ゴーダマステッキ初回限定盤、ナマステフィギュア全身可動付き
兄から勝手に拝借したサングラスに、耳まですっぽり入るニット帽、季節はずれのコートを着込み用意周到準備万端。これなら道中誰かに見つかっても私だと言うことはわかるまい。
アニメイトがある最寄駅で降り、私はゆうゆうと目的地へと向かう。なにしろ開店時刻より1時間も早く到着するよう朝早くから出てきたからな。これで間違いなくゴーダマステッキを手に入れられるはず。
と言う私の構想は、駅前で売っていたベルギーワッフルより甘かったようだ。
現場についた私は目を見開いて驚く。そこには人の列、列、列。長蛇に渡る人の列がまるで店を取り囲むかのように続いていた。
最後尾を知らせる看板を持つ店員を見つけ、私は駆け足で並ぶ。
店員から渡された整理券の番号は228番。途方もない数字だ。
あ、甘かった……。
私は何故、もっと早く家を出てこなかったのだろう。私は何故、予約をしておかなかったのだろう。あんなに面白いアニメなのだ。当然他の連中もゴーダマステッキが欲しくなる。それが限定品となればなおさらだ。世間の情報をもっと収集しておくべきだった。
激しい後悔と共に自責の念が押し寄せる。
ようするにこれは、隠れオタクであることを恥じて、同じオタク仲間を作ろうとしなかった神が与えたもうた罰なのだ。もし、私がオタク仲間を作っていればナマステの人気ぶりの情報を教えてもらえたかもしれない。そうなれば、きっと私は事前に店に予約していただろう。全て自分の不甲斐なさが招いたことなのだ。
だが神よ、もし、もしも一生に一度だけ私の願いを叶えてくれると言うのなら、どうか私にゴーダマステッキを分け与えたまえ!
拳を握り締め、私はこれ以上ない程の念を錬る。生まれてから体内に培われてきた気が錬られ、激しいオーラとなりて全身を包むのが分かる。もし、この世にスカウターがあるのなら、私の戦闘力は、今、物凄い勢いで上昇しているだろう。それほどの気の充実を感じる。そう、奇跡とは起きるのを待つんじゃない。自らが起こすものなのだ!
そして1時間後。
「ゴーダマステッキ初回限定盤、在庫無くなりました~」
無情なる現実を告げる店員の声が木霊する。
はるか前方、恐らく50も満たない場所ぐらいで販売は打ち切られていた。だったら何故! 何故、整理券の番号を200番を超えるまで用意したのだ! 「整理券番号 = それだけ在庫がある」と期待するだろう! 最初から在庫が少ないのならその在庫分の整理券だけでいいじゃないか! 並んだ意味がまるで無いじゃないか!
「終わった……」
私はガックリとその場に崩れ落ち項垂れる。
せっかくゴーダマステッキを手に入れて、自室で誰も見られないところでナマステちゃんごっこする予定だったのに。儚い夢だった……。
「あれ? もしかして君は川島さんかい?」
突然声をかけられ、項垂れたままの姿勢で私は硬直した。
な、何故私の名前を?! いったい誰が? 変装は完璧だったはずだ……。
「チ、チガイマスヨ」
私は声色を変えて答える。だが、
「ああ、やっぱり川島さんだ。どうしたのこんなところで? もしかして、君も魔法インド少女ナマステのゴーダマステッキを買いに来たのかい?」
自分の正体から目的まで完璧に言い当てられ、私は観念した。
恐る恐る見上げると、そこにはクラスでも自他共に認めるオタク野郎、矢萩大作が居た。