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太陽と大地に咲く向日葵 ―異世界英雄譚―  作者: 灯月公夜
第一幕 【来訪者は血を流し決意を胸に抱く】(第一部)
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41.ひっくり返す最初の一手


「クソッ、今すぐこの鎖を退けやがれヒマッ!」

「ひまわり……さん……?」


 大地が激しく暴れるも、向日葵の鎖は<矛>である大地の手で解けなかった。

 同じく鎖に拘束された太陽が、呆然としながら向日葵を見やる。


「二人とも、いい加減に落ち着いて! 二人が争うところなんて見たくないよッ!」


 向日葵は目にいっぱいの涙を溜めながら叫ぶ。

 そんな向日葵の様子に、太陽は冷水を浴びたように頭がクリアになる。

 しかし、大地は違った。


「解けヒマッ! お前が太陽を見殺しにするっていうのかッ!」

「そんなこと言うわけないでしょッ!」


 大地怒号に、太陽は涙の混じった悲鳴を上げる。そしてついに、向日葵の瞳から大粒の涙がとめどなく溢れだした。


「大地、いい加減にして! わたしがっ、わたしが見捨てられるはずないよ! だって、今こうしてわたしが生きてるのは、全部太陽くんのおかげなんだから!」


 向日葵は涙を流しながら叫ぶ。


「大地のその考えなしの行動が、今まさに太陽くんの命を脅かしてるんだよ! 勝手な行動はやめてよ!」


 そんな向日葵の姿に、ようやく大地が冷静になる。

 そして暴れるのを止め、わずかに項垂れた。


「…………わりぃ」


 ぽしょりとその口から謝罪が漏れる。そこには暴れたこと以外にも、別の意味が多分に含まれた謝罪だった。

 大地が収まったのを見て、向日葵は乱暴に涙を拭う。

 そして、強い目でラティニオスたちを睨み据えた。

 しかし、次の瞬間向日葵は大きく深呼吸をすると、なんとか激情を抑え込んだ。


「まずはわたくしの従者たる<矛>のご無礼、大変申し訳なく存じます」


 失礼にならない程度に感情を殺した向日葵が、ラティニオスたちに向かって深く頭を下げた。

 ウィルケドスが構えをわずかに解く。しかし、ラティニオスは大鷲の目で黙したまま何も言わなかった。

 向日葵が続けて口を開く。


「しかしながら、<巫女>として、先ほどのラティニオス様の裁決に対し、意見を言わせて頂きたく存じます」

「……なるほど。ヒマワリ嬢としてではなく、<巫女>としての言葉として受け取ればよろしいのかな?」

「はい」


 ようやく口を開いたラティニオスに、向日葵が清廉なかんばせで答える。


「ならばアモルトス王国宰相として、意見を拝聴しましょう」


 この瞬間、<巫女>としてアモルトス王国側との交渉の場、そして政治の場が整えられたことになる。

 向日葵はばれないように深呼吸をする。緊張でくらくらして今にも倒れそうだった。

 それでも、もはやことは太陽や大地の命、そして自分の命の問題に収まらない。これだけのことをしでかしてしまった今、なんとかしてアモルトス王国側とできるだけ対等な立場にならなければ、今後の向日葵たちの未来は著しく閉ざされてしまうことになってしまう。

 向日葵は女子高生の臆病な自分を抑える。<巫女>として覚醒し始めた今、向日葵は以前と違う自分を知覚せずにはいられなかった。

 違う自分――<巫女>としての己をなんとか呼び起こす。すると思考が切り替わったように、思考がクリアになっていった。

 向日葵は目に力を込める。

 今まで二人にずっと護られてきた。

 だから。

 今、この瞬間、この危機から。

 わたしが二人を護ってみせる。

 そして、向日葵は口を開いた。

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