表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
太陽と大地に咲く向日葵 ―異世界英雄譚―  作者: 灯月公夜
第一幕 【来訪者は血を流し決意を胸に抱く】(第一部)
32/48

31.教え

本日2度目の更新


 大地は汚れを気にする余裕もなく、地面に大の字で伸びている。

 荒い息。大量の汗。全身が痛みとだるさで、指先1つ動かすのですら億劫に感じられた。


「飲むといい」


 大地に水の入ったコップを差し出す大きな手。青い艶やかで力強い手の持ち主は、アモルトス王国団長、獣人のウィルケドス・ロスだ。


「すまん、助かる」


 大地はなんとか起き上がると、手渡されたコップを受け取る。次の瞬間には、それを一気にあおり、ごくごくと喉を揺らして飲み干す。

 そうして一息ついた大地は、新たな師となった獣人を見上げた。まだまだ超えることすら想像できぬ、大きな身体だ。


「俺もそこそこ武道は嗜んでたから、もう少しいい勝負できると思ってたんだがな」


 思わずらしくない言葉を言ってしまう。

 そんな若干弱気になっている大地を見て、ウィルケドスは愉快そうに目を細めた。


「持っているものは決して悪くない。成長スピードも、<矛>とはいえ驚嘆に値する速度で成長している。力やスピードでは、もう私はお前には勝てないさ」

「じゃあ、やっぱり勝てないのは技術や経験か」

「端的に言ってしまえば、そうなるな」


 身もふたもないウィルケドスの言葉に、大地は盛大にため息を吐く。


「でも、あんま悠長なことしてられねえんだよ」

「それはそうであろうな。親友の命がかかっているのだろう?」

「まあな。つっても、本当に生きているどうか怪しいが」

「疑っている奴に、ここまで真っ直ぐな剣筋は出せないさ」


 笑って、ウィルケドスは遠くの空を見やる。


「私にも親友がいる。だから、ダイチ殿の気持ちはわかるさ」

「へえ、あんたの親友か。えーと、そいつは、なんちゃら騎士国にいるんだよな?」

「【ユース騎士国】だ」


 大地のあんまりな言葉に怒ることもなく、ウィルケドスは笑みを浮かべた。

 その様子に、大地は思わず尋ねてしまう。


「良い国、なんだろうな」

「ああ」


 大地の言葉に、嬉しそうに、そしてなにより誇らしそうにウィルケドスは頷いた。


「みな真っ直ぐでそれぞれの騎士道を持っている。それに、主要八ツ国の中でもっとも小さいが、武力ではこのアモルトス王国にも引けを取らない。だが、【ユース騎士国】の武力は、他国を侵略する力ではない」

「じゃあなんのための武力なんだ?」

「護るための武力さ。騎士国は建国時からずっと、【グラン連邦】の領土拡大のための侵略戦争から、弱い小国をいくども護ってきた。我々の誇りだよ」


 そう言って微笑んだウィルケドスは、大地の目から見て本当に眩しかった。

 どれだけかの国を愛しているのか。

 どれだけかの国を誇りに思っているのか。

 それらがすとんと伝わってくる。

 思わず大地も笑顔になる。


「ウィルケドスの親友は、今も騎士なのか?」

「ああ。今はあいつが騎士国の団長だ」


 言って、ウィルケドスは遠くを再び見つめた。

 きっとその方向にユース騎士国があるのだろう。


「私たちは性格も何もかも反対だったが、それ故に馬が合った。兄弟弟子ということもあり、常に剣を交えながら互いに上を目指したものさ」

「意外とやんちゃだったんだな」

「そうだな。だからこそ、そんな私が今は<矛>の剣の指南をしているというのに、運命の面白さを感じているようよ」


 ウィルケドスは笑った。釣られて、大地も不敵に笑った。


「さて」


 ウィルケドスが大地の目を真っ直ぐに見た。


「一時の師として、教えを授けよう」


 その言葉を聞いて、大地は立ち上がる。

 立ち上がっても、がっしりとしたウィルケドスは大きく見えた。今は、体格以上に大きく見える。


「ダイチ殿は戦闘のパターンが少なすぎる。故に、短調になってしまうのだ。かといって、一カ月程度で屍鬼たちと渡り合うまでに成長するのは、流石の<矛>の成長スピードをもってしても困難を極める。だからこそ」


 そして、ウィルケドスは牙を見せ、にやりと笑った。


「見て、己がものとしろ。それが<矛>だからこそ許された、他の追随を許さぬ成長へと繋がる」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ