33.握手
本日2度目の更新。
「まったく、ムチャしすぎですよ」
そう言いながら、ジェイクが大地の手を掴み、起き上がらせる。
その顔は勝利して、とても晴れやかだった。一時的に疲労ですら吹っ飛んでしまっているようだ。
「す、すごいですっ! あの技、団長の技ですよね!? うわー、流石<矛>さまの力はすごいですっ!」
ギルが興奮して歓声を上げていた。どこにそんな体力が残っていたのか、興奮のあまり飛び跳ねている。
「なんとかなりましたねぇ……」
「死ぬかと思ったわ……。ギルたちが青い奴をこっちに引き連れてきたとき、マジで死ぬかと思ったわ……」
地面にへたり込みながら、シークは脱力しきった声を上げる。その横でボロボロになった盾を手にしたミネルバが苦笑していた。
「ありがとな」
ジェイクの肩に掴まりながら、大地は四人に礼を言う。
「みんなのおかげで、なんとか奴らを倒せた。本当にありがとう」
そして心から頭を下げる。そんな大地に、ジェイクたちは笑みを浮かべた。
「よくぞやってくださいました」
とジェイクが静かに言い、
「最高でしたよ!」
とギルが握り拳を作る。
「お疲れさん……」
とシークは疲れた声で手をひらひらさせながらねぎらう言葉を言うと、その横で人のよさそうな笑みを浮かべながらミネルバが、
「みんな無事でよかったです」
と言った。
思い返せば、よく誰一人命を落とさずしのぎ切ったものである。
一撃必殺の威力を持った、赤い屍鬼。
俊敏性・技術、共に優れていた青い屍鬼。
そして第三位階の魔術まで行使した黄色の屍鬼。
三体の力はどれも指折りだった。初陣にしては、今思えば強すぎる相手だったと振り返れる。
あまりにバランスが取れすぎてる気がして、作為的なものすら感じてしまえる三体だった。
「ジェイク、悪いはあいつらのところまで連れてってくれないか?」
大地はウィルケドスの技を使い、完全に限界だった。もう自力で歩行が不可能なほど疲弊してしまっている。
しかし。
大地は二人の元に行かなければならない。
特にこちらを見て膝をつき、姫を護るナイトのような親友の元へ。
「はい」
ジェイクが年長者らしい笑みを浮かべながら、生意気小僧である大地の頼みを承諾する。
そのまま大地の身体を気遣いながら、大地と向日葵が一か月間、無事を願い続けた少年の元へ歩き出した。
◆
大地はやっぱりすごいや。
太陽は眠る向日葵を護るように、なんとか両膝をつきながら起こしていた身体で、こちらに歩み寄ってくる大地を見やりながら胸中で呟いた。
あんなに、騎士が四人がかりで苦戦していた屍鬼を一瞬で二体も倒してしまった。それがどれだけ大変で、凄い偉業なのか。一か月間【屍姫】フェリクスの下僕として傍にいた太陽にはとてもよくわかった。
大地が肩を支えられながら、太陽の元まで歩いてくる。
そして。
「…………」
「…………」
言葉は互いに出てこなかった。
色々な想い、記憶が一瞬の間に駆け巡る。
大地がそっと右手を差し出す。
にやりとした不敵な笑み。太陽が密かに憧れた、懐かしの笑みだ。
太陽もつられて笑みを浮かべる。
そして。
大地と太陽は、固い握手を交わした。




