30.反撃(3)
流星が地上を走った。
そう錯覚するような出来事。向日葵から無数の矢が放たれ、ちょこまかと鬱陶しかった黄色の屍鬼を倒すことに成功した。
血潮が湧いた。やるじゃねえか! 大地は心の中で向日葵と太陽を絶賛し、次は自分の番だと気合を入れる。
「うおおおおお!」
切れる息を無視して、大地は猛る。そのまま先ほどにもまして鋭く激しく青い屍鬼を攻め立てた。
しかし青い屍鬼は素早く、また技も巧みだった。一流の剣士であるギルと大地の二人がかりの猛攻を、それでも防ぎながら反撃もしっかり加えてくる。
大地はこの【屍鬼の森】がS級危険地帯と言われる所以を嫌と言うほどさっきから実感していた。
昨日の鎚の屍鬼といい、目の前の青い屍鬼といい、向こうにいる巨大な戦斧を振り回している赤い屍鬼といい、向日葵がなんとか倒した黄色の屍鬼といい――一体一体が強すぎた。
今ならわかる。この異世界に召喚されて最初に見た、あの緑の屍鬼は低位の屍鬼だったということが。
今対峙しているこいつらの方が、遥かにあれよりも強い。二人がかりでもまともに攻め手に回れない。
このままじゃ埒があかない。何か手を打たねえと。
大地は<矛>としての能力を思い出す。しかし、それを発現して上に行くためには、今の上体を抜け出さなければならない。
思わず舌打ちをする。どうにか、ギル一人でも対処できるようなことができればいいのだが……。
「助太刀いたします!」
大地の背後から力強い声が聞こえてきた。
「はあああああああああ、はっ!」
ジェイクが下から豪快に剣を振り上げ、青い屍鬼を弾き飛ばす。
青い屍鬼はその巨体に似合わぬ身軽さで空中で一回転すると、十メートルほど先まで跳躍して着地した。
ジェイクが荒い息を吐きながら、大地に告げる。
「大地殿、ここは私にお任せを。その間に、突破の糸口をお探しください!」
青い屍鬼を睨み据えながら、ジェイクが剣を構える。
「ギル、大丈夫か」
「はあ、はあ、はあ……問題、ないですよ……」
すでに息も絶え絶えな状態だったが、ギルは好青年らしくにこりと笑った。
二人を見て、大地は判断する。
「すまん、五分時間を稼いでくれ!」
青い屍鬼から視線を逸らすことなく剣を構えたジェイクとギルが頷く。
「わかりました!」
「お願いしますね」
大地は後方へバックステップして距離を取る。
この状況を打破するため、大地はウィルケドスとの一カ月を思い出した。




