【漬物1】計画ってすごい大切
ヒロイン忘れ気味。
コーラにかかる時間が予想以上に長くなることが分かって落胆した次の日。
「今度は時間のかからないものを作ろうと思う」
「って何するんですか?」
「漬物を作る」
「はい?漬物くらいこの世界にもありますが……」
そう、この世界にも漬物はある。あるのだが、それは漬物というよりピクルスで、ハンバーガーに入ってそうな味なのだ。ということのは冒険者もどきのことをしている間に知ったことだ。
「俺の国と同じような味の漬物を作る。というわけでまずは市場に繰り出そう」
◆ ◆ ◆
市場。日本語的に言うなら朝市のが近い。そんな雰囲気。
「らっしゃいらっしゃい! 新鮮な野菜揃ってるよ!」
「甘い果物はいらないかい! どうぞ見てってね!」
姉さんやおばさんやおばあさんが大きい声出して客引きをしている。男はいない。
「さーて、まずは夏野菜を探そうか」
「夏野菜といえばヌタとケカロですが」
「名前じゃあよくわからん。実際に実物まで案内してくれ」
「はい」
周囲を見渡してある店に入っていくキリエ。店といっても地面に布敷いて野菜置いてあるだけだけど。
「らっしゃい、うちの野菜は新鮮だよ。兄ちゃん二人、何買ってくんだい?」
お姉さん?おばさん?どっちともつかない中間ぐらいの女性が俺たちに声をかける。
「リュウ様、これがヌタ、これがケカロです」
右手と左手に野菜をそれぞれ持って俺に見せてくる。
ヌタは、見た目ナスだな。ケカロは、キュウリ。
どっちも黄色だけど!
「なんだい、お偉いさんかい?野菜の名前も知らないとはお坊ちゃんだねえ。どこの領地からかは聞かないけど、せっかく来たんならならたくさん買って行っておくれよ?」
「お偉いさんってわけでもないですけど……。まあ、買わしてもらいます」
ざっと見たところ、あまりに変で漬物にできなさそうな野菜とかはなさそうだし、手当たり次第かっていこう。
「この野菜全種類、3つ……いや2つずつください」
「毎度あり!全部で520レクトだよ!」
520レクトか、俺は金貨やなんやらが入った巾着袋を探る。
一番小さいので1000レクトの粒金だった。
取り出して、これを渡そうとするが、キリエがそれを俺の手から抜き取ってしまった。
それを店の女性に渡さず、
「お姉さん、20レクト負けてくれないかな?お釣りがこまごまして大変になっちゃうよ」
「20レクトぐらい……って言いたいけど、こっちだってそれで生活してる身なんだ、おいそれとは負けられないねぇ」
なんだか交渉を始めた。
「20レクトの高い安いで財布が痛むようなおぼっちゃんじゃないだろう、そこの人は。負けなくても良いじゃないか?」
「財布は痛むよ、たくさん粒銀や粒銅が入ったら財布の底は傷ついちゃうんだから。大丈夫、ここで負けてくれたら次もまたここの店に買いに来るから。ちょっと長い目で見れば損じゃなくて得さ」
「何度も来る様な予定があるのかい?」
「ちょっとね。言うのが面倒だから言わないけど確実にまた来るよ」
「本当かい?何度も野菜を買いに来るお坊ちゃんなんて想像できないがねえ」
「確実だって言ったろう。ほら、早く負けてくれないと客引きもできないんじゃない?」
キリエが横を見る。ちょうど他の客が他の店に入ったところが見えた。
つられて店の女性も同じところを見る。もちろん同じものを見ただろう。
「ほら、早く早く」
「……しかたがないねえ、20レクト、まけておくよ」
1000レクトの粒金が100レクトの粒銀5つになった瞬間だった。
◇◆◇◆◇◆◇
「はい、野菜調達完了です」
野菜をゲットして、領主邸へもどる俺たち。
「お疲れ様……ていうかあそこでまけてもらう必要あったの?」
「20レクトぐらい、まけてもらうのが朝市では普通です。というか言い値で買う人なんて少ないですよ」
mjdk。
地球でも、東南アジアでの買い物は値切るのが当たり前とどっかの本で書いてあったが……
しかし日本人に値切りの習慣はない。
「これから買い物の時はついてきてくれる?俺、こっちの常識ないし」
「分かりました」
迷惑かけることになってすまんな、助手君。
◇◆◇◆◇◆◇
帰宅。
キリエにとっては職場だが。
ちなみに門を通るとき、門番さんに怪訝な目で見られました。そりゃ野菜持って帰ってくればねえ……。
「じゃー、漬物作り開始っと」
まな板の上でいろいろの野菜を切っていく。とりあえず一口サイズで切る。
しばらくして切り終わる。
「さて、次は……あ」
なにで漬けるか考えてなかった。
「リュウ様、考えてなかったのですか?」
「……考えてなかった」
しまった。野菜を切って漬ければ良いと思ってたら……
「とりあえず今ある調味料味見して決めよう……」
んで、いろいろ味見した結果、酢と塩と辛うじて醤油っぽい味がする赤色の調味料でつけることになった。
3種類つけてみたわけだが、30分後一切れかじってみても味はしみていない。考えてみれば当たり前だ、どれも浅漬けにできるような調味料ではなかったのだから。
キリエには1週間は待ちましょうと当たり前のように言われた。
無意識に浅漬けをイメージしていたのがわかり、落胆する。
教訓、計画は大事。実行の前に計画を考え抜き、その計画でもって実行する。
……次からは気をつける!
無計画な実行の責任は自分で取るしかないのです。