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LexⅠ:Inertia(第一法則:慣性)

2011/X/XX Rome Italy



だが、いつまで待ってもコルプスはこなかった。

私も松も一人なのだと気付いた。


Aquis submersus(水に沈む)、Aquis submersus(アクアに沈む)と、私を苛む波の音に促され、私は自らの罪を刻んだ。


C.A.A.S.

Culpa Amici Aquis Submersus

友の罪により水に沈む



それからの記憶は、あまりはっきりしていない。

多分、松にもたれかかったまま意識を失った私を、誰かが見つけて避難所まで連れてきてくれたのだろう。

それから避難所で過ごす間、周囲の人々は色々と話しかけてくれたが、私は何と答えたか覚えていない。日本の人々は、外国人の私を多少気遣っていたのかもしれない。


だが、その優しさが辛かった。きっとコルプスがいたら、すぐに人々と打ち解けていたのだろう。でも打ち解ける事なんてできなかった。あなたの事を思い出してしまいそうで。


その内、イタリアからきた救助隊と共に、私はいつの間にかローマに戻って来た。

戻ってから大学の知人にコルプスの死を話す事は辛かった。

多くの人が観測してしまえばしまうほど、死の確実性が強まるから。



あなたを殺したのだから、罰を受けるだろう。しかし、誰も私を責めなかった。

人々がかける言葉は、表現や過程こそ少し異なるが、結論は経路積分の様に等しかった。

「君だけでも助かってよかった。あれは事故だから、君に責任はない」

彼らが善意で言っており、他に掛けるべき言葉があまり無い事は分かっている。それでもその言葉は聴きたくなかった。

事故だ。しょうがない事だ。この様な状況をカルネアデスの船板というのだ。

私の理性は、それが正しいと命じる。

だが、心は間違いだと叫ぶ。本当に私に責任が無かったのか?

原因を調べなくては、到底納得できはしない。

真実を求めよう。



それから私は、調査を始めた。

まず、潜水艇の設計図を手に入れ、引き上げられた船体の片方を徹底的に調べ、ネジの一本まで記録した。

次に潜水艇故障の原因である、大地震についても情報を入手した。そして、あまり褒められたことではないが、救助隊に不手際が無かったかも調べた。


兎に角、この事故?(事故ではない可能性があるからこそ、私は調査しているので、この名称は暫定的である)に関係あるデータを片端から集めると、両方が救えた可能性を模索し始めた。

可能性があった所で、時間旅行はできないというのに。

この大地震で、自分よりもはるかに悲惨な目にあった者も大勢いたので、止む無く、これは第一原因と仮定せざるを得なかった。

救助隊はこの地震で忙しく、私たちを助けるどころか、自分自身の命さえなくすものがいたほどだ。

だが、これが原因だとしても、救助隊を責めることは辞めていた。

そもそも、合流予定だった深海探査船ちきゅうも、見学中の小学生を載せた状態で被害を受けて、私たちに構う余裕もなかったのだ。

多くの子供達と二人の大人の命を天秤にかけられたら、取るべき道は決まっている。

あなたと何度も議論してきたトロッコ問題の具現化にすぎない。

多くの子供たちの未来を奪ってまで生きたいとコルプスが思う訳がない。

そもそも私には彼らの行為を責める所か、称賛する資格すらない。たった一人すら救えなかった私には。



情報を集めた私は精密なシミュレーションを作り上げ、考えられる全ての可能性を実行した。

例え、ラプラスの悪魔が存在したとしても、その可能性は莫大なものとなる。

0と1の組み合わせが八つ重なるだけで、千以上の可能性があるのだ。バタフライ効果が起きる余地は十分にあるはずだ。

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