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太陽と大地に咲く向日葵 ―異世界英雄譚―  作者: 灯月公夜
第一幕 【来訪者は血を流し決意を胸に抱く】(第一部)
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18.太陽の居場所

本日二度目の更新

「な、何故ここにロサが……!」

「まぁ、わかっていたことじゃがなぁ……」


 城の応接間に通されると、そこには頭を抱えた団長のウィルケドスと、宰相のラティニオスがいた。


「おや、何か問題でも? あたしは、またこの子たちが変なことに巻き込まれないか監視にきただけさね」


 ロサが腕を組み、宰相と団長を威圧する。

 大地と向日葵は苦笑を浮かべるしかない。


「まあ良い」


 言って、ラティニオスが宰相らしい切り替えで、表情を鷲のそれに変化させる。

 瞬間、場の空気が変わった。

 あのロサでさえ腕組みを解き、部屋の隅へ控える。


「ヒマワリ嬢とダイチ殿に尋ねたいことがある」


 言って、ウィルケドスが二人の前に来て、大地の手にある物を手渡す。

 そして、ウィルケドスが下がったのを確認して、ラティニオスが口を開いた。


「それに見覚えはあるかのう?」


 大地は手渡された物を握り、知らず手が震えはじめた。向日葵もそれを見て、口元を抑えてはっとしている。

 それは、太陽のスマホだった。

 見間違えるはずがない。

 太陽と向日葵はぐっと息を詰める。


「ふむ」とラティニオスが立派なひげを撫でる。「それがタイヨウ殿持ち物と見て間違いはないようじゃの」

「ああ……」


 絞り出すように大地が応える。


「これをどこで?」


 尋ねると、ラティニオスは大きなため息を吐き、背もたれに背を預ける。


「ウィルケドスがお主らを保護した、その崖の下じゃ」


 目を瞑り、ラティニオスは重々しく口を開く。


「そこに人影はなく、ただそれだけがあった」


 その言葉に、大地と向日葵は少なくない衝撃を受けた。

 太陽のスマホが落ちていた場所に太陽がいない。

 じゃあ、太陽は今、どこに?

 大地はそう尋ねようと口を開きかけた。


「困ったことになった」


 ラティニオスが目を瞑ったまま呟いた。その呟きに、大地は喉まで出かかった言葉を飲込む。


「お主らはこの地に召喚されたばかりだから知らぬのは当然じゃが、あの森はS級の危険地帯なのじゃ」


 ごくりと大地は渇いたのどを鳴らす。


「あの森は通称【屍鬼しきの森】と呼ばれておってな。大抵の冒険者では手におえない強力な屍鬼グールと呼ばれるモンスターが跋扈している森なのじゃよ。お主らが襲われたという化け物、それが屍鬼の一体じゃ」


 ラティニオスが続ける。


「そして、かの森には屍鬼を生みだし、総べている魔女がおる。大変危険な、残虐にして残忍な、美しき魔女が、の」


 ラティニオスの言葉を引き継ぎ、ウィルケドスが口を開く。


「あの時崖の下へ向かわせた騎士からの報告によると、崖の下瘴気に満ち、常人では三分と立たずに死に至ってしまうという。そんな場所に、遺体もなく、ただそれが落ちていたということは、その魔女の手にタイヨウ殿が落ちてしまったと考えるのが妥当だろう」


 場がシンと、緊張感を孕んだ空気に支配される。

 向日葵と大地は身動きが取れず、息をただただ飲んでいた。

 魔女の手に太陽が落ちたということが、どんな意味を持つのか。それを理解することは大地と向日葵にはできなかったが、ただ緊急事態であるということは理解できた。


「お主らには、その魔女のことを知ってもらおう」


 ラティニオスが重い口を開く。


「魔女はこれまで二度、王国に屍鬼を差し向けては、我が王国の無辜の民を惨殺し、屍の山を築いてきた」


 そして、と続ける。


「惨殺した民を材料に、魔女はまた屍鬼を生みだしたのじゃ」


 聞いた瞬間、大地と向日葵は生理的な嫌悪感に鳥肌を立てた。

 殺した人を材料にして、モンスターを生みだす。

 それがなんと邪悪で、恐ろしいことなのか。

 ウィルケドスが口を開く。


「我が王国も、ただ手をこまねいていたわけではない。幾度となく討伐体を【屍鬼の森】に差し向けた」


 しかし、と狼の牙を鋭く尖らせながらウィルケドスは続けた。


「結果はどれも惨敗。ただ魔女に材料を与えるだけだった」


 視線をウィルケドスの手に向けると、彼は握り拳を振るえるほど握りしめていた。 

 王国騎士団長として、その不甲斐ない戦績に怒りを覚えているようだ。


「じゃから、お主らには覚悟しておいてもらいたい」


 ラティニオスが再び口を開いた。


「もし魔女に囚われているとしたら、タイヨウ殿の奪還は楽ではない。そうでなくとも、かの森に今のお主らを連れていくわけには行かぬ」


 ラティニオスはようやく目を開き、瞠目する。


「お主らには強くなってもらわねばならぬ。可能であれば、今日からでも訓練を始めたい」


 いかがかな? とラティニオスが大地を見て、向日葵を見る。

 大地の心は決まっていた。


「ああ、よろしく頼む」


 なにがなんでも太陽を連れ戻す。その決意は決して揺るがなかった。

 大地の返答に、ラティニオスは頷きながらよろしい、と言った。


「ならば魔女の情報を伝える」


 ラティニオスが立ち上がり、羽織ったマントをはためかせる。


「魔女は白銀の髪を持ち、血のような紅い瞳をしている絶世の美姫びきじゃ。わしらは屍鬼を眷属とするその魔女をこう呼称しておる」

 ラティニオスが鷲の眼光をきつく光らせる。



「【屍姫しき】、と」




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