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第四話 『行き場のない感情』

 あの後はただただ漠然と、何も考えずに座り込んでいただけで、時間だけが過ぎていくうちに午後の授業のチャイムが鳴り響いていた。


 流石に黄昏てましたなんて理由で授業を休むわけにもいかないので、重たい足や腰を懸命にあげて十分後には教室に戻っていた。


 お互いか、それとも俺だけか、それとも思い過ごしか、その日はずっと目を合わせることは無かった。いや、意図的に目を逸らし続けていた。軽蔑の目、悲哀の目なんて向けられれば、俺の心は大きく抉られてしまう。


 溝を埋めに行ったはずなのに、逆に溝を作ってしまったみたいだ。そして、その発端は他でもない俺自身なのだから、本当に最悪極まりないものだ。


「ーーお前それ、本当にお前が悪いのか?」


 話を聞いたトウマは呆れ顔だ。登校はいつもトウマと一緒にいる。家が近いし、この方が気が楽だからだ。

 思い切って打ち明けた途端にこの表情。全くもって意味がわからない。いつもも俺のくだらない話には呆れ顔を見せるが、今回は特別呆れているようだった。


「だって友達になれって言ってあんな風に悲しませたんだし……」


「はーい出た出た。普段は猪突猛進気味なのに急にネガティブになるナヨナヨモード」


「いてぇ!」


 俺は自分で言いながら落ち込んで下を向くが、そんな俺にトウマはデコピンを入れる。しかも溜めるやつだった。

 瞬発的な痛みに俺は思わず喉を鳴らして仰け反る。痛みがじわじわと広がっていき、その中心である額を抑えた。赤くなってはないだろうか。


 佐倉さんとの件で精神を傷つけられ、今度は肉体までも傷つけられる。もはや踏んだり蹴ったりだ。


「あのさ、お前の話聞いてると佐倉は本心からお前と友達になりたくないわけじゃないと思うんだよな」


「は?」


 意味のわからない、いや、確かに心当たりはあるが、それでも信じられない言葉にいよいよ俺はお手上げだ。デコピンの件も相まって、今度は不機嫌に返す。


 そうであって欲しいとは願うが、それならそれでむしろ佐倉さんに何かあるようで嫌である。結局は両方嫌なのだ。


「佐倉は傷つけてしまうとか言ってたんだろ? それってお前のことについてだよな。ってことは、お前のことを考えてあんなことを言ったんだろ? お前のこと嫌いならそんなこと言わないし、お前と話してる時が楽しそうなら、きっと友達になりたいはずだろ」


「確かにそうなんだけど……でもそれならなんで……」


 不機嫌な感情が収まり、今度は疑問が生まれる。納得はいくが、それでも腑に落ちない。彼女と会話している時、明確な悪意なんて確かに無かった。むしろ友好的にさえ感じた。


 なら、それでも友達を作らないというのには何かしらの理由があって、


「つまり、家の事情なんかじゃない、別の理由があるんだろ」


 同一の結論が出て、俺はハッと顔を上げる。やはりトウマも同じように考えていたのだ。


「少なくとも、俺は佐倉がお前以外とそんなに長く話してるとこなんて見たことないし、嫌われてるわけじゃないんだと思うぜ?」


 俺の胸に拳をぶつけ、ウインクなんて似合わないことまでして鼓舞する親友の対応を嬉しく思い、堪らず俺は笑い出す。

 相談したことは、間違いではなかったようだ。


「よっしゃぁ! やってやる! 当たって砕けろだ!」


 大きく身体を伸ばし、空に向かって声を出す。近所迷惑モノの声に道行く人がこちらを向き、思わず苦笑。


「いや、砕けんのはダメだろ」


 そんな俺にトウマは周りを気にせず冷静なツッコミを入れる。親友の対応がさらに面白くて、俺はまた笑う。それを見て今度はトウマまで笑い、ひとしきり笑ったところで俺たちは学校に着くのだった。


 ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢


 五月の陽気な光は教室の中すら優しく照らしている。窓側の席である俺にとって、光の強さ以外はこの暖かさは文句のいいどころがなかった。

 しかし、睡眠に最適のこの場所。その場所から前に二つ、横に一つズレた席に座る少女を見て、俺は生まれて初めて五月を恨んだのである。


「やべぇよ……あれ絶対怒ってるって……」


 光は、佐倉さんの瞳を照らしていた。煌々とした瞳は強い鋭さをより一層鋭くし、誰が見ても怒っているという印象だった。


 チキン野郎である俺は彼女に睨まれる前に尻込みしてしまう。

 そんな俺の行動が見えたのか、佐倉さんが俺に気づき、お互いの目と目が合ってしまった。こうなってしまっては腹を括るしかない。

 ゆっくりと、彼女に歩み寄る。


「えっと……佐倉……さん……ですよね?」


 ーーなんで疑問形で話しかけた俺。


「な、なんですか……昨日言った通り、屋上は使っていいですから……」


 少し驚き、一層眼力が鋭くなって不機嫌になる佐倉さんを誤解だと慌てて説得。


「い、いや違う違う。その……昨日はごめん。傷つけちゃって。考えなしだったと思う。だけどさ、それでも……」


 言葉が詰まり、次の言葉を発すのに躊躇いが生まれる。

 拒絶を食らってなお、往生際の悪い俺を果たして佐倉さんはどのように思うのだろうか。


「ーー俺は、佐倉さんと友達になりたい」


 ーー言った。言ってやった。


 鼓動が加速し、耳元にまで音が鳴り出す。照れなんかで起こるものではなく、明確な恐怖。恐怖が甲高い音を奏で、すぐ目の前にまで迫っていたのだ。

『普通』を過ごしてきた俺にとって、拒絶は明確な『異常』だ。この長い沈黙の後に放たれる言葉で、俺と佐倉さんの関係性は大きく変わる。


 ーーどうか「はい」と言ってくれ。


「でも……私は……」


 揺れる佐倉さんの心。やはり、彼女は本心から拒絶している訳では無いのだ。なにか理由があるのだろうが、それをわざわざ追求する無粋な真似は出来ない。それに、俺はそれがなんなのかすら分かってないのだ。だからこそ、今はただ、祈るだけ。

 そんな俺たちの話と、そこから生まれた沈黙状態を見ていたトウマが口を出す。


「あのさ、佐倉。なんか色々理由があんのかもしんないけど、こいつっていっつもいっつも諦め悪いからさ。そのうちストーカーとかされっかもよ?」


 余計なお世話だが、助け舟のつもりだったのだろう。有難く頂戴しておく。

 二人からの結束という圧を直に体感し、佐倉さんの表情がより一層変化する。そうして、やがて何かを決心した顔で俺を見据えてきた。


「……分かりました。お昼休み、屋上に来てください」


 ーー祈りが通じた。


 鼓動の加速が緩やかになり、今度は喜びが全身を満たすように感じる。彼女の言葉に俺は目を輝かせ、大きな笑みをこぼした。きっと、昨日のように、いや、昨日以上に仲良く話せるのではないだろうか。


 後ろからトウマの視線を感じる。ポーカーフェイスながらも、その視線から感じる気持ちはわかりやすい。彼にも、後で感謝の気持ちを伝えなくては。


 ーーそう思っていた矢先だった。


「ーーきっと、これであなたと友達になることなんてありませんから」


「ーーえ?」


 今彼女は何と言ったのだろう。いや、佐倉さんの言った言葉は確かに俺の耳に届けられた。それでも、信じられない。信じたくない。


 佐倉さんは頑なに俺と友達になることを拒んでいる。誰が何を言ってもだ。つまりこれは拒絶。


 俺は何か声をかけようとして前に進もうとするが、その場を動けなかった。全身が金縛りのように硬直し、何も言えずに佐倉さんの言葉に対して反論もできない。


 やがてチャイムが鳴り出し、担任が顔を出してきた。


「おー。揃ってんなぁ……って秋野に八雲? チャイム鳴ってんぞ。席につけ」


 出席簿片手に、担任が俺たちに言う。チャイムが鳴ると生徒は次々と席に座っており、今立っているのは俺たち二人だけだった。


 それでも、俺は座れない。行き場のない感情が俺の中で渦巻きらそれに囚われて担任の命令に従う暇がないのだ。


「サク。座るぞ」


 トウマが俺の肩を掴み、席へ促す。体を揺すられ、顔だけをトウマに向ける。俺の瞳は揺れ、それを見てトウマは耳元で小声を発した。


「もう一度腹括るしかないだろ。そこで、決着が着く」


 俺の背中を強く叩き、自分の席に座るトウマ。そこで俺の金縛りは解け、ゆっくりとだが自分の席へ向かう。

 硬い質感の椅子に座り、トウマの言葉をしっかりと噛み締めながら、それでも俺は行き場のない感情と対面する。


 確かな不穏な空気を、俺は感じずにはいられなかった。

感想欲しい(ド直球)

あ、やめて殴らないで僕はMじゃないです。


ラーメン食べました。それもアブラーメンです。うえっぷってなりますなこれは。

ゆっくり深呼吸してリズミカルに運動し、トイレに直行してゲロるしかないですねこれは。


担任はレギュラー枠です。のちのち名前だします。

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