雨夜 雫は災害に満ちる
☆雨夜 雫_※主人公。
高校男児。平凡。特に趣味はない。
『世界は本当、退屈だ』
☆鈴川 藤四郎
高校男児。ヲタク。魔法少女テレルヤロッテファンで、部屋には彼女のフィギュア数百体がある。
『世界は俺中心で回ってんだよ。勿論テレルヤロッテ様のおかげでな!!』
☆春霞 愛華
女子高生。学校随一のアイドル的存在、雫の幼馴染み。雑誌をよみ、女子力UPに勤しんでいる。
『雫、今日はちゃんと朝ご飯食べたかなぁ。』
「「リア充よ、バニッシングせよ!!」」
【騒がしく煩く大きく汚い】口が、俺の顔前にあった。
お陰で俺の顔はこのモルモット体型のデブの唾塗れだ。
この霧吹きから出たかのように満遍なく広がる唾の噴流は【キモい気持ち悪い気色悪い】のは当然の事ながら、ましてその口から吐き出される温室効果ガスや何やら毒ガスも入っているのではないかと思うくらいのラフレシア級吐息は、俺に吐き気を促すくらいだった。
とそんな事を思っていると、俺は思わずモザイクがかかるであろう汚物が口から出ると云った吐き気を本当に覚えてしまうが、咄嗟に抑え込み、何とか危機を脱する。
クセェ〜よ、このモルモット。何食ったらこんな息になるんだよ。
ってか、何だよリア充って……俺リア充じゃねぇし。
「「お前みたいなク〜〜〜ズは、この魔法少女テレルヤロッテ様の加護を受けしこの、鈴川 藤四郎が成敗してくれるわぁ〜〜。」
俺は何故かしら、モルモット……いや、藤四郎が糾弾する受け手となっていた。
理由はどうやらリア充にあるらしいが、俺には何の事を言われているのか身に覚えがない。
ってか、ロリアニメ、お前見てんのな。
「お前、相変わらずそんな物に身を通じてんのかよ。高校生だろもう………何だっけ……魔法戦……」
言いかける途中だが、藤四郎は俺の言わんとする事を察してか、彼は眉間に更なる皺を増やす。
「魔法少女テレルヤロッテ様だ!!」
うるせェーよ。声のボリューム下げやがれ。
藤四郎のその声はこの45人が狭苦しくも入る教室の中を響き渡るには十分過ぎる大きさがあった。いや、十二分の大きさがあった。
言わずと、周囲からは痛い程感じる視線が俺ら二人に注がれている。あぁ、もうこうなってしまっては、帰って布団にこもって絶叫したい気分だ。
そんな中にも関わらず、この藤四郎はゴミでも見るかのように俺を蔑む視線で『他人の視線など、俺にはどうでもいい。俺は正義の鉄槌をお前に与えているんだ。寧ろ公衆の目が気持ちいいくらいだ。』と言っているかのようにお構い無しに降り注いで来やがる。
「お前みたいなクズが魔法少女テレルヤロッテ様の名を呼ぶとは何と卑劣極まりない所業だ!!もうお前はフルボッコの処刑しか無いな。」
糾弾の次は執行判決と来た。もうここまで来たら呆れてものが言えない。
何れだけお前の中では、魔法…うんちゃら、とかいう奴が高貴な存在になってんだよ、全く…。
しかし、藤四郎の目には何やら不気味に光る輝きが、あった。それは危ない殺気をおどろおどろしく漂わせている。
「…オイちょっと待てお前、少しは落ち着いて俺の話を聞け。」
俺は慌てて、言葉を紡ぐ。
今にも彼の目の内側に灯(灯る)る赤い炎は、俺を翌朝の○日新聞の被害者リストに載せそうな勢いだった。
もちろん彼は大々的に『犯罪者X 同級生を殺害?!動機は魔法少女テレルヤロッテ?!』と書かれ、冷たい檻の中に入る事になるでしょうが。
こういった俗世間とは別に、自分を『仮想世界』という所に置く奴程、何をしでかすか分かったもんじゃない。
現に『ゲーム感覚でちょっと人殺してみました。』などと言った訳の分からない事が起きている。
「何故この正義の味方の藤四郎様が、お前みたいな人類の切れ端の意見を聞かなくちゃいけないんだよ。」
ハイ、予想はしてました。
その前に、弱き者の立場に立つという正義のヒーローの絶対条件だ。
これではただの、偽りのヒーロー、暴君以外何者でもないじゃないか。
『人がまるでゴミのようだ』といった決めゼリフを言うム○カといった所だよ、お前は。
「そもそも、何で俺はお前の制裁を喰らわなければ、ならないんだ。」
「なぬ!!!貴様、自分が置かれている立場を理解して無いのか!!」
「してねぇーよ。」
即答。
「………こうなったら、こうなったで仕方あるまい。知らぬがお前の罪だ。理解し無せぬはお前の罰。」
「何でそうなる。その前に、一言言わせて貰うが俺、リア充じゃないぞ……」
「…何を言うか貴様!!かの尊き『春霞 愛華』様がお前と一緒にいるではないか!!」
あ、そうか。こいつは愛華と一緒にいる俺をリア充と勘違いしているのか。
俺は彼の言い分に少し納得がいった。
『春霞 愛華』は、学校でも⒈⒉を行く美少女中の美少女でありながら、学年1位の優等生。
周りから常に脚光を浴びるカリスマ的存在。
そんな彼女と唯一女子を覗いて接しているのが、この俺、雨夜 雫であった。
そして恐らくはそれについて彼は今、俺に糾弾しているのだ。
俺と愛華はただ幼馴染みという間柄で、それ程深い関係があるという事ではない。
つまり結論から言って、この藤四郎が言っている事は全て勘違いだと言う事だ。
現状に納得できた俺はその趣旨を彼に伝えた。
それを聞いた藤四郎は、驚きの顔を作り、首を何度も横に振る。
「……嘘だ、嘘だ。お前は、いつもあの方の側にいつもいるではないか。」
「……お前、さっき言ったろ。それはあいつが俺の所に来てるだけなんだって。」
「……だからこそ、従い従われるの関係が出来ているではないか……」
「あのなぁ。それは幼馴染みであっての事で、特にそれに関して深い訳があるんじゃないんだよ。」
その俺の言葉を聞いてもなお藤四郎は、額に青筋を入れながら、状況が把握出来ていないと見て取れる。
現に目の前では、耳に手を当て「うわぁぁぁ」と言うかのように無言の叫びを床に向かって吐いていた。
「………お前は悪だ。お前は悪だ。」
「なんでそうなるんだよ、お前。」
「……煩い、俺が正義でお前が悪。何故なら、あのお方の横に立っているのだから。」
オイオイ……お前は彼奴の側にいる奴、全てに断罪をするのかよ。はぁ〜〜。何で俺はこいつに関わる羽目に……。
俺はこの現状を愛華が齎した最悪として、認識する。
全てのことの始まりは彼女の魅力によるものなのだから。
弁明する機会が失われいた以上、何もする事が無くなった俺。
頭上高く上げられた藤四郎の拳が、俺の肉体に届くまでにどれくらい時間が残っているだろうかと、俺は想像した。
また、俺はどの様な被害をこの身に被るか、想像する。
どの予想図も結局終焉は同じ。
そこには意気消沈する俺の姿がある。
と、そんな時だった。
窮地に立つ俺の元に、天使のように柔らかな声が俺の耳に届く。
「何をしてるの、藤四郎君に、雫……」
その時始めて、俺は幼馴染___ 春霞 愛華は凄いやつだと思った。
藤四郎はさっきとは打って変わり、振り上げた拳をパーに変えて、いきなり何処ぞの民族踊りを踊り始めたのだった。