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太陽と大地に咲く向日葵 ―異世界英雄譚―  作者: 灯月公夜
第一幕 【来訪者は血を流し決意を胸に抱く】(第一部)
26/48

25.VS屍鬼(1)

本日二度目の更新。


 雨宮太陽あまみやたいようは疲労困憊の極致にあった。

 疲労は精神から来るもので、精神の緊張は容易に肉体にダメージを与えていた。

 原因は、昨晩から近くをうろついている屍鬼だ。

 それも三体。

 その三体が、太陽を遠目に見ながら常についてきていた。

 始めはフェリクスが自分を殺そうとしているのかと思った。しかし、屍鬼たちは太陽を観察していたが、ある一定の距離からは絶対に近づいて来ようとはしなかった。

 けれど、とはいえ。

 自分をほぼ殺した同族の視線にさらされることは太陽の余裕をたやすく奪った。それだけでなく、屍鬼は眠ることなく、昨晩からずっと太陽を見続けている。そんな状態で眠れるほど、太陽の神経は図太くなかった。

 だから結局一睡もできず、ただ横になるのも不安に押しつぶされそうだったので、太陽は歩き続けた。

 精神的な疲労と肉体的な疲労のピークに太陽の思考はだんだんと朦朧としてきた。

 ぼんやりした頭で考えるのはフェリクスのこと。

屍姫しき】フェリクス・モーリス・イペリム。

 白銀の髪に、血のように紅い瞳。気高く美しい、けれどどこか危うげな女性。

 彼女は太陽の主で、半屍鬼として生を得た太陽の間接的な原因で、それでありながら命の恩人でもある。

 この一カ月を思い出して、太陽はフェリクスから突如絶縁状態で追い出された現状に、胸の中にぽっかりと穴が開いたような気分になる。

 下僕として、主であるフェリクスとの繋がりは感じられる。けれど、そうではない部分の繋がりが完全に切れてしまったようで悲しかった。

 ふらふらと歩きながら太陽は森の中を歩く。

 そして、視界を遮る茂みを退けた。




     ◆




「あ……」


 その声は、誰が発したものか。

 大地と向日葵、そして太陽は互いの顔を見合わせ、驚愕に大きく目を見開いた。

 まるで時間が止まったような感覚。大地と向日葵は太陽の顔を、そして太陽は向日葵の顔を凝視していた。

 無事だったんだ……。太陽の目に涙が滲み始める。

 しかし、後ろの存在を思い出し、はっとして太陽は叫んだ。


「逃げて!」


 その直後だった。後ろにいたはずの屍鬼の一体が目にも止まらぬ速さで駆けだし、茂みから姿を現す。


「グルアア!」


 汚らしい青色の肉体を持った、比較的痩躯の屍鬼が猛烈なスピードで大地たち六人に向かって駆けだした。

 止めに入る暇もない。


「ふんっ!」


 青い屍鬼の凶刃を、盾術のエキスパートであるミネルバが見事に受け流す。

 わずかによろめいた青い屍鬼に向かい、ギルと大地が剣を手に踊りかかる。

 ギンッ、という鈍い音。青い屍鬼が両手に持った両刃刀で二人の剣戟を受け止める。

 一瞬の膠着。しかしそれを逃すほど経験豊富な騎士、ジェイクの目は節穴ではなかった。


「うおおおおおおおおお!」


 ジェイクが青い屍鬼の腹部に向かって刺突を繰り出す。


「下がって! 〈ファイヤー・ボール〉!」


 しかし、走り出したジェイクに右手をかざしながらシークが叫んだ。叫びながらその手に魔力が集まり、火球を連続で三発放つ。

 刹那の時間であったが、ジェイクはしっかりとシークの声を聞き、火球も目に入っていた。すぐさま青い屍鬼への刺突を止め、後方へバックステップしてシークの火球を避ける。

 ジェイクの向こう、シークが丁度火球を放った先から、シークの火球よりも二回り大きな火球が騎士たちに向かって飛んできていた。

 シークの三つの火球が、その大きな火球と連続してぶつかる。

 爆発。熱がむわっと広がり、肌をちりちりと焼いた。

 シークがなんとか火球を相殺したその間を縫って、今度は向日葵が手をかざして魔術を唱える。


「〈二重魔術・魔弾の槍〉」


 向日葵の手のひらから、必中の光の槍が放たれる。

 それは真っ直ぐ飛んでいき、こちらに向かって駆けだしている太陽の横を通りぬけ、その後方にいた黄色い小柄な屍鬼に命中した。


「ギャアアア」


 咄嗟に左腕を犠牲にした黄色い屍鬼が、左腕を光の槍に粉砕されて悲鳴を上げる。

 そんな仲間がまるで目に入らない様子で、最後の一体、一番大柄な赤い屍鬼が、その手に持った巨大な戦斧せんぷを横薙ぎに振るった。


「ぐぅう」


 とんでもない衝撃がミネルバの腕から身体全体を突き抜けた。身体を極限まで柔らかくして勢いを殺したのに、この威力。昨日怪力バカみたいな鎚の腕を持つ屍鬼と比べたらまだマシだが、それでも何回も受けるには危険が高すぎた。

 青い屍鬼とギルと大地、そして赤い屍鬼とミネルバが互いに大きく距離を取る。

 風が吹き抜けた。

 一瞬の攻防が終わり、次の攻防への展開は移ろうとしていた。

 腹の奥底に響くような緊張感。

 大地たちと三体の屍鬼が視界に入る位置にいた太陽は、混乱のあまり堪らず叫んだ。


「フェリクスさん、これは一体どういうことですか!?」


 しかし、太陽の絶叫に答えるものは誰もいなかった。

速度重視で、推敲もせず区切りが出来たので投稿します。

今日中に、あと4,000字は書きたいです。

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