39.交渉の行方
本日2度目の更新
「アモルトス王国側がタイヨウ殿を救う道理はある。もし、タイヨウ殿が腹に風穴を開けるような事態が起こっておれば、我が王国はもう二度と製造できないであろう霊薬<妖精の涙>を使ってでも、タイヨウ殿が死なぬよう手配しよう。それは我が王国が貴君らを召喚した張本人であり、また<盾>として世界を救う<巫女>を護ってもらわねばならぬからじゃ。じゃが」
ラティニオスが太陽の目を見る。
「屍鬼の森の主にして、凶悪な屍鬼を眷属にする【屍姫】にこの道理が通ると思うか? 答えは断じて否じゃ」
ラティニオスのいうことは最もだった。
分かりやすくいうと、『敵の、それも見ず知らずの相手に二度と手に入らない国宝級の霊薬を使うのか』ということ。それは太陽とて、そのような霊薬を所持しても、まったく見ず知らずの人に使うことを戸惑わないとは限らない。
正直に言えば、使うのは非常に難しいだろう。それで自分が生涯死ぬほど悔いても、向日葵や大地にもしものことがあれば使えるはずがなかった。
まして、【屍姫】がそれをするのか? 今まで散々、屍鬼の森に足を踏み入れた者を、眷属の屍鬼を用いたとはいえ惨殺してきた【屍姫】が、何故太陽だけを助けたのか?
そう考えれば、太陽が実はすでに死亡しており、魔術で生きていると錯覚させていると思わせている可能性の方が大きくなる。
太陽は思わず膝を折る。そして、定まらない視点でぼんやりと床の絨毯を見つめた。
本当に、僕は死んでいるのか?
この『僕』はフェリクスさんが想像した『僕』に過ぎないのか?
では、この記憶は。
これまであの世界で、放課後三人で笑い合った記憶は偽りだというのか? 文化祭の最終日、木漏れ日の下で夢を語り合ったあの出来事は、『僕』が創造されて、オリジナルから植え付けられた記憶だというのか?
なら、この想いは?
この向日葵さんに対する想いは、オリジナルの雨宮太陽の想いであり、植え付けられたものに過ぎないのか?
「太陽!」
「太陽くん!」
「動くなッ!」
大地と向日葵の声の後に、ウィルケドスの一喝が大気を震わせた。
王国最強の本気の覇気を受け、大地と向日葵は堪らず動きを止める。
「どうじゃ、この可能性の排除を、お主にできるか?」
「…………」
「……そうじゃろうな」
太陽の沈黙を受け、ラティニオスがわずかにため息を吐く。
「では、裁決を下そう」
ラティニオスが重い口を開いた。
「アモルトス王国宰相、ラティニオスの名において命令する。雨宮太陽と名乗るその者を――」
そして、裁決が下される。
「地下牢へ幽閉し、【屍姫】の間者かどうか徹底的に調べよ」




