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ある一座

「さあさあ、よってらっしゃい観てらっしゃい。良い子のお友だち、人形劇団『薔薇狼』一座だよ!」


 威勢の良い声で、三十代後半と思わしきどこか軽薄そうな男が声を張り上げる。

 場所はとある商業街の広場、噴水の前。

 そこそこ人が溢れる場所で、彼らは声をあげて客を呼び込もうとしている。


「やる演目は『異世界から召喚されし者達』だよ! 二十五年前の惨劇を忘れないように、そして! 後世に名を残すべき異世界から来られた<巫女>様と、その巫女様の<矛>と<盾>として活躍された英雄様の英雄譚だよ!」


 男は高らかに歌うように続ける。


「<巫女>さまを巡る<矛>さま<盾>さまとの愛憎劇! 手に汗握る戦記! <巫女>さまご一行がこの地でどのような歩みを歩まれたのか、その軌跡をすべて余すことなくお伝えいたしますよ! 英雄様と赤子の頃実際に会っていたうちの座長と、その座長の母君が実際の目で見た<巫女>さまご一行の、他では絶対に聞けない真実のお姿を今まさに! さあさあ、よってらっしゃい観てらっしゃい!」


 男の声に釣られた群衆が、一座の荷車に近づいてくる。

 それを確認して、男は荷車の裏へ移動する。そして、幕の合間からどんどん近づいて来た群衆を観て、男はしめしめとした笑みを浮かべた。今回もたんまりだなぁ……。

 そう思った直後、男の目の奥で火花が散った。

 後頭部がジンジンと痛む。軽薄そうな男は後頭部を抑え、殴って来ただろう後方へ振り返り抗議の声を上げた。


「座長ぉ、なにするんですか! おれはちゃんと仕事してるじゃないですかぁ!」

「お黙り。あたいらの使命は、真実・・を広めることなんだ。目先のカネに釣られるんじゃないよ!」


 座長と呼ばれた二十代と思わしき、若々しい女性が拳を握りしめて男を叱責する。

 燃え盛るような赤髪をポニーテルに結わえた女性は、目を惹くような美貌を放っていた。

 そして、女性の頭には二つの狼の耳がぴんと立っていた。

 それは、女性が獣人の血を引く混血であることを意味していた。ある国によっては即火炙りにされてもおかしくない、ある種の禁忌のしるし。しかし、そんなことは女性は露も気にかけていないようだった。

 座長と呼ばれるには若々しすぎる女性は腕を組む。


「それに、うちには強力なパトロンだっているんだ。カネに困ることはまずないよ」

「あ、ああ…………姐さんッスね」


 男の脳裏に、ある妙齢の女性がありありと浮かんでくる。

 自分がまだガキだった頃、冗談抜きで殺そうとした姐さん・・・。その恐怖は未だに良く覚えている。

 背筋にうっすらと冷たい汗が流れた。


「わかったら、とっと幕開けるよ。お客さんが待ちくたびれちまう」

「へい」


 そして、幕は上がった。




 今からちょうど二十五年前。【魔界】と呼ばれる場所から、【魔王】とその眷属たちが現れた。

 それに対抗すべく、三強の一角である王国の女王が異世界から救世主を召喚する。

 救世主として召喚されたのは、十八にもならない<巫女>と呼ばれた少女。そして、<巫女>を外敵から護る<盾>と、外敵を滅ぼす<矛>と呼ばれた二人の少年たち。

 三人の異世界の少年少女は、神をも超越せん力を振るい、【魔王】と闘った。

 しかし――。




 劇中で、彼女の母である女性を演じながら、座長は決意を新たにする。

 この真実は必ずや伝えなければならない。誤解のまま、終わらせるにはあまりにも悲しすぎる。


『あんたたち、しかとその目に焼き付けな!』


 座長の女性は、自らの母を演じながら声を張り上げる。



『あたしらが無理矢理呼びつけて、あたしらの都合で血みどろになって戦わせてるあの子らの姿を!』


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