3話:母親
三話目ですが、母親サイドとなります。
どのようなものか未だ分からないところもあると思いますがその部分は、次回以降に説明致します。
この世界で、奴隷と呼ばれる人は99,99%を占めている。
残りは市民・貴族・王族と呼ばれている人達である。
奴隷とは政治・王に税金を納めることをしなくてよい代わりに、支給された労働をする人のことである。
しかし0才から10才の間までは子供の各々の能力を高め会う時間であり、労働はしなくていい。
10才を過ぎるとどの種族も大人になり、それ以後は寿命が尽きるまで働くこととなる。
市民になる為には自らの土地を治めている貴族に、持ち金の半額である3金貨と5小金貨を払わなくてはいけない。
奴隷と呼ばれているもの達が一生で稼げる量の平均が3金貨5小金貨と言われている中で、その額の倍を生きている中で稼ぐことが出来る者は極少数である。
奴隷から市民になれる者達は、皆、魔法・武器を使える、『冒険者』となるものしかいない。
この区域では年に1人か2人市民になったものがいるが、世界で何処の場所の人に聞いてもこの職業の人しかいないのである。
勿論、皆平等に能力はあり、己の努力次第で魔法も武器も使うことが出来るようになるが、どんなに努力をしても一部の人しか市民に上がるような実力者にはなれないのだ。
最下級魔物1体を倒すことにどれだけの強さが必要かは誰もが知っている。
奴隷の間で、冒険者の次に良いとされている職業は王宮での実験の雑用又は王族の食事の毒味である。
勿論、その2つも冒険者には匹敵しないものの、魔法・武器が使えなくてはいけない。
私……ベルは、幸運なことに王宮での実験の雑用をさせてもらっている。
日給で雇われているのに関わらず10年間も1日もなくなることなく仕事をさせて貰うというのはかなりの幸運だろう。
更に最近、実力が冒険者にもう少しでなれるところまで来ていると言われたのだ。
1ヶ月前にルイを産んだ身としても市民になれる可能性が上がると言われたことに、喜びを隠せず思い出す度に鼻唄を歌ってしまう程である。
王族の食事の毒味を職業にしている夫、イセルももうじき冒険者になれると言われたそうで、最近では、2人共無事に冒険者になれることになったらパーティーを組もうとお互いに言っている。
仕事が終わり、家に着いて家に開かれた穴を見ると、東の端に太陽が半分だけ顔を出しているのが分かった。
陽光が乱反射しダークブルーの海面が昼間より一層輝いて見える。
太陽が見える位置の時に帰れたのはいつ頃だろうか。
久し振り過ぎて覚えていない。
感傷に浸り時間を潰す趣味でない私はそれだけ確認すると、持っていた道具をテーブルに置く。
夜になると暗くなるのでいつも火魔法をランプに灯しているのだが、未だ太陽が出ているので薄暗いがいいだろうという判断をしたのだ。
真っ暗にならないなら使わない方がいいという風に下の階に住む両親に教えられてきたので、というのが薄暗い中でも使わない理由である。
魔法にも使うことにより何らかの副作用があるらしいが、それは何なのか分からない為に副作用はないということになっているから、訓練でもないのに関わらずやたら無闇に使うのは良くないのだそうだ。
私としては、それだけでは確信が得られないことなので納得がいかないが、下の階にいる両親に咎められたくないので薄暗い中に居たとしてもランプを着けないことにしている。
ルイはどうしているだろうか。
ご飯のことは生活魔法を使っているから心配ないのだが、寂しくて泣いてないだろうかとどうしても心配になってしまうのだ。
リビングへ行くとルイがいつものようにいた。
いつもと違うことは、首が座っていることだろうか。
……おかしい、普通、生後1ヶ月で首座りは早すぎるのだ。
抑、首の骨が出来る時期は未だ先で、生後3ヶ月で首座りが漸く出来るハズである。
複数の友人から聞いた話しで、皆同じく生後3ヶ月と言っていたから、物理法則を飛び越えでもしてしまわない限りこんなことにはならないハズだ。
「ねえ、ロン。こんなことって有り得るの?」
困って思考が混乱した私は、私の契約精霊であるロンに聞くことにした。
ロンは精霊という、半分不死身の存在なだけあり、私の20という年齢の何倍もの時間を生きている為に、聞けば何か教えてくれると希望を持って。
精霊魔法を使う為には精霊と契約を交わす必要があり、私は下級だが、精霊と契約を交わすことが出来た。
下級と言っても精霊と契約を交わせられる奴隷は、エルフとドワーフを除き殆どいない為、契約を交わせたこと自体価値がある。
下級精霊が沢山の魔力を貰えられれば、中級精霊になれるのだが、中級精霊は市民の上の方からしか持てる程の才能がある人はいらっしゃらない。
私にそんな魔力があるハズもなく、ロンが中級精霊になる道は随分と先のようである。
「んー、有り得ない話しじゃないよ?体内に元々ある魔力が高い人程成長が早いから。でも、この成長の仕方は貴族並みだからなー。プラス要素で他に有り得るのは転生者ぐらいかな」
コバルトブルーのショートに、大きな目に顔全体の彫りが深く整っている顔、平民の着るであろう、「洋服」と呼ばれる服と、私の掌程しかない身長。
人懐っこいが同時に警戒心が高く、明るくて笑顔が可愛くて、「君と一緒に居ないと僕寂しくて死んじゃう」が口癖。
そんな彼女こそがロンである。
転生者。
そのワードはいつも聞いていたものであった。
王宮での実験の雑用をしている時には、何の実験をしているのか、渡されたものが何に使われるのか、流した魔法が何に使われるのか、私には何も告げられない。
しかし、実験している人達の交わされる言葉を聞けば大体言いたいことは分かる。
彼等は、犯罪奴隷を使い捨てで使い転生者について調べていることや転生してくる人達は前世で何かしらの才能があった人であるということといった、重要なことではないかと感じることすらある。
だが、それまでのことで転生者についての知識を得た私は、逆にそれは有り得ないと思うのだ。
「転生者は、皆市民以上の人のところにしか生まれて来ないから、有り得ないじゃない?」
そう。
転生者が生まれてきたのは市民以上の人達のところしかないのだ。
今まで一度としてない自体だから、考え難かった。
抑、市民以上の人達が生む子供には、転生者しか生まれて来ない。
それは奴隷と市民との絶対的な差で、越えるには自らが市民になるしかないのだ。
尚、王宮での実験でそのような結果になっている可能性もあるが、私にはそれは分からない。
「そうなる理由ってのは実験でも未だ分からないらしいよ!だから有り得たりするんじゃない?」
「なるほど……!!ロン、ありがとう」
王宮にロンーー奴隷の精霊ーーは入ることを禁じられていて、更にロンには王宮に仲間の精霊がいないので、実験の内容を知っている理由が分からなかったが、お互いのプライバシーは守らなければいけず、無闇に干渉してはいけないので、ロンに直接聞くことは止めた。
ロンに聞いていないだけで、伝があるのだろう。
そんな話しをしている間にルイは寝てしまったらしい。
何か魘されている表情をしているが、このようなことは誰にでもあることであるから心配要らない。
ルイが起きてくるまでに夕食を作ってしまおうと思う。
これからルイがどうなるのかが楽しみだ。
中々小説を書く時間がない……明日投稿できなかったらすみません……。