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第1話 『昨日と同じ今日』が終わる日

それは突然のことだった。

なにか予兆があったわけでもなかった。

それはあくまで突然に、誰も予想できなかった。


それは昼間に起きた。

ちょうど昼休みの時間。

大体の人が昼食を食べ終わって思い思いのことをしていた。


ある者は友達としゃべくり、またある者は本に目を落とす。

仕事に精を出すものも居た。

生徒会長である十神清四郎もその一人。




【空が黒く染められた】




――いや、ただ黒く染められただけではない。

世界は不気味な赤で照らし出される。

光源があるわけでもない。

ぼんやりと、薄暗く地面が発光しているのだ。



当然、学生たちは混乱する。

いや、ここにいるのは学生たちだけだが他の場所に居る大人たちはもっと混乱しているだろう。


――ありえない。


そうとしか思えない。

いきなり空が暗くなるなんて、幻覚以外でどう説明する?

けれど、頬をつねってみてもベッドから飛び起きたりはしないのだ。

ネットでも盛んにその話が持ち出されている。

これが現実でなくてなんだ?


昨日までの物理法則は何処へ行ってしまったのだろう。

一体どんな法則があれば空を黒く染められる?


――宇宙人の襲来。

――某大国の実験兵器。

――神の裁き。


色々な憶測が吹き荒れる。

空が黒くなってから数十秒しかたっていないというのに。

誰もが携帯を凝視している。

何処を見渡しても妙な熱意を持った不気味な集団が見える。


不気味な熱意の源は不安だ。

赤く――ぼうっと光る地面が心をかき乱す。

古来より不安や敵意を掻き立てる色は赤と決まっている。

闘牛の赤旗に始まり、血の赤色まで。


暴動が起きないのは日本人の性ゆえか。

しかし携帯画面を凝視するのもいかがなものかと思うが。




人々は携帯に注意を払いながら空を見る。

この教室内でも、多くの生徒たちが窓に近寄って空を見上げる。


「窓から離れろ! 危険だぞ」


一喝が響く。

弱弱しい外見のいかにも教室の隅で縮こまっていそうな男。

その男の顔は普段とは様子が違う。

いつもの気弱なへつらいは自信へと。

うつむいていた顔はまっすぐ前を向いて。


「山田、お前――何言ってんだ? まさか、何か知ってんのか」


集団の中の一人が聞く。

皆が不安を浮かべている状況で、薄笑いを浮かべている男を不気味に思っている様子。

別にこの男は山田と親交を持っているわけではない。

ただのクラスメイトだ。

山田は虐められてもいないが、友達もいないような人間だったから。

そんな彼が毅然という態度――そもそも日本ではお目にかかることすらないような――そんな傲岸さを秘める瞳で見つめられて何を思うか。

まずは戸惑いだろう――こいつ、一体誰だ? というような。

次に来るのは尊敬か、軽蔑か――それとも憎しみか。


「いや――。知らないさ。何も知らない」


そんなことを前置きして、言う。

その姿には世界が変わる前の様子は全く見られない。

いつも本を読んでいて――視線は地に落とされていて。

人と話すときも声が震えてしまう有り様は今はもう鳴りを秘めていて。

不遜、傲岸、不可思議が服を来て歩いている。

もはや学生服がただの布切れに鳴り下がっている。

王がぼろを来て歩いているようなちぐはぐさ。


「けれど、わかることはある。それは――『昨日と同じ今日』はもう訪れないということだ。血筋と金が支配する世界から、想像力と暴力が支配する世界へ変わったのだ」


その彼は宣言する。

王のような威厳を持つ一喝。

光は閉ざされ、地は紅く不気味に光る。

もはや今日までに築かれた常識なんてものは通用しない。

今日までの常識ではこの事態は測れない。

では、変わった世界は彼が言うように想像力と暴力が支配するようになるのだろうか。

それは――あるいは神様なら知っているのだろうか。


「なんで、お前にそんなことがわかるんだよ。お前はただの――内気なオタクじゃねえか!」


男は髪を振り乱す。

理解できないのだ。

いや、彼だけではない――誰だってそうだ。

この豹変がなんなのかわからない。

だから、気持ち悪い。

目の前に居るそれがなんなのかわからない。


「ふん、確かに山田二郎はそうだろうさ。だが――聞こえるんだよ」

「何がだよ?」


「地の底から響くような声が――




『世界を想像し創造せよ。セ界を想像し創造せよ。世界を想ゾウし創造せよ。セかいを想像しソウ造せよ。せカいを想像し創造せよ。世界を想像しソうぞうせよ。世界をそうゾうし創造せよ。セかいを想像し創造せよ。世界をそうぞウし創造せよ。世界をそウぞうし創造せよ。せかイを想像しソうぞうせよ。せカいをそうゾうしそウぞウせよ。セカいをソウぞうしそウゾうせよ。セカいをソウぞうシそウゾうせよ。セカいヲソウぞうしそウゾうせよ。セカいをソウぞうしそウゾうセよ。セカいをソウぞうしそウゾうセよ。セカイヲソウぞうしそウゾうセよ。セカいをソウゾウシそウゾうセよ。セカイをソウぞうしそウゾウセよ。セカイヲソウぞうしそウゾウセヨ。セカイヲソウゾウシウゾウセヨ――』 




という具合にね」


なんでもないかのように手を広げてみせる。

けれど、その仕草はどうみてもふざけている、ないしは狂っているもので。


「だから、なんだってんだよ?」

「いや、それは関係ないんだ。むしろこちらが本題だ」


あっさりと話題を翻す。

その自信の源は聞こえてくるという“声”ゆえか。

それとも、彼は想像し――【創造】したのだろうか。


「なら、それを早く言えよ!」

「邪悪な気配を感じるのさ。君たちも感じないかな? それで、外から丸見えのそこはとても危険だと思うのだけど――」


視線を外へ。

相変わらず空は暗い。

太陽は忘れ去られたかのように、その姿を消す。

紅き地は、不気味に濡れた光で天を舐める。

邪悪というなら、この光景は限りなく不安をかきたてる。


「は? 危険って……どういう意味だよ?」

「そのままの意味だが? 言ったはずだ。昨日までの無償の安全はもはや過去という誰にも手の届かないところへいってしまったのだ。とはいえ、敵襲があるとは限らないのだが」


涼しげな顔をして言う――

――昨日までの道理が通らないことを。

昨日までは、安心して日々を暮らしていた。

警察や……形のない常識といったものが守っていたもの。

それはもう――打ち崩された。


「……お前さ、いつからそんな口調になったんだよ。いつもどもってただろうが」

「声が聞こえてからだ」


「中二病患者かよ」

「違うね。何故なら――我が力はすぐにでも顕現する。さあ――弾けるぞ!!」


「はぁ?」


駄目だこいつ……早くなんとかしないと――といった顔は“消し飛んだ”。


闇から生み出された血と灰と目玉をこねたような粘土状の魔物が上空から飛来、生徒たちを殺してしまった。

その魔物はとても生物とは呼べない悪夢だった。

ぐちゅりぶちゅりとうごめく体は醜悪で、吐き気を催すほどに狂っている。


一瞬にして教室を血と臓物の池にしてしまった魔物は田中に向かって触手を伸ばす。

目玉の浮き出た触手はおぞましく、人の体を軽々と引き裂く力を持っている。


「……救えなかった。私は所詮、山田二郎だったということか――」


拳を握り締める。

そして、その拳をかかげ――

振り下ろす。


「出でよ! 我が騎士達よ――

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