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時空の戦禍  作者: Lirurw
湊市
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船場にて

 

 人で大層賑わいをみせる繁華街『湊市(みなといち)


 ここは日本でも指おりの港町で、海外からの品物の集積地点だ。

 外国からのあらゆるものが運びこまれ来る。

 中には到底見ることの叶いそうにない物まであるという。

 ここは貿易関連の事業の中心地だった。



 *○*○*○*○*○*○*○*○*○



 __⒈ 孤高の男__



 海から流れる鯨が鳴いたような音。

 どうやら船の汽笛のようだ。


 船の鈍い汽笛音は港に近い繁華街まで響き渡る。

 船場には沢山の貿易船が横並びに停泊してあった。


 そんな中、一羽の白いカモメは【クワー、クワー】と鳴きながら、汽笛をちょうど鳴らしていた巨大な船の上を飛翔していた。


 良い足場を見つけたのだろう。そのカモメは高度を下げていき、岩盤の上に足をつける。そしてクル、クルっと一、二度頭を回した後、旅の疲れを癒すかのようにくちばしを羽にやり、毛づくろいをし始めた。


 たまたま黄色髪の女は、その鳥に気付く。

 彼女は船からちょうど降りたところだった。


 白い服装はまるで白百合のように綺麗であり、肌の白さもあってか、彼女はまるで妖精の国から来たお姫様のようだ。


 ふわりと膨らむ白いスカート。

 髪は豊かな胸の辺りまで垂れており、可憐な唇は朝日の陽光を浴びてキラキラと輝いている。


 彼女は口に少し手を当てながら、細い目でその鳥を見た。


「あの鳥は、しろカモメですね。」


 透き通った声でそう呟く。


 そしてその言葉に続け………


「チドリ科カモメ亜科の鳥の総称、飛翔力が高いのが特徴的。だけど、海面や海岸で死魚や動物の死体を喰らう、残忍で、非人道的な鳥…な一面も持ち合わせる……でも、私はそうは思わない。寧ろ残忍で非人道的なのはこの鳥にではなく、寧ろそれを殺したもの、それを彼の習性へとせしめたものの方がなお悪いから。」


 と、言った。

 カモメはその女の言葉を理解出来るわけでもないので、のうのうと目を港の方向に光らせる。


「……可哀想ね、白いカモメと言うのは……」


 彼女はその鳥を哀れむような目で見ながら、そう言った。


 鳥はお目当てのものが目に入ったのか、その場を軽快に飛び立っていく。大きく広がった翼は、とても美しいものだ。


 その飛びゆく白鳥の姿を見た後、彼女は


「……あなたはどう思いますか、あの白いカモメの事を」


 と、髪が潮風に煽られる方向にいる、左眼ざ眼帯で覆われている男に向かって声をかけた。


 男は無表情で女を見ており、着ている黒の羽織は何度もハタハタと翻っていた。


 その声を聞くや少年は自分の体を反転させ、そのまま彼女とは別の、繁華街のある方向へと足を進ませる。

 どうやら、彼女の問いに興味がなかったようだ。


「…………」


 女は相手にしてくれなかった男の後ろ姿を無言で見た。


 そこには彼の後ろ姿がある。


 彼女は踵を軸にして履いている白い靴を反転させ、何も言わずに彼の後へとついて行くため、足を動かした。


 この場には、潮の流れる音とカモメの鳴き声だけが入り混じって聞こえる。

 その影響もあるのだろうか、どこかしら、彼女の背中が心細く見えたのだった。


 


 *



「…助けて……はぁはぁはぁ…」



 女性は息を荒くしながら、必死に走る。

 顔には怯えた表情しかなく、色は真っ青。身につけているドレスは、元々は綺麗であったのだろうが、今はあちこち汚れており、ボロボロな状態だった。


「助けて………助けて……」


 女性は吐息交じりに助けを乞う。叫び声はあたりの建物に響いた。


 だが、周囲はまるで色を失った世界。そこにあるのは、時間が止まった繁華街の光景だけだ。


 人はその景色の一部と化したように動きを止めていた。

 カメラのシャッターをきった一瞬の光景にはまっているかのように。



 そんな中、女性は涙目になりながらも狭い路地を通り、懸命に走る。




 その女性の後から迫り来る激しい物音。


 彼女の後ろを見てみると、そこには頭には赤い8の目が宿してあり、黒い足は6本の黒い影。


 つまるところ、人間よりちょっとデカイ蜘蛛である。


 蜘蛛は家の壁の上におり、その女性を食らおうと必死にその六本ある足を動かしていた。太い足には毛が沢山生えている。



 普通ならばすぐに埋まるはずの二人の距離ではあるが、逃げる女性が通る路地の選択が良いのか、差は一定を保たれていた。


 だが、それも今での話。



「……助けて……助けて…はぁはぁ、助けて…きゃっ!!」


 女性は何やら地面にあった段差につまづいたのか、転げ倒れてしまう。

 いたたた、と、足を見てみればそこには青く充血する箇所があった。走るだけでなく、立つことさえ困難な怪我だった。足を踏めば、ビリビリと刺激が頭の中を駆け巡る。


 蜘蛛はその女性の姿を見るや走るスピードを更に上げ、口元からは多くの白い粘着液をダラダラと垂らす。獲物を喰らえるとあって、喜んでいるのだろうか。口元はカシャカシャと歯音を立てていた。


 女性は目元に涙を浮かべながら、迫り来る蜘蛛を見る。


 涙がポロリと一粒、地面に落ちる。


 口元は『嫌だ嫌だ、死にたくない』とパクパクと動かしており、顔は涙でしわくちゃだ。迫り来る足音は周囲の音を掻き消す程に大きくなっていた。だから、その彼女の声は掻き消されてしまい周囲には届かない。


 蜘蛛は女の前に来る。

 そしてその後、口についた二つの牙を左右に動かせながら、足を二本宙に浮かせるのだった。


 何とも不気味で嫌な音。


 軋む音が周囲の空気を震わせる。

 蜘蛛は唾液をダラダラと地面に垂らしながら口を女性へとゆっくり持っていった。


 女性は恐怖におののきながらも、後ろへ後ろへと体を引く。だが不幸なことに後ろは壁となっているため、どうやらここまでのようだ。


 牙が腹部を捉えるまであと20cmのところになる。


 女性はビクビクしながら、目を摘むる。そして死の覚悟をした。



 と、その時だった。




「死になさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!」


 幼女の声がこの場に響く。


 その直後、空中で回転しながら斧がその蜘蛛の頭をめがけて突撃してきた。


 破裂音が辺りに響く。


 その斧は見事に蜘蛛の頭にクリンヒット。そして蜘蛛はそのまま食らった衝撃によって横へと吹き飛んで行く。

 その際、顔はプレスにあったかのように潰れながら。


 蜘蛛は横へと体を流され、壁にぶつかる。


 あの攻撃は死に直結するものだった。


 だから蜘蛛は空に足を立てるや縮こまり、そのまま動かなくなった。もちろんそこにもとよりあった顔はない。


 それを見て蜘蛛の撃退を確認した幼女は、ビクビクと目を挙動させていた女性にむかって、


「大丈夫でしたか。」


 と言った。


 女性はふと声のかけられた方向を見る。

 すると、そこには笑顔を見せる幼い女の子が立っていた。


 涙目のまま、静かに「うん」と首を縦に落とした。

 彼女に出来たのはこれくらいだった。あまりの事に腰を抜かしてまい、言葉が出ないのである。

 気がつけば彼女は意識を失い、この場に倒れる。



紅葉(もみじ)隊長、どうしますか?」


 紅葉と同じくらいの少年は、倒れた女性を見ながらそう言った。彼はメガネを掛けており、それを中指で上げズレの調節をする。


「運ぶに決まっているじゃない!!」

「えーー。重いでしょ、どう考えたって。」


 バシンっと少年は紅葉にしばかれる。


「レディーに向かって、そんな禁句を言うな。」


 彼は涙目になりながら、痛む頭を摩る。彼女のアレはとても痛い。なぜなら、指輪がはまった手でされるのだから。


「………二度と、言いません。」


 彼はしょぼんと、そう彼女に言った。



「紅葉隊長、やけにここ息苦しいとは思わない?」


 別の少女が彼女に言う。


 辺りは静かで、何もおかしいようなところがなかった。知らせがないのは良い知らせだ。


「そう……私は別に何も感じないわよ。琴音(ことね)。」

「そう……」


 琴音は不満そうに言う。


「それより、(あきら)千種(ちぐさ)はどこにいるのよ。」


 紅葉は少し頬を膨らませながら、そう言った。


 ここにいるのは二人を合わせてたった三人。

 本来は5人いる彼女の部隊だった。


 今回の件もさっきまで一緒に行動していた。


「どうせまた彼奴らの事なんだし、何処かで道草してんじゃねぇーの。」


 メガネの少年は頭の上で両手を組みながら、紅葉に向かってそう言う。


「はぁ……」


 ため息をつく紅葉。


「私って、そんなに頼りないリーダーかしら。」


 タメ口を一つごぼした。


 彼女の近くにいた琴音は両手をふりながら……


「そんな、事無いよ。……紅葉は、とてもいいリーダーよ。」

「本当に。」


 紅葉は上目遣いで、琴音を見る。


「本当………ほんとだよ。きっとあの二人、事情があって遅れてるだけだよ。」


 琴音は苦笑いを作りながら、彼女にそう言った。

 その際、彼女の手には大量の汗が吹き出ていた。


「ふぅーん、そうなのかなぁ?でも、まぁいいわ。とりあえず、彼らを探す事にするわよ。」


 紅葉はため息をつきながらも、足を飛ばした斧の方へと向かわせる。

 そして掴むや……


「行くわよ。」


 と言った。


 女性を運ぶにも三人がかりでは到底無理な話だ。そのためもあってまずは彼らを探なければならない。


 二人はコクリと頷くや、彼女の後ろについて行った。


 

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