14.提案
「ここが兵士たちの修練場じゃ」
ラティニオスに案内されたのは王城内の修練場だった。
すぐ傍らには木材でできた立派な建物がある。大地たちはその建物のすぐ隣、多くの足跡で踏み固められた広場にいた。
「さて、まずは何から話そうかのう」
ラティニオスが髭を撫でながら好々爺の表情を浮かべる。
「まずはウィルドスのことから説明した方が早いの」
ラティニオスがウィルドスに視線をやる。
「ウィルドスは、我が王国が誇る最強の騎士にして、我が軍団をまとめる団長でもある。かつては同盟国のユース騎士国におったが、うちの女王に惚れて女王の剣として主従の関係を結んでおる」
「ラティニオス様、その言い方は些か語弊を生じる恐れがございます」
苦笑しながらウィルケドスが大地たちの前に出てくる。
「改めて名乗っておきましょう。私の名はウィルケドス・ルス。ユース騎士国の蒼狼一族の次子にして、元第一騎士団の団長で、現在は王国騎士団の団長を任されている」
そう言って、ウィルケドスは胸を誇らしげに叩く。
「先ほどラティニオス殿は、私が女王に懸想したから王国へ来たという風におっしゃられたが、それは当然違う。私はあの方の心根に、人格に、そして生き様に感銘を受けた。故に、一度誓いを立てたユース騎士国を裏切り、女王陛下に騎士としての誓いを立てたのだ」
「呵呵、お主はまだ裏切っただのと思っておるのか。騎士王も違うと言っておったろう」
「騎士王から賜った『誇れ』というお言葉はしかとこの胸に刻んでおります。しかし、これは私の騎士道の問題なのです」
「相変わらず、お主は堅物じゃのう」
そう言って、ラティニオスは仕方のない奴めと笑う。
とはいえ、大地と向日葵はそれどころではない。特に、向日葵の脳内では不安と焦燥が渦巻いていた。
先ほどの『せっかくじゃから、ラティニオスと一手試合ってみんか?』という言葉のせいだ。
もしかして乗らないよね……? 向日葵は大地の横顔を盗み見る。正直言って、大地ならやりかねないと思う。血気盛んな面があるし、中学でも何度も喧嘩沙汰はあった。
とはいえ、ラティニオス、ひいてはアモルトス王国側の機嫌も考えなければいけない。じゃなければ太陽の捜索に差し障る。捜索の人数を減らされたり、万が一にも中止にでもなったら大変困る。それに国が相手なのだ。場合によっては探していると嘘を吐かれるかもしれない。異世界の、それもファンタジー的な世界だ。どれほどの『誠実さ』があるのか、現段階では判別もつかない。
向日葵は揺れていた。太陽を一刻でも早く探しに行って、無事をこの目で確かめたい気持ちと、大地がまた怪我を負うじゃないかという気持ち。
特に大地に至っては、王城についてから数時間別室で治療を受けてしまっていたために、なにを、どのようなことをされたのか全然わかっていない。だからこそ、大地には怪我を負って欲しくなかった。
「さて、ダイチ殿。そろそろどうじゃろう?」
向日葵の脳内で不安が渦巻いていると、ラティニオスが大地へと視線を移した。
追って、向日葵も大地へと不安げな視線を向ける。
「団長さんは、その聖遺武具とやらを使うのか?」
大地が口を開いた。
「だとしたら、生身の俺が圧倒的に不利じゃないか」
「ふむ」とラティニオスは髭を撫でる。「それもそうじゃな――どれ」
言って、ラティニオスは常を空中に掲げる。
それから杖で空中に魔術で文字を書き始め、同時に聞いたこともないような呪文を朗々と口唱し始めた。
数秒の後、広場の空間が一瞬歪み、元に戻る。
大地と向日葵は同時に息を飲んだ。
錆びた剣、
折れた槍、
欠けた斧、
それら様々な武器が、広場の地面から突き出すように出現していた。
瞬きの間に広場が、まるで武器の墓場のような光景に変わり果てていた。
驚きのあまり大地も向日葵も凍りつき、立ち尽くす。
ラティニオスは「いやぁ、これはしんどいのう」と呟き、笑みを浮かべて大地を見やる。
「武器はちと悪いが、まあ互いに怪我をせぬようこのようなガラクタでよかろうて」
ラティニオスが手を広げ、あたりの広場を示す。
「さあ、ここの武器をいくらでも好きなように使ってもらって構わんぞ!」
そして呵呵と笑う。そして鷲のような目で、大地と向日葵を射すくめた。
「なんなら、そこのウィルケドスに一泡吹かせたのなら、この儂が魔術を駆使してすぐにでも太陽殿を探しても良いぞ。こう見えても儂は、今やこの王国最上の魔術師じゃからの」
そして、にやりと笑う。
「いかがかの、ダイチ殿?」




