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すいません。少し設定的に気に入らない部分があったので改めました。最後あたりのローランの隠蔽に気付く者の考察の部分です。
彼は言うなれば、穴のあいた大きな風船だった。
継続してたくさんの空気を送り続けなければ、すぐに穴から漏れでた空気の方が勝り、萎んでしまう。
例えを変えるならば、栓のしていないバスタブへ、流れ出るお湯よりも多い量を注ぎ続けなければ、いつまで経ってもお湯がたまらないのと同じである。
今現在、ローラン・フィレンスはとある円形の台の上で寝かされていた。
台の周りは清らかな水で満たされ、その台には複雑な魔方陣が刻まれている。
ローランはそこに、パンツ一丁で寝かされていた。
そして彼の体にも墨のような塗料で何かの幾何学紋様が描かれ、よく見ればソレは台上の魔方陣と組合わさってその術式をより複雑なものにしていた。
薄明かりの中、ゆっくりとローランの意識が浮上していく。
うっすらと目を開けた彼は、未だぼんやりとする頭で微睡んでいた。
そして暫くすると、不意に自分の置かれた状況に気付いて飛び起きる。
「ッ!?ここは!?…サラ?どこだ!?」
彼が動いた瞬間、魔方陣はその効力を失って輝きを失った。
そこで初めてローランは視線を自分の立っている場所へ向ける。
「これは……」
鈍くなっていた彼の頭の回転がどんどん加速していく。
彼はその魔方陣に見覚えがあった。
あまり一般に知られていないモノであるため、ハッキリとした名前は未来においても付けられていないが、極一部からその魔方陣はこう呼ばれていた。
魔力の泉
その効果は即ち、「地下深くにある星の地脈から魔力を汲み上げる」こと。
神代の頃に存在した今は無き古代技術であり、そこに刻まれている紋様が何を意味するのか、そして誰が発明したのかなど、殆どが謎のまま解明されていない代物である。
しかし、魔方陣という性質上、完全に模写すれば再現可能なものであるため、王族や教会など極一部の特権階級に独占されている技術でもある。
ローランは昔(未来で)、世界に13ヶ所点在する古代遺跡の調査の際、その最深部でこれを発見していた。
彼は自分の身体に書かれた術式を見ながら納得する。
どうやらこれは自分に今まで魔力を供給してくれていたらしい、と。
彼は思い出す。過去に戻った瞬間、己を襲った凄まじい喪失感。そして周囲の空気が突然薄くなったような感覚。
なんとなくであるが、検討は既についていた。
未来から「跳ぶ」前、魔方陣に付け加えたあの魔力量保存の術式によるものである。
彼は失念していたのだ。
己が神力という超魔力に適応した状態で過去に戻った時、過去における彼の周囲を取り巻く環境は「普通」であることを。
過ぎたる欲は我が身を滅ぼす。
あの術式さえ書き加えなければ、ローランは死にかけることなどなかったのだ。
まさにローランは九死に一生を得たといったところであった。
ここがどこかはわからない。まぁある程度当てはついているのだが、しかしこの場所にいるのは他人が自分を助けてくれたのだろう。おそらくサラあたりではないだろうか。
しかしーー、と彼は思う。
人間の魔力回復にこんな大層なものを使うなど。儂を化け物扱いしているのか?
実際は化け物というより未知の病気扱いなのだが、彼はもし自分の魔力耐性が以前の状態だったらと考えて身震いした。
こんなものから直接魔力なんて吸っていたら、魔に犯されて死んでしまうじゃないか。
まぁ今回に関しては正しい方法だったと言えるのだが。
ローランは今、少しハイになっていた。
それはその時になってようやく時間逆流に成功したという実感が湧いてきたからである。
見た感じ、己の肉体は10代の若さを取り戻している。
軽く声を出してみても然りだ。
身体が軽い。関節の傷みもない。そして身体中にみなぎる膨大な魔力。
……そこにはかなり反省しているが。
これは今後良くも悪くも大きなハンディキャップとなる。
いや、悪い面の方が多いであろう。
まぁ、そこは追々解決策を考えていくとして、今はなんとかなる。
今、彼が寝ていることで対象と1つとなって発動していた魔方陣は止まっている。
原因はもちろんローランが動いたことなのだが、そのまま寝転んでいても何もできないのも事実。
しかし、この魔素の薄い空気の中では魔力の回復は望めない。ローランにとっては息を止めて水中にいるのと同じような状況である。
突然ローランは自分の右手親指を軽く犬歯で噛み切ると、流れ出る血で身体の術式に文字を書き加え始めた。
その間にも音をたてて身体から魔力が減少していくのを感じる。
「よし」
彼が呟いたその時、再び円台の魔方陣と自分の身体の術式に光が灯った。
そして同時に魔方陣から汲み上げられた魔素が彼の術式の中心ーー心臓部の文字を通って身体の中へと直接供給される。
ローランが書き足したモノ、それもまた古代遺跡で最深部を守護していた自立稼働型魔導ゴーレムの胸部に刻まれていた術式である。
簡単に言えば、魔力の泉から離れていても対象へと魔力が供給されるという半ば裏技のようなものであった。
因みにこの技術はまだこの時代においては発見されておらず、ローランの独占状態である。
魔力も回復しつつある。
ある程度状況も整理できた。
興奮も収まり、だいぶ冷静な思考も取り戻した。
そして、勇者パーティーへの加入の約束を取り付けた。
ローランの広角がニヤリと上がった。
計画通りだ。
彼はまず自分の身体に追加した術式を風の魔方〈蜃気楼〉で隠蔽する。
これで周囲にはバレない。
魔方陣から己へと送られてくる魔素の道のりまでを隠すことは不可能だ。
しかし、大気中に漂う魔素の流れを感知できる者など、それに特化した巫女ぐらいのもの。
万が一だが、その時は誤認の幻魔法で誤魔化すしかない。
約50年間分の知識と経験がある自分には無数の手札がある。
ローランは自信に溢れた一歩を踏み出した。




