名も無きトリッパー ~現実主義な友人に捧ぐ~
初めての習作で、初披露ってやつです。
なるべく短く短くと思って書いております。
暇な方は一読してやってください。
*R15は、流血シーンです。あとはぼかしてます。
某月某日、午後三時十五分。
草狩暢雄は、絶体絶命のピンチに遭っていた。
{マジかよ。いったいどうすれば!}
暢雄の目の前には、金髪に青い瞳が輝く王子様カラー。白い歯も輝いているのは、いいとしても、肌まで陶器のような皇かな肌理の細かさ。アイドルファン・俳優ファンの女性なら一度は夢見た王子様そのもの。
違うところと言えば、その表情だろうか。自慢の白い歯が見えるほどに微笑んでいる。微笑んでいるが、目が笑っていない。それどころか。どこか、狂気染みているのだ。
そして、第三者にも隠すことも無く、この目の前の似非王子様は、言ったのだ。
「嘆き悲しみながら吐くか。それとも、嬲られながら吐くか。そうだ。いっそのこと、あらゆる拷問を体験してみるのもどうだ?」
暢雄の喉下に、似非王子様ご愛用の剣を突きつけながらの、台詞である。
{結局みんな、同じじゃねぇか}
多少若気の至りで悪ぶっていたことはあっても、目の前の男のそれとは、大人と子供ほどに違う。
この状況を、変えてくれる人間が、残念なことに誰もいない。人っ子一人いないのだ。
ただ強いて言うなら、茂みの向こうから争う獣の声がするので、その獣が突進してきたらほんの少しは状況打破できるかもしれない。
暢雄も、それを一瞬願った。
当然、そんなことが起こる可能性は、奇跡的な確立でしかない。
万が一、その奇跡が起こったとしよう。だが、似非王子様から生きて逃げられると感じられる日本人が居ようか。その数の方が、奇跡的数値を叩き出すくらいに居ないだろう。
暢雄は、半ば自棄になっていった。
この状況で暴れることはしなかったが、目の前の似非王子様を消すように、緩やかに流れる雲を見つめた。
{はぁ。ここでお終いか。たいして何かを成し遂げようと奮起して我武者羅に突っ走ってきたわけじゃないけれど。いざ終を迎えるとなると、こんなに死ぬのが惜しくなるのか}
似非王子様は、目の前の冴えない日本人の心の内を読むのは、容易いことなのだろう。
喉元に突きつけていた剣先で、頬を撫でた。
{ツッ?!}
剣先の冷たさに、現実に戻された暢雄は、再びこの似非王子様を見る。
「諦観とは・・・・・・つまらん」
似非王子様は、剣先を頬から離した。そして、暢雄の左下から右上へと、綺麗に舞うかのように切り裂いた。
似非王子様は、冷淡な眼差しで、待つ。
しかし、なかなか反応を見せない暢雄に焦れたのか、剣先に滴る血を、暢雄に見えるようにした。
似非王子様の思惑のままに、剣先を注視する暢雄は、徐々に目を見開いた。視線を外せないまま、両手で体を触ってさぐる。
――ヌル
その感触に、ゆっくり手を見る。その手には、大量の血が付いていた。
{マジか?! 切ったのか?!}
自分が切られたと自覚した途端に、その事実に追従するかのように、暢雄は吐血した。
先ほどまで暢雄の中を満たしていた感慨までをも、切り捨てられたのか、一変して恐怖が溢れてきた。
{痛ぇー}
その恐怖からなのか、痛みによるものなのか。涙が零れ落ちた。
傷口を両手で押さえ、前屈みになっている状態のまま、地面に倒れた。
僅かに立ち上った土埃が、暢雄の口内に入る。
似非王子様は、そんな暢雄を見ても、何も言わずに立ち去っていった。
「ッ」
仰向けになろうと必至に力を入れるが叶わず、顔を横に向けた。
暢雄は、目を精一杯動かして、空を見た。
{こんなに堪んねーのか。}
茂みの向こうで争っていた獣の声もいつの間にか聞こえなくなっていた。
短編で、この場面だけとなると、あらすじやらキーワードやら注意書きでラストの感じがバレバレでございますね。
一番そこをどうしようか迷いました。
結局必要な表記なので書いちゃいましたけど(笑
誤字脱字やらおかしい言い回しやらありましたら、ご一報くだされば幸いです。