29.反撃(2)
本日6度目更新。シルバーウィーク最終日の個人的更新祭りは、これにて終了です。
向日葵が魔術式を構築し始めた瞬間。
黄色の屍鬼が向日葵に向かって、魔術の猛攻を開始した。
しかし、そのすべてを太陽は<盾>の力である、【加護】を用いて防いでいく。
<盾>として与えられた能力は【加護】。その力は『物理的・精神的・魔術的、その他あらゆる害悪から対象を護る力』。
絶対無敵の防御が、<盾>としての太陽の得た力なのだ。
だが。
太陽の【加護】は、黄色の屍鬼の攻撃を受ける度に大きく損傷を受け、再生する。加えて太陽の身体に裂傷が増えていく。
加えて、本来十全の力を発揮するはずの【加護】が上手く発動しない。左手の紋様は焼き鏝を押しつけられているかのように痛み、【加護】が破られる度に太陽の身体に傷がつく。
しかし、太陽は歯を食いしばって攻撃に耐える。
何故なら、太陽の後ろには向日葵がいるから。護るべき、初恋の少女がいた。
向日葵さんには傷一つつけさせない。太陽は歯を食いしばって、向日葵が魔術を完成させるのを待った。
そして。
黄色の屍鬼が、屍鬼に取って最大級の魔術である第三位階の火球を放ってきた。
魔術の位階というのは、その魔術の練度や規模のレベルを表す。
第一位階で魔術師として一人前。第二位階で、魔術師として一角の栄誉を得ると言われる。
では第三位階魔術とは。
それは魔術師の中でも上位二十パーセントしか到達できないと言われる領域だ。
その威力は、単純な火球ですら、直径十メートルにもなる巨大なものとなる。威力も申し分ない。
そんな第三位階の火球が、太陽に向かって放たれた。
ギリッと歯を食いしばる。絶対に、たとえ好みが焼けただれようと向日葵さんを護ってみせる。太陽はマグマの塊のような火球に向かって、むしろ一歩踏み出した。
「お待たせ、太陽くん」
不意に後ろから柔らかな声が聞こえてきた。
そして。
「<三重魔術・魔弾の豪雨>」
向日葵が指を火球に向ける。すると向日葵の背後から魔力が圧縮された無数の矢が飛び出していった。
その無数の矢が、火球を貫き、細切れにしてついには消滅させてしまう。
矢の進行は止まらない。一直線に黄色の屍鬼の元へ飛んでいく。
着弾。その様は、黄色の屍鬼の周りに、光の矢の局所豪雨が降るかの如く。
「グギャアアアアアアアアアアアアアアアア!」
黄色の屍鬼の断末魔。
矢の豪雨が止んだ時、そこには無数の矢に貫かれ絶命している屍鬼の死体があった。
どさ、という音が太陽の後ろで聞こえる。
慌てて振り返ると、向日葵が青い顔で膝をついていた。
はじめて自分の手で、ヒト型のモノを殺した実感を感じているのだろう。唇まで青白くして、小刻みに震えだした。
「向日葵さん!」
太陽は慌てて向日葵の元へ駆け寄る。
知らず向日葵の身体を抱き寄せる。その身体は心配になるほど震え、冷たかった。
「だい、じょうぶだよ……」
青白い唇を震わせ、向日葵が言う。
「二人で、倒したね」
向日葵はなんとか笑おうとした。それに太陽は泣きそうになりながら笑みを返す。
向日葵がすっと気負失っていく。限界だったのだ。
一か月前までただ女子高生だった向日葵。
十八歳の女の子で、はじめての殺し合い。そして命のやり取りの中で魔術をフル活用して、そして。
――命を奪った。
これらは向日葵と言う少女に多大なるストレスを与えていた。故に、まるでブレーカーが落ちるように向日葵は気を失ってしまった。
それでも、向日葵は最後まで微笑んでいた。その強さに、太陽の中で愛おしさで張り裂けそうになる。
「がんばったね、向日葵さん」
太陽はそっと向日葵の額の髪に触れた。




