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第4話 いつもの道の危険な旅路

「さて、待たせてしまって済まないね。あまり悠長にしているのも何だ――出発しようか」

「ソロモン卿、どこのショッピングモールに向かう気ですか?」


生徒会長は今となっては名前の件についてはあきらめた。

相手が折れることはないだろうし、なによりも騎士たちが怖い。


「うん? ああ、騎士たちに言われでもしたか。それはともかく、絆ヶ丘ショッピングモールに向かうつもりだが、異論はあるかね」


ゾンビに襲われたらどうするか、という議題で出てくるショッピングモール。

テンプレでも食料やら武器やらがたくさんあるのは違いない。

だが、十神は苦虫を噛み潰したような顔をする。


「いや、あそこは確かに品揃えこそいいですよ。あそこに行けばおそらくは手に入らないものなどないでしょうが――あいにくと距離が遠すぎます。光稜ショッピングセンターに行けば、少なくとも水も食料もあります。少ないけど、衣料品もあるはずです。まずはそこに行くべきではないでしょうか?」


確かにそこなら何でもあるだろう。

だが、遠い。

平常時ならば駅を利用したくなるほどに。

だから、こう提案した。

卿がなにか言われて怒るか試してみるためにも。

駄目だったなら、土下座すれないいさ。


「なるほど。では、そこにしようか」


神妙に見つめる十神に、あっさりと卿はうなづいて見せた。

どうやら本人の言うとおり懐が狭くはないらしい。


「――ああ」


拍子抜けした十神は背中が冷や汗で濡れていることを自覚する。

ソロモン卿と【業火灰燼】のレッドの戦いは人間たちに恐怖を与えていた。

どこに火にまかれて平気な顔をする人間がいる?

どこに火を斬れる人間がいる?

どこに触れもしないものを真っ二つに出来る人間がいる?

彼は超常の能力を持つ異端。

――人間じゃない。


「では、【死を歌う劇団】ムルムルよ。貴様の劇団を率いて、我らの前に立ちふさがる敵を粉砕せよ」

「了解しました、グリモワール興」


村人のような質素な服をまとった女の子がうやうやしく卿の前に出る。

進み出て主へと1礼。

そして、軽やかに指揮棒を振り上げる。


「おいで、私の劇団。死の果てにて音と戯れる亡者ども。我が指揮のもと、踊り狂え――!」


それは軍団。

それは劇場。

それは亡者。


地から生えるように生まれてきた異形の兵隊がそこにいた。


「話が主は一番槍をお望みだ。行きなさい――死のうとも。その体、砕けるまで奮闘せよ。そして、欠片を踏み潰し更に前へ」


指揮棒を一閃。

それとともに軍団の一部が校門の外へと流れ行く。


「――っ!」


音無き号令が木霊する。

異形の前には化け物。

死を振りまくしかできない人を殺す”何か”。


爪の生えた粘土。

羊の角を持った人型。

声ならぬ音を吐き出すトカゲ。


これら全ては敵。

無数の異形たちが軍団へと襲いかかる。




「さあ!歌え踊れ狂え――主の道をその身で切り開きなさい」


ムルムルの声が響く。

ひどく陽気で、邪悪を孕むかんだかい声。

亡者の軍団が答える。

先手を取ったのは敵。


「シャアアア!」


トカゲが兵隊を食った。

闇を詰め込んだような鎧甲冑はトカゲの胃袋へと消える。


だが、相手をするのは軍団。

兵隊たちが槍を剣を矢を突き刺していく。

数に任せた攻撃。

技も狙いもない――ただ敵を飲み込みゆく圧倒的な暴虐。


「ギジャ!?」


そして、腹から剣が生えた。

最初に食った兵隊。

丸呑みされたのなら、中身は甲冑ごと溶かされているだろう。

突き出ている剣も3割ほど溶けている。

最も溶けにくい武器でさえこれだ。

いや、見る見るうちに剣すらも溶けていく。

こびりついた消化液が全てを跡形もなく消し去る。


だが、軍団は犠牲など気にもしない。

わずかばかりの傷を与えた、ただそれだけ。

無数の傷を連ねて必殺にせんがため、ひたすら迫る。


反撃で何人かの兵隊を殺しても、それ以上の攻撃が来る。

何度も何度も何度も攻撃を受けて、皮膚がもろくなる。

そして脆くなった皮膚は破られ、あらゆる武器が突きたてられる。

無数の武器は元の姿を覆いつくすように刺さっていく。

ハリネズミのようになったトカゲは、最後に頭を切られる。

そのまま踏み潰され、顧みられることはない。




「トカゲ一匹殺したくらいで我が楽団の歩みは止まらない。そんなことは許さない。さあ――もっと地獄を。天地狂乱の合唱はまだ始まったばかりよ――!」


兵隊たちは爪持つ粘土を踏みつける。

爪に貫かれた兵隊すらも、踏みにじり更に進み行く。




「……」


羊の頭が無言の気迫を放つ。

敵は人の言葉を解さない。

身体は闇。

とどこおり、どろどろとした黒が人型を形成する。


魔法陣。

空中に光の線が走り、五芒星を形成――さらに縁を型取り、複雑な模様を仕上げていく。

光の洪水が走る。

兵隊がまとめて10人も吹き飛ぶ。

――これが魔法。

いや、なにもかも混沌とした世界では、全てが固有技能か。


兵隊も負けはしない。

飛んでいった者は砕け散り、動かなくなる。

だが、ムルムルが指揮棒を振るごとに武器持つ甲冑が生み出されていく。


魔法はその異能を遺憾なき発揮し、兵隊たちを消し去りゆく。

だが、兵隊はそれ以上の勢いで進軍する。

5人殺されたら、10人で突撃したらいいのだ。


「…………っ!」


ついに、魔法が追いつかなくなった。

羊頭は刺し貫かれ、地に堕とされ踏みにじられる。

残るはうごめく爪粘土のみ。


踏み潰し、平らにする。

主の道をならす。




「さあ――話が主グリモワール興、道は開きました。どうぞお進みを」

「よくやってくれた我が従僕。さあ、人間たちよ。足を踏み出し、新たなる世界を歩いて行こう」


卿はその足を進める。

7人の騎士たちを伴って。


「どうした、十神? 遅れているぞ、他の物を率いてついてこい。いつまでも学校に居ても仕方あるまい」

「あ……ああ。皆、行こう。その方が安全だから」


ざわざわと色めき立つが、歩き始める。

皆分かっていた。

ついて行くしかないことが。

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