4. 濁音
「あっ、……家だ!!」
空腹を叫ぶ胃袋を宥めつつ光る木の実に恨めしげな言葉をもらしてから更に一時間程経ったとき、愛音はついに家らしき物を見つけた。
辺りはすっかり薄暗くなっており、食べれはしなかったが灯りの代わりとしてハンカチで作った簡易の袋にいっぱいいっぱいに詰め込まれた光る木の実が放つ仄かな光を頼りに少女は駆出した。途中で木の根につまずきながらも、なんとか転倒せずにドアの前まで辿り着く。
そのとき、少女はようやく家だと思っていたそれがただの小屋だったことに気付いた。
少々の落胆はこのさい無視せねばなるまい。
以前は狩人らが仮眠の場所として使っていたであろう木造の小屋は、なかなかしっかりした造りであった。しかし長年放置されたためか外壁は蔦で覆われてしまっている。
はたしてここに人はいるのか…。
銀色の光をかざしてみれば、ごく最近のうちに絡みついていた蔦が千切られ、扉が開閉された形跡がある。かすかに香ってくる青臭い匂いも少女の予想を肯定している。
愛音は逸る気を抑えて控えめに唯一蔦に覆われていないドアをノックした。
「誰か、いらっしゃいませんか?」
再三の呼びかけにも反応が返ってこなかったことにまた落胆しつつも、もしかしたらもう寝ているのかもしれないと、愛音は錆びたノブを回して室内に足を踏み入れた。
「お邪魔します」と言ってしまうのは日本人の本能のようなモノだ。
シンと静まった室内は正面から見た時よりも奥に広いらしく、漆黒の闇に包まれた先は木の実の仄かな銀色の光などでは到底晒しだされはしない。
「…誰か、…いらっしゃいませんか?」
恐る恐るだされた問いかけには、深すぎる闇への恐怖が滲み出ていた。
そんな時に奥から「うぅ…」と低いうめき声が聞こえて来たものだから、愛音は手に持っていたハンカチを落としてしまう。
「…っ!!!」
乾いた音を立てて木の実が床を転がっていく。
ころころと転がっていく木の実が何かに当って止まった。
「あ、あの…」
体の震えをリアルに感じながらも、愛音は闇に向って声をかける。
「勝手に入ってしまって…す、すみません。わ、私森で迷って…」
まるで道しるべのように点々と転がっている木の実の間を必死に歩いていた白い…今では土に汚れてしまった学校指定の上履きの動きが唐突に止まる。
木の実の動きを止めた存在が、銀色の光によってその正体を現した。
淡い木の実の光が霞むほどの白銀の髪の毛、長いそれに縁取られた顔は、あの端正な顔の幼なじみを見慣れている愛理でさえも息をのむ程鋭く精悍に整っていた。瞳の色は分からない。なぜならその双眸は苦しげに閉じられているからだ。
「血が…」
愛音は小さく悲鳴を漏らす。
銀の美丈夫は血で濡れていた。
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久しぶりの更新です。




