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「これはストラルコスの魔術理論と……ガルネクの方陣形式に似た術式だな。さっきの壁画に描かれていた古代文字に示されていたものは太陽と星、水の流れ……となると、ここは……」
ほんわりと柔らかい光を放つ光球に照らされ、行き止まりとなっている通路の奥に刻まれた魔方陣にローランは向かい合っていた。
その壁の右脇には1つの細い台座のようなモノが設置されており、そこにはドラゴンを象った石像と朱蒼翠三色の宝玉が嵌め込まれている。
ブツブツと難解な用語を呟く彼の傍らでは、ドレッドヘアーの男ーードルレイが退屈そうに欠伸を噛み殺していた。
遺跡攻略はなんとか順調に進んでいる。
二人が挑んでいるこの古代遺跡は、古代技術による原理不明のレーザーによる罠と、魔方陣によるランダム転送、そして超難解な暗号解析が中心の遺跡であった。
レーザーはドルレイが、残り2つはローランが対処することによって、どうにかこうにか進んできた彼らは、今また新たな暗号を解読している途中だった。
「ほんまによぉそんなんがわかるなぁ。兄ちゃんマジで天才やろ」
「うるさい。今は集中しているんだ。黙ってろ」
「へいへい」
頭脳労働にはからっきしのドルレイはつまらなさそうに再び大きな欠伸をこぼす。
ローランはそれを意に介さず、未来にて蓄えた知識と鍛えた頭脳を以て暗号に向き合う。
本来それらに精通した学者たちが数人集まっても解読に時間のかかる古代文字を読み解き、さらに様々な魔法系統の要素が幅広く絡み合った問題を解くのは容易ではなく、ローランは頭がオーバーヒートしそうになるのを抑えて暗号に取り組んでいた。
これらの暗号等は答を間違うと即死レベルの罠が発動されることがざらであるため、慎重に慎重に解いていく。
そんなローランの苦労を知ってか知らずか、ドルレイは眠そうだった。
「ーー間違いない。答はこれだな」
ローランは三色の宝玉の内、翠色を手にとってドラゴンの開けられた口へと嵌める。
すると一瞬ドラゴンの瞳が光輝き、次第に口の宝玉を含めた三色が色を失っていく。
そして、ズンッと遺跡内の空気が揺れた。
そして、床が抜けた。
「え?」
ドルレイの間の抜けた声が響く。
「どうぇえええええええええっ!!!!!」
そして続いた彼の絶叫と共に、二人は闇の中へと落下していった。
「ーーハァ、ハァ…。し、死ぬかと思ったわ。悪いな兄ちゃん、助けられたわ」
ドルレイはぬかるんだ地面に座り込み、荒れた息を整えていた。
ローランは無表情に真っ暗な周囲を見渡す。
二人は落下の最中、ローランの行使した風の魔法によって衝撃を和らげ、なんとか事なきを得ていた。
あまりに突然の出来事に対応出来なかったドルレイは、軽く尻餅をついてしまったお尻を撫でながら立ち上がる。
「ライト」
ローランが呟く。
「ほぅ…」
ドルレイの興味深げな声が小さく木霊した。
無数の光球によって照らされたそこは巨大なドームのようになっていた。
岩の大地を無理矢理削り取ったようにあったその空間は広く、天井から滴る水滴によって地面全体は湿っている。
そして、中央には1つの大きな祭壇があった。
無言で歩みを進めるローランに、ドルレイも黙って追従する。
そして、あと数歩という距離になり、ピタッとローランは足を止めた。
なんだ?とてつもなく巨大な魔力の波動を感じる。
魔力の感知ができないドルレイは何事かと首を捻ったが、その瞳はすぐに驚愕で見開かれることとなった。
祭壇の上には、一人の男が立っていた。
男は全身が薄い水色の半透明であり、そこに「存在」していることは分かるが、生気は全く感じない。
こちらをじっと見つめるように、静かにそこで佇んでいるのみである。
ひんやりとしたドーム内の空気が、ぐっと冷たくなったように感じられた。
「あ、あれって…ユーレイかいな?」
コソコソとドルレイがローランの耳に口を寄せる。彼の歯はガタガタ震え、褐色の肌を真っ青にしていた。
彼は心霊現象が大の苦手なのだ。
「さぁな」
ローランには視えていた。
神力にも匹敵するほどの濃密な魔力が男を形作っているのを。
彼は臆せず歩き出す。
無数の罠には全く怯まなかったドルレイは、恐怖で動くことができなかった。
ゆっくりと祭壇に近づいてくるローランに、男の視線が集中する。
『止まれ』
まさにローランが祭壇へと上る階段に足をかけようとした時、不思議なノイズが辺りに響いた。
ローランが顔を上げると、男はじっと彼を凝視している。
『貴様は何だ?』
男の口は動いていなかったが、間違いなくこれは彼のものだろう。
ローランはぼんやりとした存在の中で不気味な力を宿す男の瞳を正面から見返す。
「まずは自分から名乗るのが礼儀だろう。お前は何だ?大昔の魔術師の亡霊か?」
それにしては大層な力だが。
『亡霊、亡霊か。そのような不安定な存在と私を一緒にするな。私の名はドゥリドゥラ・シュタルデン。神より天秤の杖の守護を任せられた者である』
天秤の杖、というワードにローランはピクリと反応した。
それこそが彼の求めるモノである。
しかし、それに守護者がいたなんて初耳だ。
「なるほど。俺の名はローラン・フィレンス。今代の勇者パーティーの魔術師だ」
「お前勇者パーティーのメンバーやったんかいな!?」
『ほう』
驚愕に叫ぶドルレイ。
ドゥリドゥラの視線は警戒から疑惑へと変わった。
「あれ?いやでも待てや。確か勇者パーティーの魔術師の名前ってクロアなんちゃら言う奴やなかったっけ?」
「正式には、な。俺は臨時みたいなものだ」
『勇者一行の一員であったか。しかし、ならばなぜ貴様は神の加護を受けていない?』
加護?
聞き慣れない言葉にローランは内心首を捻った。
神の加護とは何だ?もしそれが勇者パーティーとそうでない者を区別する要因となるならば、それは大問題になる。
『早々にここから立ち去れ、勇者を偽る下衆の輩よ。神の加護なくして天秤の杖に触れさせる訳にはいかぬ』
強大な敵意がローランの全身に降りかかった。




