけど許してくれたのに、何でもう一度話そうとしないん?」
「色々あるんや。ほっといてくれや。友達とでも遊んだらええ」
ユキは、不機嫌そうな顔をして黙って、自分の視界から消えた。
また一人物思いに沈んだ。
広村堤防でアクアは怒りながらも付き合いを続けたのに自分は逃げた。
今度は自分が怒ったが、もう一度、アクアに会うべきなのだろうか。
でも、もうクリスの残した詩を失いたくなかった。
うなだれた自分に、冷たい水が浴びせられた。
「だぼ。色んな色があって当たり前やん。だから話し合って理解するんや」
そこには、ホースを持ったユキがいた。
ホースから流れる自ら出来た虹を見て、あの日、クリスが言った言葉を思い出していた。
「虹が消えたなら、またつくればいいんや」
そうだ。虹が壊れてもまたつくればいい。災害に襲われても、この神戸が復興した様に。
そういえば、ここの松はあの時から、青葉を巡らし続けている。地の揺らぎにも総てを飲み込む波にも屈することなく。
もう一度アクアと話してみよう。
「ユキ。ありがとう。もう一度、アクアと話してみるわ」
「アクアさん、どこにいるん?」
「ホワイトアイルにいはずや。そこの量子コンピューターで研究してるからな」
「ホワイトアイルって、アルカディがある所やん! 一度行ってみたかったんや! せや、キイツだけでは心もとないから、一緒に行ってあげよう」
ユキは恩着せがましく言った。
「本当は自分が行きたいんやろ?」
自分には、ユキの笑顔が虹のように輝いて見えた。




