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最高の贈り物 1,沙希

なんか頭から出てきたので、書きました。別編も書くので、もしこれが面白かったら、読んでやってください。

 「はぁ…。」



 今時珍しい、木板の張り付いた鉄パイプ製の机。

それに頬杖をつきながら、沙希は空に浮かぶ雲のかたまりをぼーっと見つめていた。



 (私って、なんてツイてないんだろう。)



 何故、この世には学校なんて忌まわしい建物があるのだろう。


 さらに言えば、何故この世にはテストなんてものが存在するんだろう。






 明日から学期末テスト、しかも1週間丸々である。

 オマケに、無断アルバイトが見つかり、1週間謹慎が終わった直後だったりするのだ。

 だから、勉強などしているハズがない。

 何せ、ついさっきテストがあることを知ったからである。




 (…もう考えるのはやめよう。)



 沙希は机に寝そべり、瞬く間に眠りに落ちていった。













 学校の帰り道、私はある店のショーケースに見入っていた。 視線の先にあるのは、綺麗な模様のベルトの付いた、ブランド物の腕時計。


 (…かわいいなぁ…欲しいなぁ…。)



 しかし、ブランド物だけに相応の値段である。

 バイトのできない沙希には、とても手の届かない代物だった。


 (…バイトが見つかりさえしなければ。)


 沙希は金欲しさに休日出勤したことを後悔した。

 休日にバイトに出たことで、たまたま店に通りかかった担任に見つかるとは。

 これも、彼女が自分に運がないと思う原因のひとつだった。




 ふいに、目の前を黒い物体がよぎった。




 猫だった。



 彼は、沙希の目を一瞬みて、すぐに逃げていった。



 (…不吉…。)


 (もう救いようがないなぁ…。幸運を呼ぶにはどうすればいいかなぁ…。逆に白猫でも飼おうかな…。)

 などと気晴らしに考えてみるが、沙希のテンションはさほど上がらなかった。






 (そろそろ、何かいいことないかなぁ…。)



 そんなことを考えながら、腕時計をあきらめた沙希は家路を歩いていった。










 誰もいない自宅。



 沙希の家は母子家庭である。


 沙希の父親は沙希が三歳の時、脳梗塞で死んだ。


 それからは沙希の家族は母だけになった。



 母はどんなに生活が苦しくても、いつも優しかった。


 沙希は、そんな母が大好きだった。

 バイトをしていたのも、本当は母にプレゼントを買うつもりだったからだ。




 その母は、まだ仕事から帰っていなかった。


 最近母は仕事が忙しく、ほとんど家にいなかった。

 このところ沙希は、母と顔を合わせていなかった。

 しかし、二人はよく電話をするので、親子間の会話はほかの家庭よりも多いくらいだった。


 今日も、帰るのが深夜になると電話があったところだ。




 今、沙希目の前には、見慣れない赤色の大きな封筒が置かれている。

 さっき、郵便受けに入っていたのに気づき、持って入った物だった。



 (…なんだろう…。)


 真っ赤な封筒を部屋の電気に透かしながら、沙希は思った。


 しかし、赤い封筒の中身は、電気に透かしただけではわからなかった。


 (いいや。あけちゃえ。)


 好奇心に誘われるまま、沙希は赤色の封筒の口を開いた。


 口を開いた赤い封筒は、まるで化物が肉塊を吐き出すかのように、中の物体を出した。




 …それは、数枚の紙だった。

 なにやら文字がびっしり書いてある。



 沙希は、それが何か一瞬考え、そして

「信じられない」

と思わず口走った。




 それは、学期末テストの答案用紙だった。


 そしてそれの重要性を理解した沙希は、口元がゆるんだ。



 (これがあれば、期末テストなんて簡単だ。)


 そう思ったと同時に、沙希は、考えた。



 (誰が贈ってくれたんだろう…。)



 封筒の中を覗いてみると、メッセージカードらしきものが入っていた。









 『 試験に悩む貴女へ 貴女の欲しいものを 贈ります。  〜赤〜 』







 (何…これ…。)


 沙希はその不思議な文面を見て思った。

 …なぜ私がテストで悩んでいるのを知っているんだろう…。 …何の目的でこんなものをくれるのだろう…。


 …『赤』って一体なんのことだろう…。




 考えるとキリがなかった。

 しかし、今は明日の期末テストのことを考えよう。

 沙希は迷わずさっきの答案用紙を使った。



 誰が贈ってくれたのか、目的は何なのか、そんなことは今の沙希にはどうでもよかった。 


 沙希は、テストをクリアすることしか頭になかった。




 気付いたら、すでに12時を少し過ぎていた。


 (これだけ覚えれば明日のテストは大丈夫だろう。 今日のところはこのへんにして、もう寝よう。)



 沙希は部屋の電気を消し、ベッドにもぐり込んだ。




 沙希は、この贈り物のことを母には何も言わなかった。

 それを活用すると決めた時点で母には決して言えるわけがなかった。











 1週間続いた地獄の期末試験は、例の贈り物のおかげであっさりと片付いた。

 自分でも驚くほどのテストの出来に、沙希は半ば高揚しながら下校した。


 一緒にいた友人が、 「なんか顔がニヤついてるけど、なんかあったの?」

 と聞いてきたときに、危うく贈り物のことを言ってしまいそうになった。


 しかしなんとかこらえ、 「ヘッヘェ〜、内緒。」

 などと、適当にごまかした。



 テストを終えて気分のいい沙希は、贈り物の送り主のことなどほとんど忘れかけていた。









 しかし、すぐに思い出すこととなった。

 郵便受けの中に、真っ赤な箱が入っていたからだ。


 「あっ…。」


 沙希は思わず声をもらした。


 沙希は迷わず手に取り、自分の部屋へと持って入った。



 箱は手のひらにのるぐらいの大きさで、これまた深紅のリボンでかわいく包装されていた。



 (今度は何が入っているんだろ…。)




 リボンをほどいて箱を開けると、中には見覚えのある腕時計があった。



 それはまぎれもなく、ショーケースの中のあの腕時計だった。




 (ウソ…。)


 予想外の贈り物に、沙希は喜んでいいのかどうか迷った。




 箱には、腕時計とともに、前と同じ赤いメッセージカードが入っていた。



 『ガラスの向こうを眺める貴女へ 貴女の欲しいものを 贈ります。  〜赤〜 』




 (わぁ…。答案の次は腕時計だ…。なんであたしの欲しいものがわかるんだろ…。)




 (…まさか…ストーカー?)



 瞬間、沙希は危機感を感じた。


 (どうしよ…。警察に行ったほうがいいかな…。)



 しかし、沙希は警察に行くわけにはいかなかった。 警察に行けば、答案用紙のこともいわなければならない。 答案用紙のことが学校に知れれば、身の破滅だ。 お母さんも悲しむにちがいない。


 そう考えた沙希は、警察に行くのをためらった。


 しかしだからといって、このままにすれば、いつか取り返しのつかないことになるかもしれない。



 沙希はとりあえず、母が帰宅するのを待つことにした。

 (帰ってきたら、このことを話そう。 お母さんは今日明日は帰ってくるのが早いから、明日一緒に警察に行こう。)




 まもなくして、母が帰ってきた。


 「どーしたん?なんかあったの?」




 「うん…実はさ…。」



 その時、沙希ははっとした。


 「あ…ううん。なんでもない。」



 「…? そう?」






 …母に言うわけにはいかない。

 母を巻き込みたくない…。




 ついに母に話すことができないまま、沙希は眠りについた。


 (明日にしよう…。)


 沙希は母に言えなかったことに少し後悔したが、これでいいんだと自分に言い聞かせることにした…。










 (…ん)



 時効はすでに正午だった。



 (やば…遅刻…! あ…今日土曜だった…。)


 ほっとため息をつき、しばらく睡魔に浸る。




 母はすでに仕事に行ったあとだった。



 テーブルの上に郵便物の束が置かれている。




 ―その中に、大きめの赤い箱があった。

 例によって、綺麗にラッピングされている。




 「また…ある…。」



 恐る恐る手に取ってみる。


 ずしりと重い。



 (今度は何…?)




 開けるのは怖い。しかしこのままにもできない。


 少しためらって、沙希は箱を開いた―。








 「ヒッ…!」



 中にあったものは、沙希を嘔吐させるのに十分なものだった。



 「うっ…!うえぇ…!」



 床に昨日の夕飯をぶちまけた。


 鼻につんとくる胃液のニオイが、沙希の目に涙を滲ませた。






 『幸運を願う貴女へ 貴女の欲しいものを贈ります。  〜赤〜 』



 箱の中の…今は真っ赤に染まったバラバラの白猫の横には、いつものようにメッセージカードが添えられていた。




 「何で…? どうして…?」



 嗚咽まじりに、誰にともなく呟く。




 (どうしよう…。 どうしたらいいの…?)




 震える手でなんとか携帯を手に取り、母を呼び出す。



 (早く…早く出て…。)


 何度かコールが鳴る。



 (なに?)


 いつものやさしい母の声だ。



 (お母さんっ! お願い! はやく帰ってきてっ!)




 (ちょっと? どうしたん?)



 沙希は赤い白猫のことを母に話した。




 「わかった。 すぐ帰るから、家で待っとくんやで!」




 電話が切れる。


 途端に今自分が一人だったこと思い出し体が震え出す。







 どうしてこんなことになったんだろう…。


 沙希は冷静になろうと、今までの出来事を思い返した。



 理由もなく贈られてくる贈り物。 中には、私の欲しいものが入っている…。 まるで、私の考えていることをしっているかのように…。 そして、送り主『赤』。 




 どれだけ考えても、なにも思い当たることがなかった。




 (お母さん…。 早く帰ってきて…。)




 これほど時間が長く感じられたことはなかった。




 車の止まる音がした。


 (お母さんの車だ…!)



 インターホンが鳴る。



 (帰ってきた…! お母さん…!)



 沙希は急いで玄関の鍵を開けた。









 開けた瞬間、沙希の肩に何かがもたれ掛かった。




 それは、透明なビニールと赤いリボンで包装された、血まみれの母だった。


 母は、恐怖に歪んだ顔のまま、ずっと正面を見ていた。






 突然、沙希のまわりに大きな音が響いた。



 それが沙希自身の悲鳴とは、沙希は気付くことはなかった。







 失神した沙希の傍らの母の胸のところに、赤いメッセージカードがついていた。







 『恐怖に一人で震える貴女へ 貴女の欲しいものを 贈ります  〜赤〜 』

えー…前作の『死体コレクター』を読んでくださった読者の皆様。ありがとうございました。 『死コレ4』では、女記者の最後の言葉が、ほかの小説であった、という御指摘をうけました。 確かに、あの一文は、他の先生の小説を参考にしたものです。 あくまで、「ここは、こうしたほうが面白い」 と考えた結果であり、盗作などの意志はまったくありません。 しかし、それを読まれて気分を害されたのであれば、この場を借りて、謝罪いたします。  さて、今回はシリーズものにするつもりです。全部読んでいただけたりしたら光栄です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 読みやすく面白かったです。でも次にくるプレゼントが分かっちゃう。分かっても良しな物語なのかな。
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