第十三話 『一期一会』
「みーんなおっはよー!」
勢いよく開けられたドアと共に、聞き慣れすぎた陽気な声が響く。
ナツキだ。どうやら最近仲良くなった井出加奈さんと清水楓さんと登校してきたようで、三人仲良さげな様子だ。
そんな彼女たちはもう既に輪の中心的存在であり、彼女達の一声には大体のクラスメイトが反応する。
「「「はよー!!!」」」
案の定、手を振り返したり、彼女達の周辺に歩み寄るなど、各々の動きでアクションを起こしている。
もちろん俺もその一人だ。俺はトウマ、バスケ部の小野慎也、ハンド部の片野隼人、鈴谷司と共に彼女達を見ていた。
席替え以降、急激に仲良くなった五人グループだ。俺とトウマ以外の三人は同中らしく、仲良くやっていたようだ。そこに俺たち二人が入り込んで今に至る。
「清水たちすげぇな……まだ四月なのにもうあんなになってるなんて」
「でもカエちゃんよりボス感があんのは浜風さんだよなぁ」
「わかる。一番みんなと仲良さそう」
どうやらこの三人は清水とも同じ中学出身らしく、あの三人の話になると清水経由の話が多い。
「そいやトウマ達って浜風さんとは同じ中学だし、部活も一緒なんだよな。いつもあんな感じ?」
「あはははは……まぁ、そうだな」
「おう、まぁ……」
「なんで二人して目を逸らすんだよ」
シンヤの追求に俺たちは苦笑いで目を逸らす。
言えるはずがない。あんな見た目も中身も元気っ子が根はゲーマーで天然毒舌でガサツだなんて……。男の夢を男の俺が壊すわけにはいかない。
「お前らの夢は俺が守るからな……」
「お、おう……な、なんでそんな顔してんの……」
「気にすんな。こいつ頭のネジ一本取れてるから」
俺は三人それぞれの肩を叩き、決意を新たにするが、トウマがそれをバッサリ一蹴。こいつには慈愛という精神がないのだろうか。
友達への優しさを持つのは大切なことであろう。
なんで明後日の方向に俺が思考を巡らせていると、トウマの言葉に意外な反応が返ってくる。
「あー、確かにサクは頭のネジ外れてるな」
「んなっ!?」
ツカサは笑いながらそういうが、心外な俺はわかりやすく動揺する。
助け舟を差し出そうとしたが、俺はそれを粉々に砕く。
こいつはダメだ。こいつにはどんどんナツキへの好感度メーターを上げさせておき、最大点になった瞬間にナツキの本性をバラそう。
「悪い悪い。でも最近さ? なんか佐倉さんとも仲良さげじゃん。俺が関わるとだいたいガン無視か一言言われて逃げられてたからさ」
「あー俺もだわ。確かにそう思うとガツガツ言ってるサク君は馬鹿みたいだよね」
ツカサの言葉にハヤトが同調。確かにサキはあまり他の人と関わってるとは思えない。が、それが本心ではないこともわかっているつもりだ。お節介焼きではあるが、何とかしてみんなとの溝を埋めてやりたい。
「そうは言っても俺はあんま気にしてないし、案外押せば倒れるよ」
「無理無理。お前の場合コミュ力って言うよりただ馬鹿みたいに突っ込むだけじゃん」
シンヤのこの言葉に全員が爆笑。
いや待て。みんな俺のことをそんなふうに思っていたのか。
「っても女子ともあんま喋ってる感じじゃないよな。浜風さんとは昨日話してたみたいだけど」
「あっちは完全コミュ力で言ってた感じだったよなぁ。それでもなびかない辺りさすが高嶺の花子さん」
「「それな」」
好き勝手言ってはいるが、別に嫌って言ってる訳では無いことくらいはわかる。
彼らなりの性格の良さと、言い方は悪いが顔が働いているのだろう。
なかなか協調性の高いこのクラスは、恋愛やらなんやらの噂話はあっても、陰口などはない。あったとしても、自然消滅する程度の極僅かなものだろう。
だからこそ、そうなるためにサキとも果敢に話に行ってるようだが、無駄足に終わってるようだ。
「でも一番話せてるっていう自負はしてるしぃ」
「「「「へー」」」」
「興味ないなぁおい!」
ドヤ顔の俺に大してわざとらしく興味無さそうな反応。うちのクラスの興味ないときにスマホゲームを開くという仕草はいつから共通認識とされてきたのだろうか。
と、全員が各々の時間に浸かろうとしたところで、
「あと五秒でチャイム鳴るぞ。はよ席つけー」
松下の一言に一斉に各々の席へと戻る。
と言っても、この五人のうち戻るのは大抵俺とトウマだけだ。
「行動が早くて助かるな。んじゃ、日直頼むぞー」
「はい。起立、気をつけ、礼」
「「「おはようございます!」」」
「はいおはよー。出席は……うん、休みいないな。今日も一人も休みいないし、多分このクラスが一番休み少ないよな」
他クラスでは休みがもう出てきたのか、そんな呟きを松下は呟く。
「んじゃ、業務連絡を。みんなもわかってると思うが、二週間後にはテストだ。高校初めてのことだと思うので言っとくが、中学みたいに一夜漬けでできないから一応やっとけよ」
一夜漬けに心当たりがあるのか、十数名がギクリと顔をしかめる。
もちろん、俺もその一人だ。誇るべき事じゃないのは分かっているけれども。
「そんでそれが終わると文化祭と体育祭だ。テスト終わってからすぐに文化祭の準備には取りかかる。夏休みまで使いたくはないだろ? そしたら九月には体育祭、十月には文化祭で一気に両方行われる。休む暇はないぞ?」
脅し文句に、クラス全員がドンと来いと言わんばかりの湧きよう。テストよりも文化祭体育祭にお熱のようだ。
もちろん、俺もそれに入る。高校生の華とも言える文化祭と体育祭だ。むしろ盛り上がらないわけが無い。
「よし。それじゃ追試がないようにテスト頑張れよー。俺は追試バンバン出す気でいるからなー」
と、松下の言葉に盛大なブーイングが巻き起こり、ホームルームは終了した。
「いやぁ、テストなぁ……俺やばいかも。特に国語」
シンヤが髪を掻きながらこちらへ来た。こいつは特に古文や漢字が苦手のようで、小テストで赤点レベルを毎回たたき出し、何故か誇らしげにしているのが記憶に鮮明だ。
「文系苦手だもんなお前。俺は英語」
今度はツカサが来る。ツカサは英語の発音だけは先生も舌を巻くレベルなのに、それ以外がてんでダメなのだ。
「俺はまぁいけるかなぁ」
最後はハヤト。何でもかんでも卒なくこなす器用貧乏な男だ。器用貧乏と言っても大抵七割代なのでむしろ羨ましいくらいだ。
「そんでトウマサンは満点とかとっちゃったり?」
「サン付けして嫌味かお前」
流し目でそう言うツカサにトウマは呆れ気味だ。それでも八割以上はかっさらっていくのだろう。腹が立つ。
「サクくんは赤点とるかな。大丈夫?」
「心配がむしろ毒になるってほんとにあるんだね」
優しく、悪意のないハヤトの言葉が俺の心臓に突き刺さる。俺だけ赤点の可能性を示唆されているのだ。まぁ否定出来ないのも悲しいことなのだが。
小テストでの点数もだいたいこの五人の中なら俺が最下位だと思われるし、ここでムキになりすぎてもからかわれるネタが増えるだけだ。
「推薦狙わない男は赤点さえ取らなきゃいいのさ」
「その赤点さえ危ういくせに」
「うっせ」
結局からかわれて話は終了。俺たちは立ち上がって授業の準備をする。
一時間目は化学で、化学室へ移動することになる。机から教科書やノートを取り出し、さっきの四人と共に俺は化学室へ向かうのだった。
今回は早ァァァァァァい!
暇人になると書くスピードも上がることを覚えましたどうも作者です!
とはいっても日常回ですのでのほほーんと思いついたことをぱっと書いていく感じで行きました。
ちなみにこの五人組のリーダー格はシンヤです。天然毒舌担当はハヤト。ボケアンドからかい担当はツカサとなっております。
あらやだバランスがいいわね奥様
またの機会に今度は楓たちの紹介でもしようと思います。それでは!