インディゴファミリーの無法者
なんとなく書いてみた。
世界は広い。
宙に浮いた島は見たことあるだろうか?
数は8千島以上。高度は様々だが低くて海抜1メートル、高くて上空3万メートルまで確認されている。
これらは大地に浮力層と呼ばれる地層の量によって宙に浮いている。
浮力層は太古に絶滅した水陸で育つ茸の菌糸でできた層で、この茸は最盛期には惑星の7割を菌糸で覆っていたそうだ。茸の特徴は軽重ガスの生成。水素よりも軽く不溶性のガスを窒素から生成して胞子を遠くまで飛ばすために自身の体内に溜め込む。
そうして、茸は世界へ散らばった。
だが、ある日、突然茸は絶滅する。
理由は簡単だ。地層を見ればわかることだが茸の層のすぐ上には9割型、火山の噴火物がそうになっている。
つまり世界で偶然、同時に起きた巨大火山の噴火によって茸は絶滅した。
茸が絶滅したが生成された軽重ガスは噴火した火山の近く以外は消えなかった。
胞子の為に溜められた軽重ガスは茸が死んだことによって使用されなくなり、火山に噴火物によって霧散しようにも空気中にほとんど出なかった。つまり、地中に閉じ込められた。
時は経ち軽重ガスはゆっくりと茸の残骸と化学反応を起こし、また大地の堆積によって圧縮されて常温で浮力を持つ地層に変化した。
そして、それは起こった。
茸が栄華を極めて数億年が過ぎた頃、地上に人類が誕生し文明を築き始めた頃、世界規模での大地震である。
大地は数万キロ単位で割れ、島ほどの大きさ大地が地殻との間に亀裂を入れた。
上にいた人類は浮遊感を覚えた。
端にいた人は遠ざかる向こう側に呆然とした。
大地は浮き始めたのである。
世界で大小様々な大地が浮いた。平地、山、森、湖、滝、火山、海岸、砂浜、砂漠、荒野、草原、氷河、海底。中でも最も多かったのは海である。
浮力層は周囲に浮力の磁場の様なものを形成し周辺にあるものを巻き込んで浮き上がる性質を持っていた。
これにより波の力で比較的堆積物が薄かった場所の海ごと宙に浮いたのである。
さて、ここで人類の文明は大きく発展することになる。第二文明開化。後の世でそのように呼ばれるようになる大きな転換期だった。
ある人は地上に残された人と再会する為に丈夫なロープと地表に出てきた浮力層を使い空中の大地群と地上を行き来した。
この技術はさらに発展、進化して空中の大地群を行き来するための道具が作られることになる。
また、ある人は浮力層を見て、空を飛ぶことを考えた。他人はそんなことは出来っこないとバカにしたがその人は必ずできるに違いないと考え、老境に差し掛かった頃に空中の大地間を自在に飛んだ。
これは長距離を移動する際の大きな交通手段として研究され発展していくことになる。
「んん?なんだガキ、俺に楯突くのか?
オイオイ俺が誰か分かってんのか?」
「……。」
「だんまりか?分かってなさそうだから教えてやるよ。
俺はエシェットの駐在ワレンガー軍大尉ダンティス・ゴールドバーンだ。
俺に楯突く=大罪なんだよ!ほら、分かったら敗戦国家の人間どっか行け。
ん?なんだ?このガキがどうかしたのか?
何?
髪の色?染めてるだけだろ?
瞳の色?カラコンだろ?
…。
何だと?このガキが?
何の冗談だ?見ろ。ただのガキだぞ!
ってどこ行ったあのガキ!?
ッ!!
あああああああああああああああああぁぁぁっっっ!!!!!!!!????????」
ある一族の話だ。
人類が乗った大地の中でも特に高くまで浮き上がった大地にいた人にある現象が起きた。
第1世代は数本の髪に色が変わった。
第2世代は瞳の色が成長共に変わった。
第3世代は生まれつき髪も瞳も色が変わった。
第4世代は五感に変化が出た。
第5世代は身体能力が上がった。
…………。
第x世代は生まれつき髪と瞳が藍色で五感及び身体能力が非常に優れていた。
一族は高度で何世代も過ごした為、人類を超えていた。
「第二制空戦争だの戦勝国家だの敗戦国家だのどうでもいいんだよ。
国家が何だ?世界が何だ?
ただ日々を過ごしていた場所が敗戦国に入ってたからってこっちにまでそれを押し付けるのやめてもらおうか。
オレ達は戦争に全く関わりはないし参加すらしていないのだから。」
ダンティスの全身に打撲痕を残しながら少年は淡々と話す。
「な!?貴様!!そんな理由で俺に手を出してただで済むと思っているのか!?これは大罪だ!!お前は死刑が確定したぞ!!」
「はぁー。分かんねぇ奴だな。
お前がどこの誰かも興味ないしこの国がどうなろうと関係ない。ただ、お前は手を出しちゃならないところでおいたした。だからお前が100%悪くってオレは死刑にならない。」
「手を出してはならないだと!?
意味がわからんぞ!!」
「そのまんまの意味だ。理解しろワレンガー兵。
ボス、探しましたよ。」
現れたのは少年と同じ髪と瞳の色を持つ青年。
「だ、誰だ!?」
「ああ、レック。もう見つけたのか早いな。他の奴らは?」
「すぐに来ます。」
「ボスー!!ああ!!ボス!!やっと見つけました!!このジルベルト、ボスが見えなくなった瞬間死ぬ思いでした!!」
「ジル、黙れ。」
「シャーリー!!黙れは酷いですよ!!ねえ!?ボスもそう思いませんか!?」
「ここは路地裏。響く。」
「シャーリーの言う通りだ。静かにしろジル。」
「イエス!!ボス!!」
「ルイス、いるか?いるならそこの少年を治療してやれ。」
「了解。」
次々と現れる同じ髪と瞳を持つスーツ姿の男女。
「さてエシェット駐在ワレンガー軍大尉ダンティス・ゴールドバーン君。
何故、お前に手を出してもオレが平気なのか理由が分からないんだったな?
それは簡単な話だ。ここはエシェット皇国で唯一のカジノ街を有する浮遊島アンダーハイ。
その中でもここは古くからのマフィア、インディゴファミリーが治める無法者達の掃き溜め、オールドハイ。
どうも初めまして、インディゴファミリーのボスをやってます。
アルバート・オールドハイだ。よろしく。」
「!?」
藍色の髪を掻き分け、藍色の瞳で笑いながらアルバートは名乗った。
この場所の王は自分だと。
「ここでは起きたことに国は関与しない。何故ならここではオレが法でオレが裁くからだ。
そして、ここでは毎年何百人も行方不明者が出る。一般人も軍人も政治家も官僚も無法者も貧民も貴族も王族さえここではいつ誰が行方不明になってもおかしくはない。
これがどう言う意味か分かるよな?」
藍色の石が嵌められた指輪を着けた人差し指でダンティスを指差す。
「た、頼む。助けてくれ。あ、謝るから許してくれ!!」
「ハッハッハ。」
その日からダンティスの行方は分からなくなった。