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第十一話 『甘い甘い玉子焼き』

「ひどかったですよ今日は!」


 頬を膨らましながら起こる彼女も可愛いな、と俺は思う。

 唐突に何言ってんだと思うかもしれないが、目の前の可愛い女の子がこんな顔してしては誰だってそう思うのも不思議ではない。


「ま、まぁまぁ。悪気があったわけじゃないんだし」


「そうかもですけど……それに絶対見て見ぬふり……というかずっとこっち見てたじゃないですか! 手を差し伸べてくださいよ!」


 やっぱ追求されるか。でも笑って受け流すしか俺には出来ない。正直俺やトウマ、ナツキのうち最も権力が高いのはナツキだ。俺がその気になっても太刀打ちはできない。


 それに、できればサキにはもっと色々な人と関わって欲しかった。余計なことだし大きなお世話と思われるかもしれないが、それでも、サキには楽しい日々を送って欲しかった。


「あはは、ごめんごめん……。あ、そういえば昨日のあれってなんだったの?」


 話題転換、のつもりではないが前々から気になっていたことをこの場で追求。

 もちろん結構期待している。


「あ、そうですそれです!」


 手を叩き、サキは得意げに声を出す。いつもは一つしかない弁当箱なのだが、何故か今回は可愛らしい包みと共にもう一つ別のものが用意されていた。

 それだけで、俺は自分の立てていた仮説と現実が合致することを察する。


「じゃん! お弁当を作ってみました! ちゃんと栄養とれるよう色々考えて来たんですよ!」


「お、おおお……予想は立ててたけど実際に立ち会ったらビビるもんだな」


 バレバレな行動でも案外驚くもんだな、と俺は心の奥で教訓として書き残しておく。


「あれ……意外と驚いてない……」


 俺が驚くことを期待していたのか、サキは拗ね気味にそうこぼす。


「ああ! 驚いたよ! けどちょっとバレバレだったから予想がついてただけでさ」


「なんですか! フォローしてるんですか悪口言ってるんですか!!」


 よっぽどお気に召さなかったのか、サキはご立腹だ。こんなに取り乱すなんて、それほど気合が入ってたのだろう。


「悪かったよ。でも、嬉しいって気持ちはほんとめっちゃくちゃあるよ?」


 これは実際本心から出ている言葉だ。サキが俺のために作ってくれた。これだけで明日も明後日も生きていける糧になる気がする。


 冗談はさておき、俺の子の言葉がいくらかサキに届いたようで、サキは少し温和な笑みを浮かべる。


「そう……ですか。それなら良かったです。では、はい、どうぞ。友達ですからね。これくらい当然です」


「んーーあぁ、ありがとう!」


 何か、よく分からないのだが、引っかかるような言葉を投げられた気がする。

 しかし、ただの気のせいだということで俺はその考えを捨てる。それよりも今は、このお弁当という宝箱を開けることに勤しみたい。


「それじゃ早速開けて……おおおお!」


 本当に宝箱のようだった。栄養のことを考えたのはもちろん、彩りも考慮したのだろう。見た目だけで美味しそうだと言えるその弁当箱に、俺は興奮していた。


「どうぞ。お口に合うかは分からないんですけど……」


「いやいや。こんな美味しそうなの、絶対合うって! それじゃあ、いただきまーす!」


 作られた弁当の中身、玉子焼きを口に運ぶ。


「あ、ちょっとそれは……」


 サキが抑制しようとしたが、俺はそのまま噛み締める。

 ふむ、甘みが強くというかかなり強い。それにとても柔らかい。すっと喉に入る感覚に、サキの料理の才能を垣間見た気がした。プロでもないので俺がそういうのもなんだが。


「うん、やっぱうめぇよ! 甘さもいい感じだし!」


「え、ほんとですか!?」


 俺のサムズアップと太鼓判にサキは驚き半分、嬉しさ半分にそう答える。

 どれ他にも色々と。うん、やはり美味い。特にこの玉子焼きが絶品だ。


「前に甘いものが好きだと言っていたので……砂糖の分量を増やしてみたんです……けどその……大丈夫なんですか?」


「うん、すっごく甘くて美味しいよ」


 なんと。そんな配慮までしていてくれてるとは。サキの優しさを改めて噛み締めながら次を頬張る。


「そうですか。良かった……。大丈夫と言えば……良かったんですか? 八雲君とお昼食べないなんて……」


 俺の満足そうな顔を見つつ、遠慮気味にサキはそう言う。気を使わせてしまっていたのだろうか。サキのその態度は、トウマや俺への配慮の気持ちだということを察する。

 しかし、それは実際問題杞憂だ。


「いんや、俺もトウマも大して気にしてねぇよ。トウマなんてひょろーっとどっかいっていつの間にか他の奴と食ってるし。それに今はサキと昼飯食っときたいしな」


「そ……そうです……か」


 何故か、サキは顔を逸らした。理由はわからないのだが、少し目を開いたと思ったら、首を一気に向こうに向けたのだ。

 何か俺の言葉に不満があったのだろうか……。


「――――!?」


 今俺はとんでもないことを口走ったのではないだろうか。思わず口から出た言葉だが、今の言葉はかなり口説き文句になっている気がする。


「と、とりあえず他のももらうね」


「あ……はい。どうぞ」


 ギクシャクした言葉と変な雰囲気、そして高鳴っていく心臓の音に俺は焦る。

 それはサキも同じみたいで、黙りこくったままこちらを見ようともしない。ただ膝の上に置いた手の甲を見つめているだけだ。


 ほんのり紅く染まった頬に、俺の頬も赤くなるのを感じる。やらかしたという気はするが、それでも俺の言葉に少しは喜んでくれている気がして、その嬉しさの方が勝る。


「やっぱ美味いよ。本当にありがとな。特に玉子焼きが美味いんだけど、何使ったの?」


 気まずい空気になる前に早めに話題転換。

 その助け舟に乗っかるようにサキは話を続けようとする。


「えっとですね……砂糖の分量を沢山入れて……その、結構……いっぱい……」


 何故かサキの言葉の調子が弱まる。さっきから玉子焼きに関してサキの言葉が詰まったり焦ってたりはしていたが一体どうしたのだろうか。


「その……図り間違えて砂糖をドバっと……」


「どれくらい?」


 苦笑いしつつ、サキは答える。


「大さじ四杯です」


「……ガチ?」


「……ガチ、です」


「oh......」


 玉子焼きの調理は家庭科の授業などでやったことはある。確か大さじ一杯くらいだったはずだ。

 それが甘さ4倍。かなりデンジャラスだ。


「ま、まぁ俺としては丁度いいし大丈夫大丈夫」


「作ったあとに気づいて……一つ口にしてみたんです。とても人が食べられるものじゃないなと思って先に言おうとしたんですけど……」


「さらっと人ならざる者扱いされてんだけども」


 それほど俺の味覚が腐っているのだろうか。甘いものが好きなのは自負しているが、人が食べられるものじゃないというとは……。

 そう考えながら、俺はまた玉子焼きを頬張るのだった。

もう何も言うまい。すんませんした!


サキは朝に早起きしてお弁当を作りました。なので作り直しがききませんでしたね。


「上手くできた……どんな感じ……うわ甘い!?」


的な感じであわあわしてたら時間が過ぎてって作れなかった感じですねきっと


別の作品の方も締切()に追われてますやばひやばひ


ではさようなら〜

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