少年少女爆弾 アナザー
少女漫画の様な出来事は、憧れていたけど、おとぎ話だと思っていた。
そのときまで。
その日は、多分熱でもあったのだろう。
ほやほやとする頭で、階段を踏み外した。
「あ」
私が言ったのか、見ていた誰かが言ったのか。
小さな声が、聞こえた。
思ったより痛くないな、階段はこんなものか。
そう思って目を開いた。
目が、合った。
やけにやわらかい床はその人の腕。
痛くなかったのは、落ちきっていなかったから。
それはまるで、どこかで呼んだありきたりな少女漫画の始まり方に似ていて。
私は。
何時もよりもキレのある技を彼にお見舞いした。
* * * * * * * * * *
「……ってことがあった」
「…………」
学生たちが羽を思う存分に伸ばす昼休み。
「少女漫画みたいだよね」
無言のまま、友人は私を見つめた。
気にせずお弁当の残りに箸を伸ばす。
今日はなんだかお弁当がおいしく感じる。
というか、何となく気分がいい。
さっきまでは具合が悪かったというのに。
「えっと、どうして技をおかけになったのですか?」
「なんとなく」
「嫌だったの?」
「?嬉しかったけど……」
本当に何となくかけてしまったのだ。
本当は、別に言うべきことがあったのに。
「相手の方はどんな方でした?」
技を外した直後、彼は凄い勢いで謝ってきた。
そういえば、土下座しそうな勢いだったな、と思い出しながら。
……謝らなくても良かったのに。
大柄なのに、威圧感と言うものを全く感じない姿だった。
困ったような顔は、たぶん、優しい顔。
「……ふわふわしてた」
そう、例えるなら、ふわふわ。
口にしたら、心までふわふわとしてきた。
「……次にあったら、ちゃんとお礼を言いましょうね」
「…………(こくり)」
口に含んだまま、何も言わずに頷いた。
* * * * * * * * * *
「今日は何にしましょう?」
「モンブラン」
その日の放課後。
何時もの様に喫茶店によって帰ろうとしていた。
「今の季節にぴったりですね……あら?」
何かに気づいたのか振り返る友人に釣られて後ろを見た。
目が、合った。
どきん、と心臓が跳ねる。
私は、言わなくてはいけない。
そう思って、数メートルの距離を駆け。
「ぐえふっ!!」
彼の鳩尾に思い切り飛び込んだ。
彼の友人だろうか、叫び声が聞こえる。
気にせずに私は友人の元へ駆けた。
「…………」
「…………」
「…………やっちゃった」
「次は、頑張りましょうね」
「…………(こくん)」
彼女の言葉に、無言で頷く。
言わなくてはならなかった、あの時のことを。
またついぶっとばしてしまったけれど、次こそは頑張ろう。
次の日、登校時に見かけた彼へとりあえずローリングソバットをかました。