召還主の元への帰還・異世界講義
「で?しばらく放浪して何か私に言うことある?」
怒った様に見えなくも無い顔で俺をにらむカリア。
ん?いきなり何がなんだかわからん?
状況説明すると、いくつか依頼こなして数日冒険者として働いて、そんで召還主のところに戻ってきたらこの通り。
俺にもワカラン。
……。
質問は、『何か言うことあるか』だな。
「まず、食べ物が少し貧しげな感じだな。この世界の標準がどんなもんか分からんけどももう少し食べるものが豊かなほうが良いと思った。
それと街を一通り歩いてみたけど、あの規模の街なのに治安は行き届いてるみたいで、スラムとかがあるもんだと思ってたけど無くて感心した。
でも街の人たちを見たり会話したりすると読み書きそろばんとかを習わせることが必要だと思う。街の中での依頼をやってみたけどそれをひしひしと感じたかな。
ついでに言うけど図書館とか病院とか、そういうものが必要じゃないか?あって便利に思いこそすれ不便なものじゃないだろ?」
とりあえずこんなところか。時間があればもっと言えるだろうけど。
「…………」
カリアを見ると、口を開けてあっけにとられた顔をしていた。
しばらくして、
「そーいうことじゃなぁーい!」
怒鳴った。
「私が言わせたかったのは、誰の加護も無く生活して、依頼とか危険な目にあって、それで私のありがたみを感じてるって分かるような言葉!領地の情報収集とか誰も頼んでないわ!!」
何だ、違ったのか。
「ありがたみっつってもねえ。依頼は軽くこなせたし魔法とか使ったし。さすが召喚補正、魔法も自由に使えるけど腕力とか体力とかも上がってるみたいだ。知力とかまで踏み込んで能力アップしてるのかはわかんないけど」
「あらそう。あんた結構良い能力補正持ってんじゃない。正直予想以上ね……って、そうじゃないでしょうに」
はあ、とため息をつく。
「いきなり外に放りだした私もちょっと悪かったかと思ったんだけど、その様子じゃ全然問題なかったみたいだし、別に罪悪感感じる必要なかったのね」
「いやそこは感じろよ」
罪悪感ぐらい感じてくれないとこっちが腹立つ。
「で、あんたがいないうちに気付いたんだけど私あんたにこの世界の説明全くしてないじゃない。だから、これから説明するわ」
ありがたいんだが突然だな。
◇◆◇◆◇◆◇
「とりあえず何から説明しようかしら……そうね、根本的なとこからにしましょう。
この世界の名前はフリゲリュートって言って、最上神フリゲリオスが作った世界だからフリゲリュートね」
なるほど、フリゲリュート世界か。
「フリゲリオスがしたのはこの世界をつくることだけ。あ、いろいろな神様も作ったけど」
「神様が神様作ったん?」
「そう、上級神6柱ね。火、水、木、金、土、光」
「それぞれの名前は?」
「あるけど、あんたそれ全部覚えられるの?覚えることまだまだたくさんあるよ?」
確かに、まだ話し始めのさわりじゃないか。無理に頭に詰め込もうとする必要はあるまい。
「覚えるの無理そうだから、続けて」
「……いまさらだけどその態度直しなさいよね……
で、その6神がまたたくさんの神様を作って、いろんな神様ができたってわけ。あ、忘れてたけどリファリオス、光の神様は闇の神様も兼ねてるわ」
光は闇を兼ねる、名前はリファリオス。
覚えることたくさん出てきそうだな……。
「質問」
「許す」
「その神様の話って、そういう神話があるの?」
「今話してるのは神話の大筋だけど、あんまり詳しい書とかは物語性より文献としての性質が強いせいで、あんまり出回ってないし実はフリゲリュート神話って文献によって話が食い違ってるのもあるし、どれが絶対に正しいとか分からないの。だからこれは神話の一般論ね」
なるほど、あいまいなんだな。
「で、その神様の例を出すと、武器の神様、防具の神様、商売の神様、農作物の神様、鍛冶の神様。天秤の神様なんてのもいるから、おのずとその数は知れるわね。
神様は神様でドラマがあったりするんだけど、省くわよ。
人間のほうは、『神たくさん作ったのはいいけどそれだけじゃ意味ないんじゃ?』ってなって6神が協力して作ったの。フリゲリオスが作った世界には魔物とか動物とか植物はいたけど人間はいなかったのね。それはそれで、魔物と人間のハーフとか、エルフとかドワーフとか魔族とかいろいろできたんだけど」
「うぅわカオス」
「かおす? かおすってなに?」
「えーっと、なんだかすごいって気持ちのときにいう感嘆の言葉」
俗語、スラングだから説明求められても困るんだけど……
「あ、質問」
「どーぞ」
「それってどれくらい昔の話なの?人間が造られたって言うから相当昔なのはわかるけど……」
「どれくらい昔って言われても……そうね、後で話す話にもかぶるけど、今現存してる一番古い国の歴史が1500年前から文献が残ってるのね、その文献に書かれてることを総合して考えると、二千年前には国って物が存在したといわれてる。だから人間が作られたのはそれよりは前でしょうね」
へえ……はっきり分かっちゃいないんだな。
「何よ、そんな必要あるの?何年何ヶ月何日何時間何分何秒前に神様が人間を作りましたなんてものを知る必要が」
いや、無いけど。でもカリア、お前話してる内容がガキの口げんかと同じだぞ……
「うるさいわね。私これでも18歳よ?教会でも結婚が認められる年齢なんだから」
「え、マジで?14か15くらいにしか見えないけど?」
「う、うるさーい!学院でも全生徒中で背が一番低かったしお母様も若作りだけど、だからってそこまで言うこと無いじゃない!!」
「いやお前の両親に会ったことねえし」
「父様と母様は他の領地に請われて出張指導に行ってるわ。あと、ちょうど一年もすれば帰ってくるけど」
出張指導?つか娘一人置いてどっか行くとか、いいの?
「父様はとても優秀だし、財政危機のとこが助けを求めるのもある意味当たり前のことじゃない?
ていうか、だからあんたがさっき街の批判とかした時に驚いたのよ……」
「あー……悪い意味は全くなかったんだが……。悪かった」
「まあ、とかく生活の場ってのは変化し続けるもんよ。常に問題無しの町のほうがおかしいわ」
「そりゃそうか」
つーかこいつ一国の主の娘なんだな。初めて知ったぞ……
まあ名家であるとはこいつの口から聞いたが。しかし、ねえ。
「一国の主の娘とか、それ最初に言えよな……」
「あら、言ってなかった?言ったと思ってたけど。
それと、一つ勘違い。ここは国じゃなくて領地よ。あんたの勘違いが無くても説明はするつもりだったけど、国ってのは数少ないわ。たいていどこも領地って名乗ってる。実質、形態は国も領地も変わらないけど……。
国じゃなくて領地って名乗るのは、『国』っていうとなんか自分たちで作ったみたいで自惚れてるみたいってことで、神様の作った世界を借りて治めさせてもらってます、って意味で借地っていうのが成立し始めて、それから領地、っていう風に名前の変遷があったの。どこも中身は変わんないのにね。だから、借地、領地、国ってそれぞれ名乗ってる土地があったら、」
「国、借地、領地の順番で歴史が長いことになるな」
「そ、そういうこと。もちろん、例外もあるからね!?」
ビシィッ、と人差し指を突きつけてくる。
このちびっ子には負けず嫌いな点とかあるらしい。
「今変なこと考えてなかった?」
「メッソウモアリマセン」
怖ぇー。オーラがどす黒ぇー。
言葉が片言になるくらい怖かったZE!
「あ、学院って言った?学院ってなに?」
「反応遅すぎるわよ。学院ってのはオーステリア王国にある、最高の教育機関よ。オーステリア王国総合学院、たいていの領地の子どもはどんなに遠くてもここに行って勉強して帰ってくる」
「たいてい?それにどんなに遠くてもって?」
「まあ、支部が一応あるんだけど、本当にものすごく遠くね。支部と本部の距離って、50グルメトレぐらいだったかしら。あ、ここから学院までは20グルメトレぐらいね」
「まて、そのグルメトレってのを説明してくれ。距離の単位なのは分かるが……」
「あ、そんなことも説明しなくちゃならないの?もう、面倒くさいなあ……」
そんなこと言ってないで、召喚した人間として責任持って説明してくれよ。
「はあ。まずメトレって単位があってね。1000メトレで1クルメトレ、1000クルメトレで1グルメトレ。で、1メトレってのは」
部屋の中を視線をめぐらせて何かを探す。
小さめの椅子で視線が止まる。
「あの椅子の高さが1メトレよ」
その高さを見るに、約一メートル。
メートル=メトレ?
1クルメトレで1キロメートル、1000クルメトレは1グルメトレ……1000キロメートル?
そしてある建物とある建物の距離は50グルメトレ、5万キロメートル?
…………は?
「いやいやいやいやいやいやいやいや」
「な、何?急にどうしたの?」
地球一周は4万キロメートルだ。
「なあカリア、学院本部からみて学院支部は東西南北どの方角だ?」
「えーと、真西」
「世界を旅してたら、一方向に進んでたはずなのに反対の方向からもとの場所に帰ってきた人とかいる?」
「は? なにそれ、そんな人いるわけないじゃない」
「北に行くほど寒いとか南にいくほど暖かいとか、そういう話は?」
「? 火山に近いと暖かくて高山地帯だと寒いってもんじゃないの?
あ、でも北に旅し続けたら少し涼しく感じるようになったって人は学院で聞いたことあるかも」
「やばい、この世界広すぎる……」
五万キロメートルが距離として普通に出てくる世界ってどうよ?北に旅しても寒くならない世界ってどうよ?
世界を作った神フリゲリオスよ、ちょっと大きく作りすぎだ。
「何よ、世界って広いもんでしょ?」
「広すぎるんだよ。えーと、俺のいた世界は40グルメトレより向こうが無い世界だった」
語弊があるが、言いたい事は理解してもらえるだろう。
「え、そんなに狭いの、あんたの世界?」
「だいたいな、この国……じゃなかったこの領地の端から端までで何クルメトレだ?」
「50。50クルメトレ」
「そう、その大きさの領地で、一生領地から出ない領民だってたくさんいるんじゃないか?グルメトレなんて、日常的には使うことのない単位だろうに」
「そんなこと言ってもあるものは仕方ないじゃない。もともと、二歩で歩く距離が1メトレ、ラッセルで一分に進む距離が1クルメトレなの。その発展系がグルメトレ。あ、ラッセルは車を引く、馬みたいな動物ね」
ん、想像は用意だが、じゃあ馬は使ってないのだろうか。
ついでに、一分で一キロメートルなら時速60キロ。
俺は馬に詳しいわけではないので早いのかどうかワカラン。が、これって速いよね、どう考えても。
「じゃあ一時間足らずでこの領地の端から端まで?」
「んなわけないでしょうが。道が直線ならそうでしょうけど、現実は二時間かそれくらいね」
一つの地域の端から端までが二時間、これってどうよ?
「あーもう、ちゃっちゃと説明終わらすわよ。学院が遠いって話なら、多少はどうにかなるわ。領主が保管してる転移の魔具を学院の生徒用に使用を許可するって約束を、学院が各領主としてるから。もちろん持ってる領主とだけね。うちには無いわよ」
「へー……って、それって学院からその国まで、往復可能?一方通行?」
「往復可能」
「学院って言うくらいだから相当強い人とかいるんでしょ?それって、いつでも侵攻される可能性があるってこと?しかも逆もあり?」
「まず、転移の魔具は一度に一人しか通れない。学院がそんなことしたら公明正大のオーステリア王国のイメージと信用がゼロ。逆に学院に攻めていってもオーステリアに勝てるわけないし、信用がまたゼロ」
なるほど、よく分かるのはオーステリアって国がかなりの強国だってことだ。
「そう、オーステリア王国はこの世界で知らない者の方が多いでしょうね。
で、やっとこの領地の話に入るわよ。あー長い。
この領地は南北に50クルメトレ、東西に50クルメトレの、この辺では大きい領地よ。名はラジェストリ領、接する他の領は7。領主の父様の手腕は近隣に鳴り響いたものよ」
やっとこの領地の名前を聞いた。遅すぎるよ。
「しかしカリアはいろんなことに詳しいな」
「何で今更そんなことに気付くのかしらねえ……そりゃ学院でほぼ一番の成績を取ってたんだから詳しいに決まってるじゃない」
自慢げに言うカリアだが、
「そんなに頭良かったのか」
「どういう意味よ!」
こうして異世界講義は終了した。
神様の数え方はひと柱、ふた柱だそうです
この世界独自の単位とか考えるの大変だったので距離だけにとどめ、時間や重さなどは現実と同じにしたいと思います。
あ、文中の若作りの意味違うかも。。。
あくまで目標ですが、召喚されてから一年を一つの章として20ぐらい載せ、その後を二章としていきたいと思っています。
三日(ryなので一章すら終わるかどうか……が、頑張ります(汗