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宇宙へはるか、翼に乗って   作者: 霜月 幽
第2話 ググルーの太陽
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乗客の運命

 タイヤ痕は、砂漠を横断するように続いていたが、やがて森林地帯へ入った。車が通る道路ができている。


「止めろ!」


 ヒューイが鋭く言う。ハルカはブレーキを踏んでエンジンを切った。しんと静まった中で、ざわざわとしたざわめきが伝わってきた。車を降りて前へ進む。



 トラックに似た運搬車が止まっていた。乗客を運んだ車体だろう。その横から前方を窺うと大きく開いた空間があった。

 そこに乗客やクルーが集められていた。異様な生物100体ほどの集団が彼らを取り巻いている。空き地の向こう正面には土山がいくつも聳え、そこからぐるりと木立が空き地を囲んでいた。

 木立のほうに身を寄せたヒューイがポケットから小型の双眼鏡を引っ張り出して、観察する。


 ヒューマノイドタイプで、昆虫に似ていた。色は赤黒い。頭部に長い触覚と大きな複眼。口様の穴が二個。手が3対、足が2対。大きさはソル(地球)人ほど。

 チュニック様の緑色の服を付け、背中に畳まれた大きな翅がある。むき出しの手足は長く細く、剛毛のような太く長い毛が密生している。手に手にクロスボウのような形の武器を構えて、人々を圧していた。


 一番大きな中央の土山の地面よりやや高いところに入口と思える穴があり、地面まで土を固めた斜面が伸びていた。その穴から巨体と言っていい体格をした者が数体現れる。外にいる者達の三倍は巨大だ。

 その中でひときわ大きな体格の個体とそれより頭一つ小さい6体。形は外で見張りをしている昆虫人と似ているが、腹が異常に大きい。着ている服は、襟飾りのついた長い服だった。それが腹を引き摺りながらゆっくり歩いて来る。


「女王蜂だな」


 ヒューイが呟いた。彼らが昆虫のような生活様式なら、まさしくあの大きな一体は女王で、6体も雌だろう。

 ハルカの中で恐ろしい予感が生まれた。



 女王は捕らえた人間達を物色するように見ていたが、その中でひときわ立派な――太った男など体格の良い男女6人を指さした。すると、囲んでいた戦闘蜂が数人進み出てその男たちを引きずり出す。男が喚いて抵抗し始めた。

 すると、女王が二つある口の上側を開いた。


「小さい羽虫みたいな奴を出したぞ」


 ヒューイが双眼鏡で観察しながら、ハルカに教えてくれる。


「羽虫が男の耳に入った。うわ! ひでえな……」


 男が苦悶する様子は、ハルカにも見えた。耳を押さえて喚きながら転げまわっている。耳の奥を食い破られているのかもしれない。人々が恐れおののいて、のたうつ男からざざっと遠ざかる。


 開いた空間の中央でのたうっていた男の身体が静まりひくっひくっと痙攣を始めた。が、やがて、のっそりと起き上がる。

 ハルカからは男の表情は見えなかったが、無気力な様子の丸まった背中が痛々しかった。



 クルーの制服を着た男達が彼らを囲む昆虫族に向かって走った。それに呼応するように、他の男達も走り出す。

 ハルカが銃を構えて援護しようとした。それをヒューイが止める。


 女王と側にいる雌達が羽虫を吐き出す。羽虫が一斉に犠牲者達にとりついた。つんざくような叫びが上がる。人々は恐怖の悲鳴を上げて逃げ惑い、広場は騒然となった。


 取り囲む戦闘蜂がクロスボウのような武器を人々に向かって撃ちだした。鞭のように長い触手を持つクモヒトデのような物体が飛び出す。

 羽虫から免れて逃げ出そうとした人々に、それが大きく広がって被さり、長い触手でがんじがらめに拘束した。

 あっという間に、広場に集められた120人の乗客と22人のクルーは自由を奪われてしまっていた。



 女王が出て来た土の山の中に入って行くと、羽虫の犠牲者の男2人女1人が従順に後をついていく。さらに、クモヒトデに拘束された男2人と女1人が戦闘蜂に抱えられて運ばれる。彼らの悲鳴や叫びが長く聞こえて小さくなっていった。

 待っていた6体の雌も同じようにそれぞれ獲物を6人ずつ選んで、彼らを連れて土山の中に入った。


 同じような隣接している土山からも、雌が6,7体づつ現れ、集められていた乗客・クルーの全員をそれぞれの山の中に連れて行ってしまった。見張りをしていた戦闘蜂は任務が終わったとばかりに、山の向こう側の方へ去っていく。




 ハルカとヒューイは顔を見合わせ、無言の会話を交わした。確認したくない、とお互いの目が言っている。だが、乗客の運命を確かめねばならなかった。


 一番最後に現れたグループの山に近づく。獲物を得る順番が、身分か順位によるものだとは見当がつく。セキュリティも、やはりそれに準じて下がるはず。最後の残り物はやせ細ったヒューマノイドか、肉もなさそうな固そうな種族だけだった。



 地面より二メートルほど高い穴の入り口は暗く、中からひんやりとした空気が来る。

 ハルカはシロアリの蟻塚を連想した。どこだったか灼熱の大地に立つ蟻塚は、人の背丈ほどにもなり、中は涼しく保たれていると聞いたことがある。


 土壁に囲まれた通路が迷路のようになっていた。壁に耳を当て気配を探る。意に反して物音は下から聞こえた。

 進むうちに、異星人の悲鳴が聞こえた。慎重に悲鳴のした方へと近づく。通路の先に大きな空間が開いているのが見えた。壁伝いに近づく。


 開けた空間から枝分かれするように6本の通路があった。悲鳴やざわめきはそれらの奥から聞こえてくる。その内の一番手前の中に入ってみる。


 通路は緩やかに下がっており暗い。ほぼ地面と同じ辺りまで下がったかと思う頃、広い空間が奥に見えた。壁にぴたっと張り付いて、中にそろりと目を向ける。通路を挟んで反対側で、ヒューイも同じ事をしていた。


 山の下の奥だというのに、薄ぼんやりと明るい。上の方から採光されているらしい。

 中央の草で編んだ褥に大きな体の雌がいる。

 その前に、働き蜂のような立場らしい人ほどの大きさの者が二人がかりで泣き喚く痩せた男を引き摺ってきた。

 他の4人は、ごろりと転がったまま身動きしていない。


 働き蜂が男の服を裂き、下半身を露出させた。男はクモヒトデに拘束されて身動きもできない。うつ伏せにされ、尻を雌の方に向かせられる。


 ハルカは思わず目を閉じた。つんざく男の悲鳴が上がった。止まらない悲鳴に耳を塞ぐ。それが唐突に止む。


 目を開けると、反対側でヒューイが青ざめた顔で見つめ続けているのが見えた。身体が微かに震えている。

 そっと中に目をやると、硬直を始めた男が他の四体と同じように転がされるところだった。奥のほうから働き蜂の集団が現れる。ヒューイが合図して、ハルカは通路を戻り始めた。




 森の中へ出るまで、どちらも口を開かなかった。バギーの所まで戻る。


「宿主なのね」


 ハルカが確認するように、やっと口にした。


「ああ、そうらしい。腹腔がいろいろとちょうどいいのだろう」

「死んだ方が、まだましだわ」


 乗客が待つ運命を想像すると、ぞっとして身震いした。産み付けられた卵が孵れば、生きながらに食われるのだ。

 ヒューイが首を傾げた。


「疑問に思うのは、なぜ、他の世界の連中を拉致して宿主にし始めたのかという事だ。たぶん、彼らのこの生態体系は、ずっと昔からのもののはずだ」

「宿主の生物はたまったもんじゃないわね」

「いくら非人道的に見えようと、それがここの生態系の仕組みなら、俺達には干渉する権利はない。だが、他の種族に手を出し始めたなら、黙って見過ごすことはできない」

「理由を探る必要があるってことね」


 ハルカがため息をついた。そして、ふと訊く。


「ねえ、船長と副船長はどうしたのかしら? 気が付いていた? なんだか姿を見ていない気がするんだけれど」

「あの羽虫に操られていたんだろうな。あの二人も卵の宿主になったんじゃないのか?」


 そうだったのだろうか? 胸騒ぎを覚えた時、腕のTELが鳴った。

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