27.VS屍鬼(3)
本日4度目更新。
轟音――爆発。
煙がもうもうと上がり、視界が霞んだ。
大地は青い屍鬼からいったん距離を置く。しかし、それ以上の距離を離れることができなかった。
焦る気持ちで煙が晴れるの待つ。
そして、煙が晴れて。
血みどろになった太陽が現れた。
ぐらり、と太陽の身体が傾く。
「太陽くんっ!」
涙の混じった声で向日葵が太陽の身体を支える。
「ごほっ、向日葵さん、だいじょ……」
「大丈夫、大丈夫だからしっかりして!」
向日葵の悲鳴が戦場を斬り裂く。
大地は血が滲むほど剣を握りしめる。ちくしょう、またこれか。どうしてまたこんなことに。
今すぐにでも向日葵と太陽の元へ駆け寄りたかった。しかし、強くなったからこそ分かる。今大地が青い屍鬼から背を向けたら、確実にその隙を突かれる。ギルと二人がかりで、なんとか拮抗しているのだ。そんな状態で好きなんて見せたら、二人して斬り殺されるのは目に見えている。――大地の死は、同時に向日葵と太陽、それからジェイクやギル、ミネルバ、シークの死だ。勝手な真似はできなかった。
だから。
「太陽、しっかりしろ!」
大地は太陽の無事を祈り、叫ぶ事しかできなかった。
◆
「太陽くん、太陽くん!」
まただ、またわたしのせいで。
向日葵の大きな瞳から涙が溢れてきた。またわたしのせいで太陽くんが大けがをすることになった。それがたまらなく悔しくて、怒りが込み上げてくる。
「うっ……」
太陽が痛みに呻く。身体のいたるところから出血しているのだ。当たり前だ。
向日葵はすぐさま治癒魔術を発動させる。故に、身体のいたるところで裂傷が起きてることが手に取るようにわかった。
向日葵はパニックに陥っていた。故に、現状の不可思議さを理解できなかった。
◆
「何故、三方から攻撃されて、我々は無事なんだ?」
ジェイクが戦闘中にも関わらず、その不可解さに呟きを漏らしてしまう。
何故、三方から攻撃されて、太陽だけが傷を負い、我々にかすり傷ひとつないのか?
何故、第二位階の魔術を三発もくらい、その程度の傷で済んでいるのか?
そして何故、火傷などではなく裂傷なのか……?
理解が出来なかった。こんなのこれまでの理屈ではありえない。故に、先ほどの瞬間、これまでとは違う理屈が働いたのだ。
それはおそらく、目の前で倒れている〈巫女〉の〈盾〉と思わしき少年の手によって。
「気をつけろ!」
大地の声ではっとする。
思考を線上に戻すと、こちらに向かって再び火球が――それもシークが相殺した第二位階魔術よりも上、第三位階魔術で編まれた特大の火球がこちらに向かってきていた。
◆
痛みに呻きながら、太陽はうっすらと目を開けた。
痛みの中に温かな安らぎを感じる。僅かに視線を動かすと、そこには涙を流しながら魔術を発動している向日葵の姿が見えた。
また護れた。太陽はそのことが嬉しかった。
向日葵の背後から、特大の火球が迫ってくるのが見えた。向日葵たちを護るように、ひとりの騎士が盾を構えて火球の真正面に立つ。
その背中に、騎士が命を捨てる覚悟を決めたのが見て取れた。
護りたい。手が伸ばせるのならば、僕は誰であろうと手を伸ばしたい。
太陽は左手を強く握り締める。
さっきは向日葵が危ないと思った瞬間、身体が勝手に動いた。
同じように、太陽は向日葵の制止を無視して立ち上がり、左手を火球へ向けた。
左手に刻印された紋様が、まばゆい光を放った。
◆
大地は離れていても感じる熱量に、思わずそちらの方を向いた。
先ほどよりもさらに大きな火球が、向日葵たちに向かって放たれている。
それを見た瞬間、大地は青い屍鬼やギルのことも忘れて駆けだそうとした。
しかし、その行方も青い屍鬼に阻まれて止まってしまう。
「ど、きやがれッ!」
大地が怒鳴る。しかし、そんな大地の様子に青い屍鬼は愉悦に口元を歪ませた。大地の中で殺意が暴れる。
刹那、膨大な熱量が爆ぜた。
「ヒマ! 太陽!」
大地が絶叫する。特大の火球が、向日葵たちのいた場所に襲い掛かり、炎がのた打ち回る。
大地は膝から力が抜けていく感覚を味わう。終わった……。流石の大地の膝をつきそうになる。
と。
突如炎が吹き飛んだ。
向日葵は無事だった。ジェイクもなんともない。
そして。
二人を護るように全身から血を流しながら、しかし左手を突き出したままの姿で、地面を踏みしめる太陽がそこにいた。
太陽を起点として、向日葵とジェイクを護るように防御結界が張られている。
それを見て大地は、
「はっ」
と不敵な笑みを浮かべた。
すっげーカッコイイじゃねえか。
「太陽!」
そして、大地は再び青い屍鬼に、ギルとともに斬りかかった。




