43.決着
本日3度目更新。
向日葵が切った最大のカードに対して、ラティニオスが口を開いた。
「それは脅迫かのう?」
「いいえ、警告です」
ラティニオスの厳しい声に、向日葵は冷静に返す。
そして、向日葵が反撃とばかりに口を開いた。
「そのような言葉が出てくるということは、我々を侮っているということですね? このような乳臭いガキに自害するような気兼ねはないだろう、と」
向日葵が言い終わった瞬間、血が舞った。
今まで目を閉じて静観していた大地が、衛兵から奪った剣で、己の腹部を貫いたのだ。
大地の額から大量の脂汗が吹き出る。しかし、大地は歯を食いしばり、わずかに呻くに留めた。
血の匂いが部屋中に充満する。
大地の行動に、再び部屋がどよめく。そっちがその気なら本当に自害も辞さない。それを大地は行動によって示したのだ。
これにはさすがのラティニオスも僅かに目を見開いた。
大地が腹を剣で貫いたにも関わらず、向日葵は清廉な顔を崩さない。
「お分かりいただけましたでしょうか」
その一声に、ラティニオスがわずかに息を吐いた。
そして。
「……ならば、<巫女>さまは我が国に対して何を要求されるのかな?」
それは一時的とはいえ、向日葵の勝利とも言える言葉だった。
四強の一角である国から、譲渡の言葉を引き出したのだ。これを勝利と言わずになんというのだろう。
向日葵は変わらず淑やかな笑みを浮かべ、清廉な顔のまま告げる。
「対等な関係を望みます」
「そちらのいう対等な関係をお聞かせ願えるかな?」
ラティニオスは相も変わらない口調で尋ねる。
「まず明確にしておかなければならないのは、貴国が我々を強制的に、こちらの意思を無視して、異世界に召喚した上にこの世界を救えと言ってきている点です。こちらの認識で齟齬はございませんか?」
「……それを否定すると後が怖そうだのう」
「では認めると?」
「アモルトス王国宰相として認めよう」
ラティニオスが向日葵の言葉に深く頷く。
「では、詳細は後ほど詳しく詰めるとして、最低でも二つ、今ここで締結させて頂きたく存じます」
「よかろう。して、その二つとは何かの?」
向日葵は静かに告げる。
「一つ、王国が我々を経済的・物的・人材的、またこちらの要求する支援に対して援助し続ける限り、我々はこの世界を救うべく行動いたします。これが破棄された際、我々はこの世界を救うことを放棄いたします」
「よかろう。異論はない」
「二つ、わたくしたち三人――笠原向日葵通称<巫女>、天宮大地通称<矛>、雨宮太陽通称<盾>――における勢力の完全独立です。我々は完全に独立した勢力の立場から、貴国の要請に対等な立場から従い力を貸すのであり、故に貴国側から一方的に命令を受ける立場にはございません」
「なるほどのう」
ラティニオスが豊かな髭を撫でる。そして向日葵の言葉を反芻する。
向日葵の主張をざっくりとまとめると以下のようになる。
<巫女>サイドを王国の勢力の一部として認めない。完全に王国とは別の勢力として力は貸すが、それはそちらが正式に要求したからであり、一方的な命令に従う義理はない。
また、それ故にこちら側に意見なく勝手な行動を起こせば、それを契約の破棄として認識し、自害の上世界を救う手段を講じることをしない。
要するに、こっちとそちらは別。上から命令するな。勝手なこともするな。勝手なことするならこっちにも考えがあるぞ。という意味になる。
ラティニオスは表に出さず、内心でほくそ笑んだ。
そして。
「よかろう。アモルトス王国宰相として、その提案に締結しよう」




