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宇宙へはるか、翼に乗って   作者: 霜月 幽
第1話 クリスタルリング惑星
10/26

残されていた装置

 翌日、2台の軽飛行艇に分乗して、雨が降りしきる中を極北を目指して飛んだ。

 備品を捨て、外し、重傷者を寝かせる空間を確保し、残りの者は身動きもできないすし詰め状態に耐えた。何度も往復できるほどの燃料がないのだ。


 ハルカが先導して森林地帯を越える。レイはラムに預けた。ラムは心得たとばかりに残った羽をひらひらさせてレイを懐に抱え込んだ。このタヌキの鳥まがいのおっさんは、話の判るいい奴だった。



 北は夏とはいえ、雪と氷におおわれていた。この辺りは晴れていたが、その分、風が氷のように冷たかった。

 ハルカ達は赤外線やレーダーで、文明の痕跡を探す。


 森林のはずれ、聳える岩山の中腹で金属探知機に反応が出た。

 まるで着陸ポートのように開いたテラス状の岩棚に着地する。目の前には一枚板の岩盤があった。不自然な滑らかさの面である。

 この岩の向こうに求めるものがあるはず。


 動ける者全員で探る。何がきっかけだったのか、突然その岩が動き出した。


 果たして、内部に岩盤の壁と金属の床を見る。岩はがたがたと音をたてながらいやいや開く。何度か途中で止まりそうな気配さえ見せた。

 長い間、開かれなかったのだ。どれほどの長い間だったのか。眼下の森林が焦土から再び復活する時間は経っていたはず。


 ついに、岩盤は60%ほど開いたところで止まった。それ以上は無理ということ。

 中は暗く、灯一つない。普通に考えて、当然だった。それほどの長きにわたって持ちこたえる照明はないだろう。



 軽飛行艇の携帯照明を持参し、ハルカ、レイ、背中に火傷を負った機械整備士のトーマスの3人が中に入る。残りは外で重傷者達を守って待機した。


 金属の真っ暗な廊下はどこまでも真っすぐ続いていた。途中、横道や扉のようなものがいくつかあったが、照明を向けても何もなかった。岩山の中央まで進んだのではないかと思われるほど奥に入って、大きなホールに着く。


 そこも死んでいた。どうやら、扉を開くために最後の動力を使い果たしたらしい。

 照明を当ててホールを見る。貴重な装置を慌てて運び込んだと思える雑然さで、ホールは埋まっていた。ハルカが見ても、ひどく異質な機械類だと感じる。


 レイはその一つ一つを丹念に見て回っていた。彼には何か目的があるようだ。

 だが、こんな異質なものを、レイは見ただけでその機能がわかるのだろうか?

 ハルカの疑問をよそに、トーマスと熱心に話しながら探す。


 やがて目当てのものが見つかったらしい。それをハルカとトーマスで運んだ。人の背丈ほどの大きさだったが、なんとか半開きの扉の前まで運んだ。


 昼間の光の中で見ると、異質性はさらに顕著になった。

 材質は金属で耐腐食性素材らしい。長年の放置で埃がつき表面もくもりが出て傷もあるが、目立った錆や劣化は見えないようだった。

 ハルカが見る限りどんな用途に使うかも使用方法すらも見当がつかない。トーマスに解るかと訊くと、彼もかぶりを振った。


「かいもく見当つかないですね。レイ君はなんで解るのかなあ。やっぱり、天才なんでしょうねえ」


 気軽な推測を返してきたが、そういう問題じゃない気がする、とハルカは腹の中で考えていた。


 ***


 森林の麓に、山脈から湧き出る湧水をみつけ、そこにキャンプを張る。ホールの中を探検して、キャンプに使えそうなものを調達したり、苔や食べられそうなものを探す。植物学者のゴメスが鑑定を引き受けていた。

 昆虫以上の進化した動物は見当たらず、べナルドがイモ虫やミミズのような環形動物を捕まえてきては、みんなに嫌がられていた。


 レイとトーマスはテラスのところで、飛行艇に寝泊まりしながら熱心に作業していた。必要な部品や機材を軽飛行艇に求めるため、結果的に一機分解してしまった。


 ハルカはテラスからキャンプ地の麓まで下ろしたロープを使って、行ったり来たりしながら、食料を運んだり、ホールで見つかった使えそうな備品を運び下ろしたりとなかなか忙しい。


 キャンプ地のほうでも、周囲の木を伐採して丸太小屋らしきものを組み立てていた。雪と寒さの幾分かはこれで防げた。




 惑星に着陸して12日目、キャンプ基地が壊滅して4日目、レイの作業が終わった。

 まだ無事に残っていたもう一機の通信機に、グレースから連絡が入る。


『見つけましたよ』


 グレースの興奮した声が聞こえた。グレースはこの二日間、クルーの一人とバギーで回帰線内を走り回りながら、クリスタル観測を行っていたのだ。


「利用できそうですか?」

『R1とそれほど離れていないので、十分利用可能です。今、軌道の最終計算に入っています』

「助かります。お願いします」


 ほっとした顔でこちらを向くレイにトーマスが「良かったですね」と笑顔を向けた。これも、賭けの一つだった。


「ハル、これからSOSを太陽系に送る。その方法を説明する」


 レイが真剣な顔でハルカを見つめた。



 方法は以下の通りだった。


 1、軽飛行艇の通信機でSOSの信号を送る。

 2、信号は、ホールで見つけた過去の装置――重力加速器の一種らしい――で、信号をエネルギー波として重力加速し、スピン――回転角運動量を与える――させる。

 3、スピンされたSOSの信号エネルギー波をパラボラアンテナ――軽飛行艇のボディなどから即席に作ったもの――で上空へ送る。

 4、上空に浮かんでいる上面がレンズのクリスタルR2がこのスピンされたエネルギー波を宇宙の焦点ポイントへ収斂させる。

 5、宙間のレンズ焦点ポイントで、収斂強化されたエネルギーのスピンにより、空間構造に対して重力ストレスがかかり、その結果、テンソル値に応じて一部が空間の壁を突き抜けて亜空間へ突入。残りの大部分はそのまま宇宙に放たれ拡散する。

 6、亜空間を走り、やがてエネルギーの拡散によって減速した波長は、再び宇宙へとドロップする。


「太陽系の重力圏オールトの雲辺りまで行けていれば、必ず、斥候監視衛星が拾ってくれるはず。ね、簡単でしょ」


 レイが無邪気に言った。ハルカはショートの髪をくしゃくしゃに掻き毟った。


「どこが簡単なのよ? だいたい、動力はどうするの? 飛行艇の燃料なんかじゃ、全然足りないでしょ?」

「動力はあるんだよ。変換すればいいだけなんだ」


 ハルカはすごく嫌な予感がした。

 金属板やシリコン膜などを引き摺ったごつい大きな機械を、トーマスが無事な軽飛行艇に積み込んでいる。もう一つの飛行艇をバラバラにして作っていたものだ。


「これは発電機だ。光の熱量を電気に変換する。頼んだぞ」


 ぽん、と気軽にハルカの肩を叩いた。


 ――頼まれたわよ? 何を頼まれたの? あたし。


「ハル、君がその発電機を作動させて電力を作り、その電力で僕が加速機を動かす。一瞬の勝負だ」

「勝負?」

「うん。動力は、レンズが送る熱量だから」


 ――それ、まじで死ぬんじゃない?


「でも、ほかに助けを求める方法がない。調査船が帰って来ないのが解ってから救助隊が派遣されて来るまで待つことはできないから」


 確かに重傷者の容態は一刻を争う。カルッソなんかは自業自得だが、だからといって、死んでいいわけではない。彼を助けようとしたグラスゴー研究員は、なおのこと助けてやりたいとハルカも思った。マキノ博士もクルーの仲間も予断が許されない状態だ。


 じっとハルカを見つめる真摯な紫の瞳を見る。

 レイはこれを自分でやりたいのだと、わかった。レイは未だに自分の責任だと思っている。

 そして、今ここで全力疾走して一番速く走れるのは、ハルカだろう。

 これを遣り遂げることで、レイの心の負担を少しでも取り除いてやれるのなら、命を賭ける甲斐もあるというもの。



「わかった。あたしに任せて。走るのなら自信があるのよ」

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