獣のように吼える
高校三年生でバスケットボール部に所属していて美男で頭も良い。
そのバスケ部でもエース的な存在の2人。
そんな二人、狭川俊と駒澤篤史の一生に一度の夏の物語。
夏の地区予選に向け合宿に入るバスケ部一向は、山奥にある廃校を利用することになった。在校期間は一週間で近くに小さな町があるだけ。
「なぁなぁ篤史!廃校に泊まるってドキドキしねェ?」と俊は言う。
「ああ、そうだよな。幽霊とかでるかもな。ちょっと怖いなぁ」それに篤史は返す。
「じゃぁ、幽霊が出てきたら私を守ってね二人とも!」
そう言ってきたのはマネジャーの西山由紀。
「なぁにいってんだ!?お前は後輩マネージャーの二人と三人で寝るんだろ?なぁ俊?」と篤史。
「おうよ!俺達は男の会話ってもんがあるのよ!お前の入るスペース無し!」と俊
「いや、意味わかんない。それにそっちこそ覗きとかしないでよ!」と由紀は叫ぶ。
「はっはっは!お前なんか覗いても価値がないっつ〜の!」と篤史。
「何それどう言う意味!?」と由紀は半分キレ気味で叫ぶ。
普段から気が合い、無二の親友の二人とマネージャーの由紀。ふざけた会話を廃校に向かう道を歩きながらしゃべっている二人。
「おい!お前ら!俺達最後の大会に向けての合宿なんだぞ?遊び気分でいるんじゃねェ!しかもお前らはチームの中心的な………ぶつぶつ」
バスケ部のキャプテンに一喝を入れられた二人。しかもキャプテンはその後もぶつぶつと呟く。
そして、廃校に到着した。
「一年はこの教室!二年は一個向こう!三年はここだ!荷物を置いたら寝るところの畳を敷くんだ!」
全員が協力し畳を敷いていき、三十分ぐらいで終わった。
「早速だが練習に入る!全員体育館に集合。」
全員が体育館に集合し限界を超える練習が始まった。
「はぁ!はぁっ!だめもう限界死ぬ〜〜」と篤史。
「がんばれ篤史ぃ〜これが終わった後は楽園だぞ〜」と俊。
練習の後半になると流石のこの二人も弱音を吐いていた。
そこに由紀がおちょくった言葉をかける。
「あれ〜?二人共もしかしてへばったとかぁ?根性無いなぁー」
「ふざけるなぁ。はぁはぁ俺と俊だけ他の奴の倍じゃねェか〜。」と篤史。
「キャプテンもやってるよぉ?それに他の三年6人もねぇ?」と由紀も言う。
「くそぉ〜負けるな篤史ぃはぁ、は。」と俊。
「おうよぉー」と篤史も返す。
そう言うとまたダッシュをし始めた。
「由紀!そろそろあがっていいぞぉ〜篤史と俊にもいっとけ〜!!」遠くからキャプテンが叫ぶ。
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「あ!由紀がいねェ!先に帰りやがった!!」篤史が叫ぶ。
「なぁにぃ〜?ふざけやがってぇ!!俺達はダッシュしてたんだあぞぉ−!!」と俊も叫ぶ。
「でもダメだ。もぅ怒る気力がねェ」だががっくりする俊。
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「お?遅かったな二人とも皆風呂に入っちまったぞ?」
「練習でへろへろになった二人にキャプテンの言葉がそれか?」
「ああそうだ!風呂に入って来い!」
二人は風呂に向かうが怒りの矛先はキャプテンではなく由紀に行っていた。
体を洗い風呂に浸かる二人。
「ああ!くそぉ!由紀の奴俺らだけ練習居残りさせやがった!篤史俺、一週間耐えられないあかもしれねえ!」俊は怒りをあらわにする。
「同感だぜ相棒!この状況をどうにかしねぇとヤバイぜ!…抜け出すか?」と篤史が提案。
「ああ、そうだな田舎とはいえ町はある!」それに俊も乗ってきた。
「地区予選前の合宿なのに抜け出す相談?情けない二人だねェ」
壁の向こう側から由紀の声がした。
「俊ぅ。壁の向こう側は女湯だぜェ?」
「相棒!まさか俺達………同じ事を考えてるんじゃぁないですか?」
「Thet’right!!」二人で声が合わさる。
行くぜ楽園の壁の向こう側にと、威勢よく壁につかまりよじ登る二人。だが顔を出すと待ってたかのごとく、由紀が桶を投げてきた。
クリーンヒット!二人の顔面に桶が当たる。しかも、由紀はもうすでにパジャマ姿であった。
「くっそー損した!」叫ぶ俊。
「ふっ!馬鹿め!私があんたら二人に隙を見せると思うか!?」由紀も叫ぶ。
そんな感じで1日目が過ぎ、同じように三日がたった。
そして四日目の昼食の休憩時間。
「篤史。ちょっと相談があるんだけどいいかな?」
「オウ!いいぜ」
そういって二人は、人気の無い所へ行った。
「実はな、篤史。俺さ、由紀のことさ、好きになっちまったみたいなんだ。」
篤史は内心ドキッとした。実は篤史も由紀に同じ感情を抱いていたからだ。
「相談てそれか?冗談だろ?あんな暴力的な女なんか」
篤史は本気だとわかりつつも冗談にして自分の気持ちを隠した。
「俺はふざけていってるんじゃない!!お前だってわかるだろ?本当の由紀の性格。お前が怪我した時、俺が怪我した時!由紀は丁寧にやさしく心配してくれた。俺にとって!あんなに良い奴はいない。俺は宣言しておく。俺は由紀のことが好きだ。由紀と付き合いたい。…………悪い。相談するつもりがこんなになって。」
篤史は俊の言葉に圧倒されて黙ってしまった。そうして居ずらくなったのか、俊は学校に戻ってしまった。篤史に苦悩の日々が始まった。
実は夏合宿の三日目に練習試合があって、そこでは絶妙のコンビと言われた篤史と俊の仲がしっくりいかなくなった。バスケのプレーも合宿の生活もでもそうだった。バスケはチームプレーが大切である。俊を選ぶか由紀を選ぶか。篤史はそれを考え眠れなかった。
考えに考えた末に、結局篤史は、今の自分には仲間のほうが大切だと判断した。由紀なんか俊の奴にくれてやるのだと、篤史は自分に言い聞かせた。
篤史は、由紀に対して急に無愛想になった。顔を合わせても、わざとそっぽを向くようになった。
夏の合宿最後の日。キャプテンが話しかけてきた。
「篤史。由紀が体育館裏で待っている、相談があるそうだ。俊は今練習をしている。何があったか知らないけど、最近のお前らは妙におかしい。すっきりとして地区予選に望んでくれ。」
「……わかった。」
由紀がキャプテンを通していってきた。用があるなら俺のところへ来ればいいと思ったが、もし現実にここにくれば、誰かをとうして俊に聞こえるだろう。そうなれば、これまでの自分の苦心は水の泡になってしまう。篤史は行かないわけにはいかなかった。
行ってみると由紀は一人で立っていた由紀の相談と言うのは、やはり俊のことで、俊が付き合ってくれと言ってくるのだけど、どうすればいいかと言うことだった。
「そんなこと自分で判断しろ!俊が嫌なら嫌と言えばいいじゃないか!」
ぶっきらぼうに答えた。
「違うの!俊が嫌と言うわけじゃなくて、俊じゃなくて、好きな人が居るの。」
「じゃぁ、その好きな人に相談すればいいじゃないか!」
「だって、篤史は俊の親友で……」
篤史は頭にかっと血が昇った。
「俺は俊と長い付き合いだけど俊の全部がわかるわけじゃ無いんだよ!…現に俊が由紀のことを好きということは解らなかったし。……俺なんかより、その好きな人に相談しな」
「だから、だからその好きな人に相談してんのよ!ばかぁ!」
篤史は耳を疑った。けれども由紀は何も言わずに、大きい目でまっすぐ篤史を見つめていた。篤史は体が震えてきた。えらいことになったと思った。実際、篤史はチラッと恐怖のようなものを感じた。
「馬鹿。そんなこと言うなよ。」
「なんで?…どうして?………………どうして言っちゃいけないのよ!」
「いけないんだ。どうしてもいけないんだ。そんな馬鹿な…」
その時体育館から人が飛び出していった。俊だった。篤史は由紀も気づいただろうと思い、俊のように飛び出した。しかしそれは、俊を追いかけたものではなかった。
篤史は一目散に寺の門へと駆け込んだ。石段の途中まで駆け登って、それから杉の木立の中に吼えた。
「ウオォー――!!!ウワー――!!ウオァーーーーーー!!!!!!」
勝ち誇った獣のように何度も吼えた。自分でも何がなんだかわからなかったが、篤史はとてもそうして吼えずにいられなかった。