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忘刻の魔術師  作者: 鳶 修吾
第三話 : 天秤の力
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 突如として姿を顕した村の中を二人の人間が歩く。

 一人はその瞳と同じ藍色のローブを纏い、一人はドレッドヘアーが特徴的な黒のタンクトップ姿の男であった。


 2本の木を境界として1歩中へ入れば、そこからは異界に足を踏み入れたかのような感覚と共に、これまでのコーラルの森の木々とは比較にならないほどの大木が連なる光景に圧倒される。

 その木々に寄り添うように建てられた家々は原型を留めているものの、その殆どが朽ち果てていた。



「マジやったんやな。疑って悪かったわ」


「……無理もない。だが、これからは本格的に仕事だぞ。気を抜くな」


「そりゃ楽しみやな。任せとけ!……つってもオレが心配なんは兄ちゃんのスペックや。ほんまにオレの専門外は全部任せてええねんな?」


「あぁ。それこそ問題ない」


 ほんまかいなぁ〜、と頭を掻きながら1歩先を歩くドルレイの背中を見ながらローランは考えていた。

 ここから先にあるモノを手に入れることができれば、とりあえずは己の魔力に関しての懸念は解消される…ハズである。

 それは本来ならばクロアが手にしていたはずのーーーー。


「さて、ここやな」


 ドルレイが立ち止まる先には、一軒の家があった。

 しかし、それはここコーラルの森の民の村では異質。

 唯一大木から離れて個として建っている家であり、また唯一この村の中で石造りであった。


「外見はまぁ普通の家やけど、ここで見ると逆に不自然なんがおもろいな」


「おそらくここは所謂村長の家、と言ったところだろう。俺の推測通りなら中に隠し扉があるはずだ」


「……オレは兄ちゃんがどっから情報得てんのかがものすごーーく気になるんやけどな」


 ローランはドルレイの言葉を無視して家の中に入る。

 おそらく木製であっただろう玄関の扉は腐っていたため容易く蹴り壊すことができた。

 家の中はおよそ10畳といった広さの一間で、壁に沿って置かれてある棚には深く埃が積もり、床には何かの破片が散乱している。

 特に家具の類も置かれていない部屋を、ローランはぐるりと見渡した。

 隠し扉の場所は知っている。

 しかし、ここはドルレイに探してもらおうじゃないか。

 ローランはドルレイを信頼していた。が、それは少なくともこの時代よりも10年後の話。 今はまだ若いドルレイが、同等の力量を備えているとは限らない。


「んー…隠し扉、ね」


 ドルレイの瞳は少年のように輝いていた。キラキラと光るそれは新しいオモチャを手にいれた子供のように煌めき、彼は部屋の隅々までごそごそと物色していく。

 そしてーー


「……ん、あった。なんや、古代遺跡とか言う割には典型的なモンやな。あ、古代遺跡やからこそか」


 ーー数分の内に彼が見つけ出したのは、壁の一部分のとある岩。

 ドルレイが軽くそこを押せば、ズンッと鈍い音をたてて中央の床が大きく沈んだ。

 そして現れる隠し階段。

 中は漆黒の闇に包まれ、数メートル先も見ることができない。


「流石だな」


「いやいや、こんなんで誉めてもらっても困るで。本番はこっからやろ?」


「冗談だ。こんなのはウォーミングアップにもならん」


「お、おぉ。兄ちゃんやっぱ厳しいな」 


 しかし、これは古代遺跡を攻略するにあたっては当然の認識と言えた。

 彼は未来にてこの古代遺跡の情報を得ている。

 が、それはあくまで他人によって攻略されたものを後から追従するようにして得たものであり、初めて攻略するのとは難易度が段違いに異なる。

 何よりもこの時、この古代遺跡は未発見なのだ。

 それはつまり、先人によって攻略された(トラップ)がないことを意味し、そしてそれは全てのギミックをこれから相手にしていかなければならないということなのである。

 ローランにあまり時間が残されていない。

 彼の身体は刻一刻と己の魔力を食い散らかし、少しずつ少しずつ彼は自分の肉体が疲弊してゆくのを肌で感じていた。


「では、行こうか」


 急ごう。最後にある程度の余力を残しておかなければ、アレは御しきれん。



 ローランは〈ライト〉の魔法によって無数の光球を生み出す。

 彼が人差し指をスッと階段の奥へ向けると、それらは音もなく順にその方向へ飛んでいった。

 数十個の光球は、一定の間隔を空けて階段から連なるその奥の通路の壁にくっつき、そしてボワンとその輝きを増して辺りん明るく照らした。


「すげぇな。これはだいぶ見やすいわ」


「よし、では慎重かつ迅速に攻略を進めていこう。手はず通り俺が魔術関係のトラップや暗号を解く。ドルレイはその他のギミックだ。もしこちらに敵対する自立型ゴーレムが現れた場合などには、俺が対処する」


「おう、任せとけ」


 ドルレイの武器はその軽い身のこなしと、鋭い第六感による魔術に関する以外のトラップの感知力である。

 未来の知識を持ちながら、人外の力を手にいれたローランにとって、彼は唯一の弱点とも思われる範囲をカバーすることのできる人間であった。


「こっから先はオレが踏んだ所を通れな。あと、たまに止まれって言ったときはオレが一回奥まで見に行くから、その場で待機しとってくれ」


 先頭を行くドルレイは、先ほどの言葉とは裏腹に、まるで散歩でもしているかのような軽い足運びである。

 ローランは周囲全体の魔力に気を配りながら、その後をゆっくりと追っていった。


 通路は石と木が混じりあったかのようであった。

 元は全て石で造られてあったのだろうが、今ではそこかしこから巨大な木の根が石を食い破り、狭い通路をより狭くしていた。

 ローランは普通にしていても歩ける程度の高さだが、頭が擦れそうなイメージを持ってしまうほど天井は低い。

 彼より幾分身長の高いドルレイは実際、軽く身を屈めている。

 ローランの生み出した光球群のおかげで通路の見通しは比較的良かったが、空気は埃っぽく土と木のにおいで溢れていた。




「ーーーー止まれ」


 歩き始めて数分、ドルレイが歩みを止める。

 ローランは意識を集中させた。

 奥からは魔力の気配はない。

 警戒のラインがどっと上がる。

 そこはトラップが仕掛けられていた痕跡のない序盤の辺りであったからだ。


 やはり使い捨てのモノも多いのか。

 今はなき古代技術によって形となったトラップの数々は時に1度発動すればもう二度と動くことはなく、また後からその存在を確認できないものも多いからである。

 これはその1つの例であろう。


 ドルレイは先ほどまでとうって変わって非常に慎重に進んでいく。

 いつでも反応できるように姿勢を低くし、かつ適度に力が抜けているその様はまるで獲物に忍び寄る猫のようであった。


 途中、彼が1歩踏み出した瞬間、彼の真横の壁から赤色の光が輝く。

 それはローランの魔法の行使ですら間に合わない刹那。

 ローランの心臓がトクンッと音をたてた。


 1本の細い光線はドルレイの胸の高さを通り過ぎる。

 ほぼ同時にしゃがみこんでいたドルレイ。

 遅れた1つぐくりのドレッドヘアーが数本宙を舞った。


 恐るべき反応速度である。

 彼は数秒間周囲への警戒を強めた後、ゆったりと立ち上がりローランの方を振り向いた。笑顔である。


「ふぃ~ビビった。あれはヤバかったな!もう大丈夫やで!」


 若い分、少しの危うさはあるが素早さは今の方が上か。

 ローランは自然とほっとタメ息が漏れるのを感じながら、再び褐色肌の男の背に続いた。


 


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