御霊送り
天へと向かうあなたへ贈る。
pixivにも同じものを投稿していますので
読みやすいほうでどうぞ↓
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少女が歩く。その足音からはチリンチリンと鈴の音が聞こえる。暗いくらい闇の中、少女は鬼灯の灯りを頼りにただまっすぐに歩く。
「僕はここにいるのに…。なんでみんな気づかないの…?」
一人の少年が声をかけても誰も気づかない。それどころか俯いて涙を流している。少年は自分が死んだことには気づいている。だがそれでも、彼らの悲しむ顔を前に天に昇ることはできなかった。
「なんでそんなに悲しい顔をするの? 僕はここにいるのに…」
どんなに語りかけても気づかない。答えてくれない。少年は彼らに触れようとする。しかしその手は彼らをすり抜け宙をかいた。少年は自分の手を恨めしそうに見つめた。
チリンチリンと音がする。その音はだんだんと大きくなる。少年がその音に気づいて振り返るとそこには鬼灯を持った黒衣の少女が立っていた。
「あなたはなぜ天に向かわないの…?」
少女が投げかけた言葉につまる少年。そして少年は彼らを見る。その視線に釣られるように少女も彼らを見下げた。
「こんな悲しんでいるのに、昇ってなんていけないよ…」
そんな少年の言葉に目を細める少女。
「彼らが悲しまなくなれば、君は天に向かえるの…?」
その言葉にうなずく少年。少女は小さな笛を取り出して吹く。笛の音は高く澄んで彼らの耳に届いた。しかし彼らはそれに気づくことはなく、その場に崩れ落ちた。その様子に少年は慌てだす。
「な、何をしているんだ…!?」
少女は少年の様子には目もくれず、のんびりと語りだす。
「少しだけの間、君を彼らの夢の中に出すことができる。君がそこで何を語るかは君次第」
そしてもう一度笛を吹くと、今度は周囲が明るく照らされた。真っ白な空間の中には、彼らと少年の思い出が渦巻いていた。
「夢現の笛は少ししか猶予をくれない。さあ、早く」
少女は少年の背中を強く押した。その手はほんの少し温かかった。少年がふと下を見ると、彼らがこちらを見上げていた。少年はそのまま下に降りていく。
「………」
言葉が見つからないのか黙ったままの少年。彼らは声を発することもなく少年を見上げていた。やがて意を決したように少年は口を開く。
「今までありがとう。…僕はずっと見守っているから、そんなに悲しまないで」
少年の言葉が終わるとともに光が弾けて、もとの場所に戻った。そして彼らは目を覚ます。そして、お互いに顔を見合わせ確認するようなそぶりをしている。
「満足した…?」
少女は小さくつぶやく。少年は彼らの様子を見て、そして少女を見た。その目には小さく光るものがあった。
「君は彼らに“ずっと見守っている”と言ったね…」
少女の言葉にうなずく少年。その目には決意の光で満ち溢れていた。
「…神さまには口添えしておいてあげる」
少女はそう言うと、ふっと煙のように消えていった。最後にチリンという鈴の音を残して。少年はもう一度だけ彼らを見ると、少しだけ安心したような顔をして天へと昇っていった。
チリンチリンと鈴の音が小さくなる。少女はのんびりと闇の中をさまよう。鬼灯の灯りを頼りに。もしかしたら、また彷徨える死者を見つけたのかもしれない。
余談的なもの↓
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