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第三話 『曇天→晴天→曇天』

 俺達の通う県立高校は、一学年十クラスあるマンモス校だ。学校は五階まであり、俺は毎回一階にある購買にまでかなりの量の階段を降りることになる。エレベーターはちゃんとあるのだが、それは足を骨折した人達や、なにか不自由な人用だとされており、今の俺には使えない。


「下りのが楽っちゃ楽だけど……文化部にはきついよこれ!」


 二段飛びをして時間短縮を図り、手すりに手を絡ませて遠心力ですぐに曲がる。時間短縮はまだしも、遠心力と評したこれに意味があるのかはあまり分からない。

 登ってくる人達を強引にかき分け、先輩や同輩からの蔑まれた目を向けられながらも俺はその足を止めない。ラストの四段には地を勢いよく蹴り飛ばし、手も器用に扱って強引に着地して、最高記録で一階に辿り着いた。


「いってぇ……」


 着地時にダイレクトに響いた痛みに両足を抑え、その場でうずくまる。なんともダサい格好だ。

 しかし、その場にいるわけにも行かないので膝を叩いてもう一度走り出す。廊下を走るなと幼き頃に何度も教師に言われたが、まぁ無視だ無視。


「着いた! そんで……いた!」


 購買のドアを勢いよく開け、勢いでそのまま突っ切ってしまいそうになるのを急ブレーキで止まり、その場にいた佐倉さんを指さす。指さされた佐倉さんはその華奢な肩を大きく揺らし、その大きめな目すらも揺れだしていた。


「なんか買うんならもうちょっと静かにしなさいよー」


 購買のおばちゃんが呑気にそんなことを言ってるのをおざなりに返事して断ち切る。用があるのは購買よりも佐倉さんだ。ずんずんと前に進む俺に佐倉さんは澄ましながらも瞳を揺らしている。

 ヤバいと思いつつも、何故か足は逆に速くなっている。


「あの!」


「は、はい!」


 走ったせいで息が上がり、思わず声を大きくしてしまった俺に佐倉さんは脊髄反射したように顔を上げた。顔の位置が近くなり、それだけで俺の先程までの炎のような勢いが鎮火してしまう。


「えと……その……友達が飯先に食ったんで一緒に食おう! ぜ!」


 付け足すようにサムズアップ。これが俺にとっての精一杯の努力(かっこつけ)だ。ウインクも考えたが流石に引かれる。これは一種のナンパに近いものなのかもしれない。


 勢い任せのまま来てしまったが、いざここに来ると緊張。それをかき消すようにまた勢い任せ、と。冷静に分析してみたが俺は馬鹿か。


 徐々に顔に熱が溜まっていき、背には冷や汗がダラダラと流れてきた。暑さと冷たさが同時に織り成す不快なハーモニーに俺はだんだんと苦笑い。早くこの沈黙を破ってほしい。


「えと、嫌ですけど?」


 しばらく呆然としていた佐倉さんだったが、当然のごとくそう言い放った。当然と言えばそうなんだが、俺は諦めない。


「いや……そこをなんとか」


「……いきなりそんなこと言われてもアレですし」


 佐倉さんは俺の突飛な行動に困惑し、言葉尻弱く何とかその場から離れようとしているようだ。なんか悪いことしてるようで少し気が引ける。


「いやまぁそうなんだろうけど! 何とかお願いできませんかね? お願いします!」


 あんまりにもしつこい態度に、佐倉さんはいよいよ険しい表情になる。内心冷や汗でダラダラだが、ここで引いてはいよいよ引かれたまま終わってしまう。挽回の余地含め、ここで勝ち取らなければならない。


 そんなことを考えていると、佐倉さんは何か諦めたように一度溜息をつき、


「……わかりました」


 とだけ短く言った。


「……え?」


「……わかったと言ってるんです。根負け……ですよ」


 少しだけ困ったように佐倉さんは笑う。その表情がひどく可憐で、俺は夢心地で見とれてしまった。


「なら、このあと屋上で。先に行ってます」


 お辞儀し、購買で買ったのであろうパンを持って佐倉さんはその場を後にする。そんな佐倉さんに俺は以前ぼーっとしながら手を振った。しばらくそのままでいたがやがて、


「青春だねぇ」


 おばちゃんのニンマリ顔が視界にアップで入り込み、俺は目を覚ましながら奇声を発して飛びずさった。そんな反応も滑稽のようで、おばちゃんはさらに笑い出す。


「さっ! なんか買ってくんだろう? 色んなのがあるからたーんと見とってくれ! あの子との距離を縮める為にもね!」


 陽気な声と乾いた手の鳴らす音に、何故だか俺もつられて笑い出す。一言余計な気もするが、まさしくその通りだ。立ち上がり、尻を払う。気分を良くした俺はそのまま奮発してアンパンやメロンパン、クリームパンを買い、軽快なステップを踏みながらその場を後にした。


 ーーーーー


「佐倉さん!」


 屋上のドアを勢いよく開き、俺は声を弾ませる。


「秋野君……やっと来たみたいですね」


 佐倉さんは苦笑で返す。光に照らされた彼女は、それだけで一枚の絵になりそうなほど綺麗だ。どんな表情でも可愛いなと俺はその表情を存分に味わい、というとなんだか犯罪臭の気もするが、とにかくそんな感じで佐倉さんの隣に座る。


「そう言えばさ、なんでさっきは一緒に食べることを許してくれたの?」


 メロンパンの袋を開けながら、俺は素朴な疑問を投げる。

 正直に言ってノート運びの時の印象は嫌われているイメージだった。俺の行動が主な原因なのだろうが、だからこそ、サキの態度が変わったのには冷静になると驚かされていた。


「ちょっとした……気まぐれですよ。後はまぁ……先のことを考えて、毎日付きまとわれるのもどうかと思ったので。一日くらいなら」


 佐倉さんの苦笑に俺ももう苦笑を返すしかない。本当にやってしまいかねなかった、というのは俺の心の中で大切にしまっておこう。


 穏やかな陽だまりが全身を柔らかく温め、昼寝をするにはもってこいの屋上で食べる昼食は最高だ。明日もここで食べたい。が、それでは佐倉さんが言った一日だけ、というのを打開しないといけない。

 そのためにも、


「佐倉さんもよくここで食べるの?」


「うん、まぁ、そうですね。お気に入りなんです」


 パンをかじり、佐倉さんは律儀に返答してくれる。


「なんか、ノート運びの時とは大違いだね。ガン無視され続けると思ってた。」


 自虐が入ってる気もするが、特に気にせず俺は笑う。メロンパンの甘みが口の中で広がり、更にもう一度かじって佐倉さんの返答を待つ。

 対する佐倉さんは少し戸惑い、目を伏せて、


「手伝ってもらったのに無視するなんて嫌だし、それに私こんなのだから……その……秋野くんみたいな人が来てくれたのが少し嬉しくて……」


「ーーーー」


 彼女はどうやら噂とは違って優しい子のようだ。話していたら口調こそ丁寧ではあるが、全く硬いイメージはないし、今もこうして、他者のことを思った発言をしている。

 今日ここに来たことは間違いじゃなかった。そう、俺は思った。確信した。


「優しいんだね」


 彼女の素直な気持ちをぶつけられ、俺も真正面から思ったことを口にする。噂なんかで推し量れない、彼女の優しさがあるのを知れたのだから。


「あのさ」


「何ですか?」


「その……急で悪いんだけど、やっぱり明日も一緒に食べたいなって、そんでよろしかったらお友達にもなりたいかな……なんて」


 このままの雰囲気でいきたかったが、言葉を並べるうちに言葉尻が弱くなり、最後はかなり疑問的なトーンになってしまった。


 佐倉さんはその大きな目をさらに大きく見開き、喉を少しだけ鳴らす。沈黙がその場を流れ、グラウンドでサッカーをしている上級生の叫びが鮮明に聞こえてきた。


「その……本当に嬉しいんだけど……」


「だけど」という言葉に俺は疑問と焦りを感じ始める。

 だけど、なんて逆説の言葉。その次の言葉はきっと、


「ごめんなさい、それはダメです」


 ハッキリと、そう言われた。

 俺の中の何かが音を立てて崩れる。浮かれていたということに羞恥を感じ顔に熱を帯びる。しかし、それを認めたくなくて諦め悪く試すように言葉を並べる。


「それは……もしかしてお父さんが厳しかったりとか……そんなふうに誰かに口止めされてるとか……」


「違います。そうじゃないけど、ダメなんです。きっと、傷つけてしまうから」


 佐倉さんの瞳が憂いを帯び、俺は黙りこくってしまう。彼女にそこまで言わせるなんて、一体何があるのだろうか。俺のことがまだ好きになれないとしても、今の発言は何かおかしい。


「……ごちそうさまでした。屋上、明日から好きに使っていいですよ。じゃあ、また明日」


「……あ、ちょっと」


 静止も聞かず、佐倉さんは逃げるようにその場から走り去った。一人取り残された俺は疑問を浮かべるだけだ。


「……悪いこと、したかな……」


 自分の配慮のなさを感じ、額と目を手で押さえる。長い息を吐き、明日謝ろうとちゃんと決意。ゆっくりと手を離した。


 さっきまで感じていた光が急に失われているように感じ、俺は空を見上げた。

 太陽が、雲に隠されていた。


 ーー陽気な温もりが、微かに冷えているのを感じた。

なまりぃ〜のそらぁ〜……ハッ!

皆さんどうも蓮ノ葉です。曇〇歌ってたわけじゃないですよ?ね?ね?


生徒に人気の購買のおばちゃん。何でも上級生の恋愛相談にも乗ってるそうな。

下世話メインで的確なアドバイスはあくまでサブです。いるよね。何故かそーゆー感じで人気になるおばちゃん。うちの学校にはいませんが。

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