採用試験はなく面接合格
毎度毎度物々しいタイトルですいません。中身はすかすかです。
俺の狭めの部屋をノックしたので入室許可したら執事のセバスさんだった。
「あ、どうもセバスさん」
俺は軽く頭下げるが、セバスさんはビシッと決まった執事服(そんな名前あるんか?)で礼をするだけ。寡黙な人なのだ。
セバスさんに続いて入室してきた人がいる。見た目からして少年っぽい、俺よりいくつか下だろうが……
「あの、その人は?」
「昨日リュウ様がご所望なさった料理人です。キリエと申します」
「キ、キリエです、よ、よろしくお願いします」
もんのっそい緊張してますが。
ちなみに、この子の第一印象は『ショタっ子』。まじでイメージのどストライク。俺にそんな趣味は無いが。
「えーと、キリエ君?これからよろしく。自己紹介してくれる?」
「は、はい」
これは緊張の域超えてないか?と思うくらいガタガタやん、この子。
「名前はキリエ、執事長の……えと、遠い親戚です。街の酒場で見習いをやっていました」
ん、過去形?
視線をセバスさんにやると、
「この屋敷に雇われることになるのですから」
へー。って心読めるのかよ。
「主の心中を察するのも時には必要でございます」
読んでる!?
現在進行形で!
「…………」
あ、黙った。さすがに無益な会話はしないよね。
「酒場ねえ……、酒場。その酒場ってそんなに良い料理出すん?俺料理や材料に詳しい人頼んだけど」
「この領地でもっとも良い料理を出すのはこの領主様のお屋敷でしょう。酒場の料理に関しては、リュウ様の想像なさるとおりで齟齬はないかと」
「じゃあ何でこの子を?」
「私から聞くよりは実際にキリエの口からお聞きになるほうが得心の行くかと。キリエ、ステンタントについて語りなさい」
「は、はい!?」
俺らが話してる間、キリエ君は話を聞いてなかったようで。すっとぼけた声で返事をする。
あれ、語れっつった?
「ステンタントは中高地に育つ直径10セノメトレほどの赤色や黄緑色をした果実を結実させる樹木です平地でも育ちますが中高地のものと比べると大きさは勝るものの酸味・甘みが薄れさらに腐りやすくなります簡単に手に入るのは平地産ですが贈答や香りを重視する料理では中高地のものを使うべきとの見方が一般的ですまた値段も手ごろですが古くからこの地方で食されている果物の一種ですので一年にもっともよく食べられる果物といえばステンタントといえるでしょう種も小さく廃棄率が少ない果物だからか丸かじりをおやつにとして与える親も多いですしかし生食が一般的で過熱して食べることはまったくといって良いほどありませんまた水分の量も多く味を染み込ませることが難しいのも生食を薦めている原因かと思われますがその水分の多さを逆に利用してステンタントジュースとして飲まれることは少なくないです果汁に加水するだけで甘味・酸味の調節が」
「ちょい待ったーーー!!!」
何この少年!?
さっきまでびくびくしてたのに何!? この無限ループみたいな口上は!?
「お分かりいただけましたか、リュウ様」
「何が!?」
「これは見ての通りの未熟者ですが知識だけは過剰に頭に入っております。知識をお求めになるならばあって困ることはないのでは? ついでに申し上げますと、キリエは街の酒場で働くよりも自分の店を持ち自分の料理を作りたいと普段から申しており、このままでは酒場見習いから先は見込めません。そこでリュウ様に預けることで、変化を期待しております。どうかこのキリエを使っていただけませんか」
あー、『俺は知識あるんだからもっとすごいことできるんだ!酒場で見習いなんかやってられっか!』みたいな状態なわけね。
正直、経験ある人のほうがありがたいけどね。でも俺だってそういう心境になったことはあって(中学二年ごろ)、却下すると罪悪感ががが。
……どーしよーかなー。
「……俺が欲しいっていった材料とかはどうします?」
「私が融通します。もしかすると冒険者ギルドに依頼することもあり得ますが」
あ、そういうことね。全部この家(領主の家)の負担だと。
じゃあキリエ君の採用は……。
「キリエくん」
「は、はい!」
「料理って、何?」
「……は?」
「だから、料理。君にとって何なのかって聞いてんのさ」
「…………」
うつむいた。
「人間は毎日何かを口にしなきゃなりません。じゃないと死にますから。だから、需要は決してなくなりません。自分が他人に評価してもらうのに料理以上に適したものがあるでしょうか」
ほう、よく言った。しかし。
「本音は?」
「!?」
「いやそれ本音じゃないでしょ。心の底から語ってみ?何言っても許すから」
「…………」
黙った。
「……………………」
黙り続けている……。俺もセバスさんもしゃべらない。
急に、キリエ君が顔を上げて、
「母との思い出です!!」
言った。
うむ。
「採用」
「え?」
「だから採用って。明日から来てね、早速料理するから」
「え、あ…………はい!ありがとうございます!」
「良いようですね。では、失礼します」
セバスさんがキリエ君とともに退出。
俺は息を長く吐く。
…………。
あそこでキリエ君に鎌かけたのは何の考えも無い、ただの直感だ。当たるとは思っていなかった。
「まあ、いいか」
生まれて初めての面接官は上手くこなせたようだ。