研究室には……
「何か問題でもあるの。」
暦は何かと不思議そうに俺の顔を覗き込む。
「くると………後悔するぞ。」
俺はただ言葉を並べるような感じで、言った。
今自分は武器の仕上がり具合を伝えたいという伝令を受け、研究所へと足を進ませている所だった。
武器はこの世界において、命を保つためには欠かせぬものである。
しかしその事がキッカケで、問題が発生してしまった。それはもちろん今の現状のことを指す。暦が獲物を喰らうために、追いかけ回すかのように俺の後を追ってくるのである。
今思えば、なぜ自分はあんな失態をしてしまったのだろうか。頭が悩まされる。
もし自分が手紙を見た際に、大々的に背景として描かれていたあの奇妙な絵に顔を引きつらなければ、こんな状況には陥っていなかったからだ。
そしてまたその後の、暦に不意に声をかけられ慌ててその手紙を背後に隠してしまった行動にも悔やまれる。
それをしてしまったが為に、余計な不信感を持出せてしまう羽目になったのだ………
俺は直ぐにでもこの場から逃げたい気持ちでいっぱいだった。
「何それ、詳細な説明を貰えるかなぁ。どうして研究室には行くのに、私はついて行ってはいけないの?」
相変わらず、俺の気持ちを汲みしない暦は食い付くように話しかけてくる。
「世の中には理由を説明するのには時と場合が必要なものもあるし、知らぬが仏の事だってある。…」
「雫、それはつまり断固として言わないと解釈させてもらっても構わないということかしら。」
暦は目を尖らせ、じーっと俺の心の裏を伺うように見てくる。
そもそも彼女には研究所に特に用事と行ったものはない。あの出来事があって、興味本位に俺の隠し事を暴こうとしているだけだ。
「……お前、研究所には特に、用事といったことは無いだろ。付きまとうな。」
「……確かに『特には』、これといった用事は無い……けど、この際、顔合わせするのにいい機会だと思うわ。」
(お前は何処ぞの、叔母ちゃまかよ……)
俺は小さな声で履くようにそう囁いた。
「何か言ったかな?雫。」
暦は微笑む顔の下で、皺が入った拳を作る。
俺は宙に視線を向け、言葉を探した。
「ただ………」
「ただ?」
暦は、ますます疑いのある視線を強くする。
目の表情からして、『どうせろくでもないことで頭を悩ましているに違いない』とする彼女の判断が伺える。
何か言いたいところだが、肝心の言葉が出てこないため、俺は説得することが出来ない。
「…ついてきてもいいが、後悔だけはするな。…理由は扉の向こうに入ったら、分かる。」
研究室の話はしたくない。なぜならそこには、あいつがいるからだ。でも、それををどう言って伝えればいいかのか……
必死に言葉を考える中、暦はその重い唇を開いた。
「あなたが私に事の詳細を告げない理由として考えられることは、3つあって、一つは羞恥心から、二つ目は誰にも言ってはいけない、秘密にして置かなければならず強制的に口止めさられているから、そして三つ目は私をからかうため。」
暦は足を急に足を止めた俺の前に来るや、そのまま背を向けたまま話の続きをした。
「しかし、あなたのオドオドする態度を見る限り、三つ目が理由だとする線は考えにくい。となれば残りは二つ。でも前の行動からして………」




