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不器用で不格好な恋愛初心者に送る愛の歌  作者: きくぞう
第一章 隠れオタクの恋愛模様
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 それはきっと、後悔しても決して埋めることのできない大きな穴

 それからと言うもの、私と矢萩くんは時々放課後に待ち合わせをしては、みんなに内緒でカラオケボックスに行くようになってた。そして、その帰りにはファミレスに寄って、アニメやゲームの話に花を咲かせる。コレが、今の私の一番の楽しみだった。


――来月、魔法インド少女ナマステの限定フィギュアが発売されるけど予約しておくかい?


 矢萩くんからラインで連絡が来る。私はナマステちゃんのスタンプで『お願いします!』と返した。ちなみにこのスタンプも、矢萩君がプレゼントしてくれたものだ。

 ネットに詳しい矢萩くんは、いつもこうして最新情報を私に教えてくれる。本当にいい奴だなぁ……見た目はアレだけど。

 ベッドに横たわりながら私は携帯を放り出す。そして何気なくカレンダーを見た。

 そう言えば、来月はクリスマスかぁ。いつもお世話になっているし、矢萩くんに何かプレゼントしようかなぁ。

 そう考えたところで、私はボッと顔が赤くなる。

 ちょ、ちょっと待ってよ私ったら。クリスマスにプレゼントするなんて、それてってまるで恋人同士みたいじゃない。だって、相手はあの矢萩くんよ?! イケメンとは遠く離れている超オタク臭い矢萩くんよ?! ないない、絶対にないよ!

 そう言いながら、私は携帯を引き寄せアルバムを開いた。そこには、カラオケボックスでノリで取った矢萩くんとのツーショット写真があった。写真の私は本当に楽しそうに笑っている。

 私は、携帯の画面を閉じる。そして、ぼんやりと天井を眺めた。

 ……矢萩くんは、私のことどう思っているんだろ。


 次の日。

 朝のホームルームが始まる前に、友人の理恵と由梨香がやってきた。


「ねぇねぇ恵、さっきさ、あんたの変な噂を聞いたんだけど」


「変な噂?」


 首をかしげる私に、由梨香が頭をボリボリ書きながら言いづらそうに言う。


「隣の組の奴に聞いたんだけどさ、この間、あんたと矢萩が二人で楽しそうに歩いていたところを見たって言うんだよ」


「ぶっ」


 私は思わず吹き出す。

 しまった! 二人で会うことに慣れすぎて、変装をあまりしなくなっていたのだ。無警戒過ぎた!


「わ、私が矢萩くんと?! 無い無い無い! あんなオタク臭い人、私のタイプじゃないもん! 生理的に無理だし、一緒にいたら恥ずかしいわ!」


「あ……」


 私がそう言った瞬間、理恵と由梨香が気まずそうな表情を浮かべた。

 私はその視線の先である後ろを振り返った。

 そこには、顔を真っ赤にして、今にも泣きそうな矢萩くんが……居た。


「あ、あの、その……」


 矢萩君は、何も言わず私の前を通り過ぎる。

 その場をごまかす為とは言え、心にも無いことを言った私は激しく後悔した。

 私ったらなんてことを……。後で矢萩くんに謝らなくちゃ……。

 放課後。

 帰ろうとする矢萩君を私は追い掛ける。

 外に出て、周りに誰も居ないことを見計らって私は矢萩君に話しかけた。


「ま、待って矢萩君!」


 だが、矢萩君は止まろうとしない。


「待って矢萩君! 待って、お願い!」


 矢萩君の腕を掴んだところで、彼はようやく止まってくれた。


「ご、ごめんね矢萩君! さっきは酷いことを言って……。あれは本気じゃないの。矢萩君と一緒に居たら、自分がオタクであることがバレちゃいそうな気がして誤魔化すために……」


「生理的に無理なんだろ?」


 震える声で矢萩君が言う。


「ち、違うよ! そんなことない!」


「一緒に居たら恥ずかしいんだろ!」


「そ、それは言葉のあやで……」


「嘘だ!」


 そう言って振り向いた矢萩君は、目に大粒の涙を貯めて泣いていた。


「だったら、何でみんながいる前で僕に話しかけてこなかったんだ。今日、学校で僕に話しかけるチャンスはいくらでもあっただろ! 君は僕と一緒にいるのが本当は恥ずかしいんだ。だから、みんなにバレたくないんだろ!」


「ち、違うよ……。私はただ、オタクであることがバレるのが嫌で……」


「だとしたら、君は僕を傷つけたことよりも、自分が傷つくのを恐れたんだ。君は卑怯者だよ」


「そ、それは……」


 矢萩君の言葉に、私は何も言い返すことができなかった。そして、自分があまりにも自分のことしか考えていなかったことに気付き、激しい自己嫌悪に陥る。


「僕はね、嬉しかったんだ。自分と共通の趣味の話が出来る友達が出来て。僕は君のことを大事な友達だと思っていたんだ。だけどそれは、僕の一方通行な想いだったんだね……」


 私も一緒だよ!

 そう言いたかったが、言葉に出なかった。私には、そんなことを言う資格はもう無かった。


「さよなら……」


 そう言って背を向けた矢萩君は、そのまま歩いて行ってしまった。

 後に残された私は、その場に膝まづく。

 私ってば、なんて酷いことを……。矢萩君……矢萩君……。

 ポロポロと溢れる大粒の涙が頬を伝い地面に落ちる。

 私の胸にぽっかりと大きな穴があいた。

 それはきっと、後悔しても決して埋めることのできない大きな穴だった。

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