鳥刺し・角馬との邂逅
鳥が好きな人はちょっと注意。
簡単に依頼達成したわけだが、達成したという証拠に特定の部位を持ってくる必要があって、それが鼻。確かに特徴的だし一個体に一つしかないし、証拠にはちょうど良い部位だよな。
「……しまった、いやなこと思い出しちった」
何を思い出したかというと、秀吉の朝鮮出兵。殺したかどうか確認のために耳を切り取って送らせたそうだ。当たり前だが届くころには腐っていたらしい。
これを何かの本で読んで、想像して気持ち悪さに微熱を出したことがある。小学校のことだったな。
それがきっかけになったのかもともとそんななのか、俺は気持ち悪い系のものが苦手だ。バイハとかやったこと無い。
「……さっさと持っていこう」
もうちょっといようと思っていたが、もう戻りたくなってきた。
踵を返して帰り道を思い出す。召喚前に方向オンチだった記憶はないが、今はかなり記憶力が高くなっているようで、どんな道を通ってきたのか、目印の木、小さな池、細部まで思い出せる。
「よっしかえ「バサバサバサッ!!」
うおう!?
ものすごい勢いでいろんな鳥が飛んでいった!
しばらくたってもそれ以上何もおきなかった。
なんだったんだ?
考えてもしょうがないと思ったので歩き始める。もしかしたら至極つまらないことで驚いて飛び上がったのかもしれないし。
「止まれ、そこの男」
「どっしぇい!?」
驚きの余り変な声を出してしまった。
仕方ないだろう、誰もいないと思っていた方向からいきなり人の声がしたら驚いて当然だ。
「止まれといっている。動くなという意味だ」
しゃべっている人の姿を確認する。
髪は肩ぐらいまで。女の人だ。白いギリシャ的な雰囲気の服、しかしあまりゆったりとはしていない、無駄を削ぎ落とし動きやすさを追求したと一目で分かる簡素なデザインだ。
そしてこっちへまっすぐ向けている金属の棒。如意棒の両端を切り落としたらこんな感じ(つまりただの棒)だろうが、その先端はものっそい尖っている点が違う。というかこの棒、鳥とかめっちゃ刺さってんですけど。5羽くらい? 乾いていない血が恐ろしい。
それだけでもなんだか変な(変すぎる)人だが、その横には角の生えた白馬がいてこっちを見ている。ユニコーン。ユニコーンっているんだなあ、さすが異世界ファンタジー。
「……その槍っぽいものを収めてはもらえませんか」
「先ほどから尋常ならざる魔力を放出していたのはお前か」
無視された……。
「無視しないでください。槍収めてください」
「断る。さっさと質問に答えろ」
第一印象最悪じゃない、この人?
「魔力って言うと……まあはい、さっき魔法バンバン使ってたんでそうかもしれません」
「やはりか」
なんか確信持ってうなずいちゃってるし。そんななら訊かないでよ。
「何者だ」
「えーと、名前は淡路島流ですが」
「アワジシマ?聞かぬ名だな」
そりゃそうだろう。
「出自、二つ名など、まだ言えることがあるだろう、言え」
うぅわ答えにくいことを。異世界から召喚されましたてへぺろ!とか言えるわけ無いじゃん。あと二つ名とか知らないし。
「出自は、まあその、すごく田舎です。村の名前も無いほどの」
「二つ名は」
「最近村から出てきたばかりで、二つ名ってよくわかんないんですけど……」
すると納得した顔をして、女の人はやっと槍もどきを下ろしてくれた。
「成る程な、名を聞かぬわけだ。二つ名がないのもうなずける」
納得してくれたのはいいけれど、地面を向いた槍もどきから血が滴って怖い……!
「二つ名は本名のほかに付く名だ。ゆえに『二つ』名だがな。その者の特徴に沿って付けられることが多い。正にこの私のように。
私の名はアリア・ジングシュピール。『鳥刺し』の二つ名を持つジングシュピールの次期当主だ」
鳥刺しって、鳥を刺すから鳥刺し?だからさっき鳥が一気に飛んでいったのか。
「仮初めにも我が主よ、我のことも紹介してはもらえぬか」
ユニコーンがしゃべった!こいつ、しゃべるぞ!
「自身にできることは自身でしたらどうだ」
「やれやれ、我はもう少し誇らるるべき存在であると思うておったのだが。思い違いであったならば悲しきことよ。
我の名はウルクトゥス、『歓談』の二つ名を持つ角馬よ。魔法の使い手よ、慢心は厳禁ぞ、精進こそ生きる道と知れ」
「説教好きなユニコーンだ、全く。口よりもその立派な角をもっと良いことに使ったらどうだ?」
「刺すのは主の仕事であろう。もとより、この角は角馬の象徴に過ぎぬのだ」
あ、ちょっと俺置いてきぼり的な?じゃあ帰って良いかな?
「おっと帰ろうとするなよ。まだ話が終わったわけではない」
ユニコーンのウルクトゥスが哀れむような目で見てくる。
じゃあとめてくれよ!
「お前は強い。魔力の量さえ尋常ではない、おのずとおまえ自身の器さえ測れようというものだ。どうせさらに強くなるのは目に見えている。二つ名をつけてやろう、お前のことを覚えておくためだ」
いまさらだけど上からだよねこの人。
「二つ名は自然に付くものと自ら名乗るものと二つある。自然に付いたのではお前だと分からん。私がつけてやってもよいが、何か希望はあるか?」
少し考える。
「じゃあ……万能で」
いろんな魔法使えるし、嘘にはならないよな、とおもって言っただけなのだが、
「!…………ッ、ハッハッハッハ!
鳥刺しのアリアさんは目を丸くしたあと、豪快に笑い出した。
隣のウルクトゥスも苦笑している(馬が苦笑?とかは禁句)。
「ックク、本当にたいした田舎からきたんだな、お前は。知らないようだが万能は最上神フリゲリオスのみが持つ二つ名だ、人間が名乗ることは無いんだ」
「人間に限らず、どのような獣も名乗らぬがな」
……何つーか、意図しないところで田舎出身という嘘を強化できたようで、まあ、喜ぶべきだろう。
そりゃこの世界のことを知ることができないほどの田舎でしたよ、どうせ。
「とりあえず……魔法の使い手でどうだ。ウルクが言ったこれで良いだろう」
「異論なしです」
「よし、お前の二つ名は今この瞬間から魔法の使い手だ。名を売れ。いずれ手合わせしよう」
それを捨て台詞に、『鳥刺し』アリアさんはどっか言った。帰ったんだと思うけど。
さて、とうとう変な人から解放された。これでやっと帰れる。
ところで……魔法と槍もどきで、どうやって手合わせしようというんだろうか?
これに関して、すごくつまらない小説を書いたとおもっておりますorz