Book 2:Into cold seven colors / 冷えし七色
自分は、勇気を振り絞って燃えさかる家に飛び込んだ。
「クリス! どこにいるんや!」
叫びながら、家の中を探した。
ある部屋で人影を見つけたが、それはすでに亡くなったクリスの両親だった。
恐怖をどうにか押さえつけて、クリスの部屋へ向かった。
「…キイツ?」
声がした方を振り向くと机の下で縮こまるクリスがいた。
「クリスか? …そこにいたんか! よかった無事やったんやな」
そういうと、自分も机の下に入り込んだ。
「イタリアの友達に手紙を出しにポストに行ったら、家が燃えてて戻ったんや!」
「なんで戻ったんや」
「これだけは燃やしたくなかったんや」
クリスが大切そうに手に持っていたのは緑色のノートだった。
「とにかく、ここから出るんや!」
自分は、クリスの手を取り机の下から出ようとした。その瞬間、天井が落ちてきて行く手をふさいだのだった。
自分には分かった。もうこの炎から逃れるすべなどないのだと。
自分はクリスの手に持っていた緑色のノートを見て言った。
「なあ、あの詩を読まへん?」
「あの詩?」
「ほら、前読んでくれた自分のニセモノの書いた、エンディング・マンみたいな名前のやつや」
「…エンディミオンのこと?」
クリスは笑った。
「そう、それや!」
燃え盛る炎の中、二人で、詩を呟いた。
A thing of beauty is a joy for ever:
美しいものは永遠の喜びだ
Its loveliness increases; it will never
それは日ごとに美しさを増し
Pass into nothingness; but still will keep
決して色あせることがない
二人は、互いの手を握り、詩を読み続けた。
熱くても、目が開けられなくなっても、喉が焼け爛れて声が出なくなっても、心の中では詩を読み続けた。
業火が町を部屋を覆い尽くし、全てを灰に変えても、二人の心の心(Cor Cordium)は、決して灰にはならなかった。
燃え盛る炎のなか、握りあった二人の手に結ばれていたミサンガが切れた。二人の夢は叶い、永遠の詩人と画家となった。
…これは夢。
あの時、炎の中に飛び込んでいれば良かったと思った夢。
けれど、それはもっとひどい悪夢でしかなくて…
自分は、夢から目覚めなくてはならない。




