47.主張の切り崩し(1)
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確かに、ラティニオスの根拠は説得力があった。これを切り崩すのは容易ではない。
しかし、向日葵はすぅと息を吸い込み、吐き出す。そして目に力を込めた。
「なるほど、それは説得力のある根拠ですね」
「では、こちらの主張が正しいと認めるのかな?」
「いいえ」
ラティニオスの言葉に、即座に力強く向日葵は否定する。そんな向日葵の言動に、ラティニオスの瞳の奥で、好奇心の炎が揺れた。
そして、ここにきてようやく向日葵は反撃を返しした。
「ラティニオス様の根拠には、大きな見落としがあります」
「ほう」
ラティニオスの目が光る。
「お聞かせ願えるかな」
「はい」
そして、向日葵はこれまでの情報から得た情報から、ラティニオスの根拠を崩しにかかる。
「まず、〈盾〉がすでに死亡しており、こちらにいる存在が偽りだった場合、考えられる可能性は三つでしょう。一つ、禁術である『人造生命創造魔術』であると言う可能性。そして二つ目、こちらも同じく禁術である『死者蘇生魔術』を用いた可能性です。しかし、この二つの可能性は排除してよいでしょう」
「何故かな?」
「それはラティニオス様の先ほどの言葉が証明されております。曰く『禁術は世界から反動を受ける』。つまり、禁術を用いてこちらの『雨宮太陽』が存在していた場合、もっと明確な形で『反動』が現れているはずなのです」
「それはどうじゃろう。ただ即効性がないだけかもしれないぞ」
「であるのならば、現段階でこちらの根拠を『雨宮太陽間者疑惑』の根拠に挙げるのは不適切ですよね?」
向日葵は淑やかに微笑む。
それにラティニオスは静かに顎を撫でた。
「なるほど。それでは三つ目の可能性を教えて頂けるかのう」
「三つ目の可能性、それは【屍姫】が雨宮太陽の骸を使用し、死者を魔術で動かしている場合です」
「なるほど、死霊魔術師による可能性か」
「死霊魔術師、ですか?」
ラティニオスがこれまでと違う声音で、ぽつりと呟く。そのあまりにこれまでと違う様子に、向日葵は思わず尋ねてしまう。
「左様。死者や骸を使用し、または媒介として発現させる魔術を使う者を死霊魔術師と呼称しておる」
「それは禁術の一種なのですか?」
向日葵のまっとうな疑問に、ラティニオスは首を横に振る。
「否。しかし、限りなく黒に近い灰色じゃ。――何せ、死者を冒涜する魔術じゃからな。禁術ではないが、忌避すべき魔術の一つじゃ」
死霊魔術を使う者は今や絶滅したと言われておったがの、とラティニオスは締めくくる。
そして、
「すまなかったのう。話の腰を折ってしまったわい」
と続けた。
そのあまりに余裕綽々な様子に一抹の不安と怒りを抱きながら、向日葵は続ける。
「では続けさせて頂きます。もしも死霊魔術で雨宮太陽が活動してた場合、ラティニオス様の言葉から推察するに体温や鼓動はないはずですよね?」
「そうじゃな。死霊魔術はあくまで骸を使った魔術じゃから、根本的に生きているわけではないからの」
「では、そこにいる彼に体温、そして鼓動があればこの可能性は排除できますよね?」




